マルタンヤンマ

まるたん蜻蜒 (ヤンマ科)


2004/7/21 匝瑳郡光町 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 中型でやや細身のヤンマ。和名は、フランス人のトンボ学者、マルタン氏に献呈されたもの。成熟した♂は複眼がトルコ石のような鮮やかなコバルトブルーに変わり、わが国に産するヤンマの中でもっとも美しい種のひとつと言えるが、なぜか♂を見かけることは少ない。
 写真は、匝瑳郡光町で7月下旬の午前中、薄暗い樹林内の下枝にぶら下がる成熟♀である。未成熟個体は雌雄同型であるが、前述の通り、♂は複眼と体の黄色の部分がすべて鮮やかなコバルトブルーに変わり、♀は翅の基部が強く褐色味を帯びるため、区別は容易。未成熟個体は、一見カトリヤンマに似るが、♂♀共に翅胸部の色調が異なるので簡単に見分けられる。
 挺水植物が豊富で底に有機質が厚く沈殿し、周囲に深い樹林を持つ池沼を好むため、古い社寺境内の池などで発生することもある。未成熟の個体はその周囲の林縁や草原などで栄養飛翔を行うが、黄昏飛翔性が強く、早朝や夕方にしか活動しない。日中は薄暗い林内の藪の枝などにぶら下がって眠っているので、探すのは結構難しい。幼虫や羽化殻を調べると性比はほぼ、1:1だといわれているが、成熟した♂は見かけることは稀である。これは、成熟した♂がどのような行動を示すのかがはっきり分かっていないことに起因するのかもしれない。産卵は早朝から午前中にかけて、♀が単独で主に植物組織内などに行うことが知られている。幼虫の生活史もはっきりしていない。



マルタンヤンマ (ヤンマ科 ヤンマ亜科 ギンヤンマ群)
Anaciaeschna martini (Selys, 1897)
分布 国内: 本州(関東以西)、四国、九州。島嶼ではこれまで知られていなかったが、最近種子島で確認された。
県内: 市街地を除き汎く全域に棲息するが、産地はやや局地的な傾向を示す。
国外: インドに分布する。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 異型。斑紋には差はないが、成熟すると♂は複眼と黄色部がコバルトブルーに変わり、♀は複眼が緑色となるほか、翅の基部が褐色化する。
生態 環境: 止水性。平地~丘陵地。挺水植物や抽水植物の豊富な池沼や堰。底に有機質が厚く沈殿する泥質、水質はやや濁った陸水。周囲に深い樹林を伴う薄暗い環境を好む。
発生: 年1回。6月下旬~9月中旬に見られる。幼虫の生活史は不明。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性(黄昏)。静止時は翅を開き、枝などにぶら下がってとまる。飛翔はきわめて敏速で行動範囲も広い 。強い黄昏飛翔性を示し、早朝と夕方に活動する。成熟した♂の習性は分かっていない。♀は早朝から午前中にかけて、単独で水辺の植物の組織内や枯れ草の内部などに産卵する。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカ、クチボソなど)。
成虫: 捕食性。鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型~中型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種: カトリヤンマに似るが、翅胸部の色調が異なる。
保 護: 千葉県:、東京都:(区部)/(南多摩)、埼玉県:NT2(中川・加須低地/DD)、栃木:、群馬:VU
その他: 県内では特に北総地域で減少傾向が見られる。
天敵 捕獲: 大型の造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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