サラサヤンマ

更紗蜻蜒 (ヤンマ科)


2003/6/3 木更津市中尾 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 晩春から初夏にかけて、木立に囲まれた湿地の周囲の狭い空間を旋回飛翔する体の細い小さなヤンマがいたら、それは本種である。和名は腹部の黄色斑紋が更紗模様に見えることによる。本土産のヤンマでは最も小さく、かなり古い形質を残す種だといわれている。
 写真は、木更津市中尾で6月上旬の正午過ぎ、湿地化した休耕田の上をパトロールする成熟♂である。成熟しても雌雄同型で、大きさなどにも差がないので、♂♀を区別するには腹端の生殖器を見るしかない。飛翔中の成虫の区別は難しい。一見中型のサナエトンボに似るが、飛び方やとまり方が異なり、複眼が完全に接しているので簡単に区別できる。
 県内に産するヤンマの中では発生が最も早く、4月中旬頃から羽化を始める。栄養飛翔は周囲の樹林や空隙地などで日中に行うことが多い。ときに5頭~10頭程度の集団をなすこともある。幼虫は周囲に木立の多い湿地の落ち葉の中に潜んで暮らしているが、詳しい生活史はまだはっきりしていない。休耕田化した谷津田の増加によって一時的に産地が増えることもあるが、遷移の進行による乾燥化によって簡単に姿を消してしまうため、安定した産地は少ない。特に北総地域では減少傾向が著しく、残念ながらすでに絶滅した産地も多いらしい。似た環境に住むカトリヤンマと混生することもあるが、本種のほうが発生が早いので競合することは少ないようである。



サラサヤンマ (ヤンマ科 アオヤンマ亜科 サラサヤンマ群)
Oligoaeschna pryeri (Martin, 1909)
分布 国内: 本土全域。島嶼では対馬、種子島、屋久島。沖縄本島には近似の別種オキナワサラサヤンマ(O.kunigamiensis (Ishida, 1972))を産する。
県内: 市街地を除き、ほぼ全域に分布するが産地は局限される。
国外: 日本特産種。国外では台湾に近似の別種が棲息する。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 同型。大きさや斑紋に差はないので、腹端を観察する必要がある。
生態 環境: 止水性(湿地細流)。平地~丘陵地。ハンノキ優占林やヤナギ類が繁茂する湿地の細流。底質は泥、水質はやや濁った陸水。樹林に囲まれた、比較的暗い環境の中の空隙地を好む。
発生: 年1回。4月下旬~ 6月中旬に見られる。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性。静止時は翅を開き、枝などにぶら下がってとまる。飛翔は敏速だが広範囲に移動することはなく、羽化水域からあまり離れない。成熟した♂は木立の間の空隙地や湿地の上空を旋回飛翔して♀を待つ。♀は単独で、湿った潅木の根際や、落葉が積もって湿った土やコケに産卵する。詳しい幼虫の生活史は不明で、産卵場所から羽化水域まで陸上歩行により移動する可能性が考えられている。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカ、クチボソなど)。
成虫: 捕食性。鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型~中型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種:
保 護: 千葉県:、千葉市:、東京都:(区部)/(北多摩・南多摩)/(西多摩)、神奈川県:En、埼玉県:NT2(中川・加須低地/VU)、栃木県:C、群馬県:CR+EN
その他: 湿性遷移途中の不安定な環境を好むため、安定した産地に乏しい。
天敵 捕獲: 大型の造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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