ヤブヤンマ

藪蜻蜒 (ヤンマ科)


2004/8/6 館山市大神宮(県立館山野鳥の森) / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 美しいコバルトブルーの眼を持つ、かなり大型のヤンマ。和名は日中は♂♀ともにほとんど活動せず、薄暗い藪の中でじっとしている習性にちなむ。
 写真は、県立館山野鳥の森で8月初頭の午後2時ごろ、薄暗い藪の中で休息する成熟♂である。未成熟個体は雌雄同型だが、成熟すると♂は複眼と体の黄色い部分が鮮やかなコバルトブルーやエメラルドグリーンに変わり、♀は翅の全体が褐色を帯びるので区別は比較的容易だが、稀に成熟して複眼が青くなる♀がいるという。未成熟個体の腹部の斑紋は一見するとサラサヤンマに似るが、本種のほうがはるかに大きく、発生時期が1ヶ月以上異なるので見間違えることはない。
 周囲に木立の多い湿地や、林内の水たまりに棲息し、日本産のヤンマの中で最も薄暗い環境を好む種のひとつ。また大型種の割に小さな水域にも棲息し、半ば腐敗したような防火用水などで発生することも珍しくない。生態ページに掲示した産卵中の写真(7/5)は一辺2m足らずの人工の水たまりに来た個体である。池沼に棲息する場合には、しばしばクロスジギンヤンマやオオシオカラトンボと混生する。きわめて強い黄昏飛翔性を示すが、飛翔は比較的緩やか。産卵は♀が単独で、水辺に近い崖などの湿った土中やコケの中などに行われるが、水辺から離れた地点に産卵することもあり、孵化した幼虫はかなりの距離であっても歩行して水辺にたどり着くものと考えられている。県内全域に産地が知られるが、北部では少なく南部に比較的多い。ただなにぶん人目につきにくい種であるため、正確なところははっきりしないようだ。



ヤブヤンマ (ヤンマ科 ヤンマ亜科 ヤブヤンマ群)
Polycanthagyna melanictera (Selys, 1883)
分布 国内: 本州、四国、九州。島嶼では対馬、沖縄本島。 本州、四国、九州。島嶼では佐渡、伊豆諸島、対馬、種子島、屋久島、トカラ列島、奄美大島、沖縄本島。
県内: 市街地を除きほぼ全域に分布するが、北部では稀。南部では比較的個体数が多いとされる。
国外: 中国大陸(華中)に分布する。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 未成熟時は同型、成熟すると異型。♂は成熟すると複眼と体の黄色い部分がコバルトブルーに変わり、♀は翅が褐色になる。
生態 環境: 止水性。平地~丘陵地。丘陵地の抽水植物の豊富な湿地の水たまり。底質は泥、水質は濁った陸水。樹林に囲まれた、比較的暗い環境の中の空隙地を好む。 また、大型のヤンマの割に小さな水域でも育ち、半ば腐敗したような村落の防火用水でも発生することがある。
発生: 年1回。5月下旬~9月上旬に見られる。卵期は22日~26日、終齢幼虫は12齢で、孵化から300日前後で羽化するとされる。
越冬: 幼虫(亜終齢~終齢)。
行動: 昼行性(黄昏)。静止時は翅を開き、枝などにぶら下がってとまる。飛翔は敏速だが広範囲に移動することはなく、羽化水域からあまり離れない。強い黄昏飛翔性を示し、日中は薄暗い林内や藪の中の潅木の枝などで休息している。♀は単独で、湿った崖の土中やコケに産卵するが、水域から離れた場所にも産卵することから、孵化した幼虫は水域まで歩行して到達するものと考えられる。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカ、クチボソなど)。
成虫: 捕食性。鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型~中型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種: 未成熟個体はミルンヤンマやサラサヤンマに似るが、本種のほうがはるかに大きい。
保 護: 千葉県:D、東京都:(区部)/(北多摩・西多摩・南多摩)、栃木:
その他: 強い黄昏飛翔性を示すため、人目につくことは少ない。県北部では減少傾向が著しい。
天敵 捕獲: 大型の造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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