ハラビロトンボ

腹広蜻蛉 (トンボ科)


2002/4/10 袖ケ浦市下根岸 / NIKON NewFM2T + AF MicroNikkor 105mm F2.8 /Kodak Kodachrome PKL200

 やや小型のトンボ。和名は腹部が上からつぶされたように扁平で、幅広く見えることに因む。飛翔はかなり緩やかだが人の気配には敏感で、結構近寄りがたい。草丈が低く、抽水植物の繁茂する日当たりのよい湿地や沼沢地を好み、県内全域に棲息しているが、都市部ではまず姿を見ることはない。幼虫は冬季などほとんど水が干上がって他のトンボが全滅してしまうような状況であっても、泥の中に潜りこんで生き延びることができるという。
 写真は、袖ケ浦市下根岸で4月下旬の正午過ぎ、草原の草上で休む亜成熟♂。未成熟時は雌雄同型で、♀は成熟してもほとんど変わらないが、♂は成熟すると全身が黒化した上、主に腹部に白粉を吹く。♂より♀のほうが腹部は広く、やや下膨れ気味の外見である。シオヤトンボに似るが、それよりはるかに腹部が扁平なので簡単に区別できる。
 未成熟な個体は水域を離れ、近くの林縁ややや日当たりの悪い草原などで栄養飛翔を行う。成熟すると水域に戻り、♂は抽水植物の茎などにとまって縄張りをつくり♀を待つが、近縁の他種のように縄張りを巡って激しい空中戦を行うことはあまりない。水田などにも適応した種であったが、開発や水田の乾田化、耕地整理などによる環境改変でかなり個体数が減っており、比較的珍しいトンボの部類に入ってしまった。北総地域ではすでに見かけなくなった場所も多い。



ハラビロトンボ (トンボ科 トンボ亜科)
Lyriothemis pachygastra (Selys, 1878)
分布 国内: 北海道(南部)、本州、四国、九州。島嶼では対馬、種子島。
県内: 市街地を除き全域に分布するが、北総地域では個体数がきわめて少ない。
国外: 朝鮮、中国(華中)に分布する。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 未成熟個体はほぼ同型。成熟個体は異型。♂は成熟すると全身が黒化する。
生態 環境: 止水性。平地~丘陵地。湿地や休耕田。底質は泥、水質はやや濁ったあるいは濁った陸水。開けた明るい環境を好む。
発生: 年1回。4月上旬~9月上旬に見られる。成虫の出現期間はかなり長い。
越冬: 幼虫。幼虫は冬季に完全に水が干上がっても生き延びることができる強さを持つ。
行動: 昼行性。静止時は翅を開いて地面や草などに平らにとまることが多い。飛翔はかなり緩やかで、長く飛び続けることはない。羽化直後の未熟な個体は♂♀共に水辺を離れ、雑木林の林縁や草原などで栄養飛翔を行う。成熟した♂は水辺に戻り、植物などにとまって縄張りを確保し♀を待つ。♀は主として単独で連続打水産卵するが、♂はその際上空でホバリングし、♀を警護する。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカなど)。
成虫: 捕食性。小型~中型の鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種:
保 護: 千葉県:、千葉市:、東京都:(区部)/(北多摩・南多摩・西多摩)
その他: 特に北総地域で減少傾向にある種。
天敵 捕獲: ヤンマ類や大型のサナエトンボ類、ハエトリグモ類、造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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