クロスジギンヤンマ

黒条銀蜻蜒 (ヤンマ科)


2004/5/7 館山市大神宮(県立館山野鳥の森) / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 がっちりした体型の中型のヤンマ。和名は、エメラルドグリーンの翅胸部に明瞭な黒色のスジを持つことに因む。
 写真は、県立館山野鳥の森で5月上旬の正午過ぎ、水面上をパトロールする成熟♂である。未成熟個体は雌雄同型だが、ギンヤンマと同様に成熟すると♂の腹部2節が淡い水色にかわり、腹部の更紗模様が♂は水色、♀は黄色なので、♂♀の区別は簡単。ギンヤンマと似るが、本種では明瞭な翅胸部の黒条がギンヤンマにはなく、腹部の斑紋も異なるので、飛んでいる個体であってもよく見れば区別は難しくない。
 生態的にはギンヤンマに似るが、その行動のすべてにおいてこれよりスケールが小さい。周囲に木立の多いやや薄暗い池沼を好み、未成熟の個体はその周囲の林縁や草原などで栄養飛翔を行う。成熟した♂は水域に戻り、♀を探して水面上やその周囲を敏速に飛びまわる。縄張り意識は 非常に強く、他の♂が侵入すると激しく攻撃し、相手が退散するまで攻撃をやめない。上空を通過するだけであっても飛び上がって威嚇する。産卵は♀が単独で主に植物組織内などに行う が、ギンヤンマとは異なり、つながったまま飛び回ることはほとんどない。多くの場合、午後3時以降に観察される。ひとつの池沼でギンヤンマと混生することもあるが、開けた部分にはギンヤンマ、薄暗い部分には本種が陣取っていて、明らかな棲み分けが認められる。



クロスジギンヤンマ 原名亜種 (ヤンマ科 ヤンマ亜科 ギンヤンマ群)
Anax nigrofasciatus nigrofasciatus Oguma, 1915
分布 国内: 北海道(東部・南部)、本州、四国、九州。島嶼では佐渡、三宅、壱岐、対馬、南西諸島。
県内: 市街地を除き、ほぼ全域に棲息する。
国外: 朝鮮、台湾、中国(華中・華南)、台湾、フィリピン、別亜種がブータン、シッキム、ネパールに分布する。
変異 形態: 国内での地理的変異は知られていない。稀にギンヤンマとの種間雑種(スジボソギンヤンマ)が発生する。
季節: 知られていない。
性差: 異型。成熟すると♂は腹部第1・2節が淡青色となり、♀は灰白色のまま。成熟♀は翅が褐色を帯びる。
生態 環境: 止水性または緩流性。平地~丘陵地。抽水植物の豊富な池沼や堰。底質は泥、水質はやや濁った陸水。周囲に木立の多い薄暗い環境を好む。
発生: 年1回。発生期間は短く、4月下旬~5月中旬に一斉に羽化する。一般に♂は 6月中旬頃まで見られるが、♀は7月ごろまで生き残ることがある。羽化後、成熟するまでの期間は1週間~2週間程度である。
越冬: 幼虫(亜終齢~終齢)。
行動: 昼行性(黄昏)。静止時は翅を開き、枝などにぶら下がってとまる。飛翔はきわめて敏速で行動範囲も広い。弱い黄昏飛翔性を示すが、水域に戻った成熟♂は、日中もパトロールを行う。♂の縄張りは水域の面積に規定され、小さな水域では狭く、大きな水域ではやや広くなる傾向があるが、一般にギンヤンマよりははるかに狭い。縄張りに別の♂を が侵入すると、ギンヤンマと同様猛烈に威嚇し、相手が退散するまで手を緩めることはない。♀は 主に午後3時以降に単独で、水辺の植物の組織内や枯れ草の内部などに産卵するが、特にヒシやヒツジグサなどの浮揚植物や、水面に浮いている落葉などに産付することが多い。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカ、クチボソなど)。
成虫: 捕食性。鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型~中型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種: ギンヤンマやオオギンヤンマに似るが、翅胸部と腹部の斑紋が異なる。
保 護: 千葉県:、東京都:(区部・北多摩)
その他: 県内では特に北総地域で若干の減少傾向が見られる。
天敵 捕獲: 大型の造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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