カトリヤンマ

蚊捕蜻蜒 (ヤンマ科)


2004/8/7 館山市大神宮(県立館山野鳥の森) / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 腹部が黒っぽく、やや細身の中型のヤンマ。♂はマルタンヤンマと並び、県内でもっとも美しい色彩を持つヤンマ のひとつである。和名は明け方や夕暮れ時に活発に活動し、他のヤンマ類が高空を飛ぶのに対し、人家の軒先などの低い位置で盛んに蚊などの小昆虫を捕食する性質による。♂は日中に薄暗い林内を飛び回り、休息している♀を探して交尾する。
 写真は、県立館山野鳥の森で8月上旬の正午過ぎ、薄暗い林内で休息する成熟♂である。未成熟個体は雌雄同型だが、成熟すると♂は複眼と腹部第1節~第3節が鮮やかな水色になるので区別は容易。一見するとクロスジギンヤンマに似るが、発生時期が異なり、翅胸部と腹部の斑紋が異なり、生態がかなり異なっているので見間違えることはないだろう。
 周囲に木立の多い湿地の中の細流に棲息し、やや薄暗い環境を好む。似た環境に住むサラサヤンマと混生することもあるが、本種のほうがはるかに発生が遅いため、少なくとも成虫ではあまり競合することはない。産卵は♀が単独で、水辺に近い崖などの湿った土中やコケの中などに行われる。水辺からかなり離れた地点に産卵することもあり、孵化した幼虫はかなりの距離であっても歩行して水辺にたどり着くものと考えられている。ヤンマの中では最も秋深くまで生き延びる種のひとつで、特に♀は暖地では11月頃まで見かけることもある。県内全域に産地が知られるがかなり局地的な傾向を示し、開発によって急激に減少しつつある種で、北総地域ではすでに絶滅した産地も少なくないようだ。



カトリヤンマ (ヤンマ科 ヤンマ亜科 カトリヤンマ群)
Gynacantha japonica Barteneff, 1909
分布 国内: 本州、四国、九州。島嶼では対馬、沖縄本島。なお、沖永良部、奄美大島、徳之島、沖縄本島、石垣、西表には近似の別種リュウキュウカトリヤンマ(G. ryukyuensis  Asahina,1962)を産する。
県内: 市街地を除き、ほぼ全域に分布するが、産地は局地的で個体数も少ない。特に北総地域では稀。
国外: 朝鮮半島、台湾、中国(華中)に分布する。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 未成熟時は同型、成熟すると異型。ただし尾部付属器の形状が著しく異なるので、未成熟時でも区別は容易。
生態 環境: 緩流性もしくは止水性。平地~丘陵地。丘陵地の緩流や抽水植物の豊富な池沼。底質は泥、水質はやや濁った陸水。樹林に囲まれた、比較的暗い環境の中の空隙地を好む。
発生: 年1回。7月下旬~11月上旬に見られ、県内に生息するヤンマ類でもっとも秋遅くまで生き残る種のひとつ。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性(黄昏)。静止時は翅を開き、枝などにぶら下がってとまる。飛翔は敏速だが広範囲に移動することはなく、羽化水域からあまり離れない。強い黄昏飛翔性を示し、日中は林内の潅木の枝などで休息し、早朝や夕方になると活発に飛翔する。♀は単独で、湿った崖の土中や、湿った土やコケに産卵する。詳しい幼虫の生活史は不明で、産卵場所から羽化水域まで陸上歩行により移動する可能性が考えられている。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカ、クチボソなど)。
成虫: 捕食性。鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型~中型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種: 背面から見るとクロスジギンヤンマに似るが、腹部の斑紋が異なる。
保 護: 千葉県:B、東京都:A(区部)/B(北多摩・南多摩)/C(西多摩)、神奈川県:、栃木県:C
その他: 県内では特に減少傾向の著しい種。
天敵 捕獲: 大型の造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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