ヤマサナエ

山早苗 (サナエトンボ科)


2002/5/22 袖ケ浦市吉野田 / NIKON F100+AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 すらりと均整の取れたスタイルの大型のサナエトンボ。日本産のサナエトンボではコオニヤンマに次ぐ大きさである。晩春から初夏にかけて、主に千葉市以南の房総丘陵を流れる河川中流域周辺の雑木林で休息したり、栄養飛翔する未成熟個体を見かけることが多い。和名はこの習性に因むが、これは本種に限ったことではない。
 写真は、袖ヶ浦市吉野田で5月下旬の正午過ぎ、川の近くの畑に植えられた栗の葉上にとまって休む未成熟の♀である。複眼は未成熟のものでは写真のとおり汚緑色だが、成熟すると♂♀共に鮮やかな緑色になる。♂♀同型で斑紋などには差が現れないが、腹端を観察すれば区別は容易。近似のキイロサナエに酷似するが、翅胸部の斑紋が異なり、腹端の形状が♂♀それぞれ異なるので、慣れれば見分けるのはそれほど難しくはないが、写真では結構判別が難しい。ただ、キイロサナエの翅胸部の斑紋については変化があって紛らわしい個体も多いので、腹端を見たほうが確実である。互いによく似た環境に棲息するが、キイロサナエより本種のほうがはるかに個体数が多いようだ。
 羽化した個体は♂♀共に、周辺の日当たりのよい樹林周辺に移動して栄養飛翔を行う。成熟♂は水辺に戻り、地上などにとまって縄張りを確保する。他県では棲息地での個体数はそれほど少なくはないが、県内では個体数はあまり多くない。また房総丘陵の河川中流域は近年盛んに開発されている地域でもあり、減少傾向が認められる。



ヤマサナエ (サナエトンボ科 サナエトンボ亜科 ホンサナエ群)
Asiagonphus melaenops (Selys, 1854)
分布 国内: 本州、四国、九州。島嶼での記録はない。
県内: 市街地を除くほぼ全域に棲息するが、房総丘陵の河川中流域が中心となる。
国外: 日本特産種。国外には分布しない。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節:
性差: 同型。腹端の尾部付属器を観察する必要がある。
生態 環境: 流水性。平地~丘陵地。抽水植物の多い用水路や湿地の緩流、河川中流域で、底質は砂泥、水質はやや濁った陸水。谷津など開けた明るい環境を好む。
発生: 年1回。4月中旬~7月上旬に見られるが、各産地での羽化の時期はかなり斉一的。県内では4月下旬~5月に多い。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性。静止時は翅を開いて平らにとまる。飛翔は比較的緩やかで移動性は弱いが、羽化直後の未熟な個体は♂♀共に水辺を離れ、付近の雑木林などの林縁で栄養飛翔を行う。成熟した♂は水辺に戻り、川岸の岩や堤防の上などにとまって縄張りをつくり♀を待つ。♀は空中をホバリングしながら卵塊を排出し、単独で打水産卵する。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカ、クチボソなど)。
成虫: 捕食性。鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型~中型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種: キイロサナエに酷似するが、翅胸部の斑紋と生殖器の形状が異なる。
保 護: 千葉県:、千葉市:、東京都:(区部)/(北多摩)/(南多摩)、神奈川県:
その他: 産地はやや局地的だが、良好な産地での個体数はそれほど少なくないようだ。
天敵 捕獲: 大型の造網性クモ類。
寄生: 不明。

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