ギンヤンマ

銀蜻蜒 (ヤンマ科)


2002/6/15 千葉市緑区 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 わが国で最もポピュラーな中型のヤンマ。和名は♀腹部第3節下縁の銀白色の斑紋に因む。戦前の子供たちの夏の遊びである「トンボ釣り」の対象となっていた種で、東京の下町や北総地域では♂は「ギン」、♀は「チャン」、翅が褐色になり成熟した♀は「シブチャン」と呼ばれ、珍重されていた。また主に県南部で♂は「オンジョ」、♀は「メンジョ」などと呼ばれていたという。未成熟個体は黄昏飛翔性がやや強く、かつては夏になると夕空いっぱいに飛び回り小昆虫などをとる光景が見られたが、近年ではそのような様子はほとんど見られなくなってしまった。
 写真は、千葉市緑区で6月中旬の午後3時過ぎ、ノシメトンボを捕食する成熟♂である。未成熟個体は雌雄同型だが、成熟すると♂の腹部2節が淡い水色にかわるので♂♀の区別は簡単。但し、稀に♀でも腹部が♂同様に水色に変わる個体もあるという。クロスジギンヤンマやオオギンヤンマに似るが翅胸部と腹部の斑紋が異なるので容易に見分けられる。
 開けた水面の明るい池や沼を好み、未成熟の個体はその周囲の林縁や草原などで栄養飛翔を行う。成熟した♂は水域に戻り、日中から夕方にかけて♀を探して水面上やその周囲を敏速に飛びまわる。縄張り意識は非常に強く、他の♂が侵入すると激しく攻撃し、相手が退散するまで攻撃をやめない。上空を通過するだけであっても飛び上がって威嚇する程である。ヤンマなど大型のトンボの中では珍しく♂♀連結して主に植物組織内などに産卵し、つながったまま飛び回ることも多い。飛翔は非常に敏速で活発。勘も鋭く、まるで測ったように網のちょっと外側を飛ぶので、オニヤンマなどよりはるかにつかまえるのが難しい。子供の頃は憧れの的だった。



ギンヤンマ 日本亜種 (ヤンマ科 ヤンマ亜科 ギンヤンマ群)
Anax parthenope julius Brauer, 1865
分布 国内: 北海道(東部・南部)、本州、四国、九州 。島嶼では佐渡、三宅、壱岐、対馬、南西諸島。
県内: 一部の市街地を除き、全域に分布する。
国外: 朝鮮、台湾、中国(華南)に分布する。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。稀にクロスジギンヤンマとの種間雑種(スジボソギンヤンマ)が発生する。
季節: 知られていない。
性差: 異型。成熟すると♂は腹部第1・2節が淡青色となり、♀は灰白色のまま。成熟♀は翅が褐色を帯びる。
生態 環境: 止水性または緩流性。平地~丘陵地。抽水植物の豊富な池沼や堰、農業用水。底質は泥、水質はやや濁った陸水。比較的明るい環境を好む。稀に学校のプールなどでも発生することがある。
発生: 年1回。4月下旬~10月上旬に見られる。卵期は17日~18日。終齢幼虫は14齢で孵化から300日~330日前後で羽化するといわれる。
越冬: 幼虫。齢数は不定。
行動: 昼行性。静止時は翅を開き、枝などにぶら下がってとまる。飛翔はきわめて敏速で行動範囲も広い。弱い黄昏飛翔性を示すが、水域に戻った成熟♂は、日中もパトロールを行う 。♂の縄張りは非常に広く、侵入した別の♂を猛烈に威嚇する。ヤンマ類では例外的に、♀は♂と連結したまま、水辺の植物の組織内や枯れ草の内部などに産卵するが、ダンボールや板切れなど産み付けることもある。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカ、クチボソなど)。
成虫: 捕食性。鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型~中型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種: クロスジギンヤンマやオオギンヤンマに似るが、 翅胸部と腹部の斑紋が異なる。
保 護: 千葉市:、神奈川県:
その他: 県内では特に北総地域で若干の減少傾向が見られる。亜種小名は、古代ローマの終身独裁官(皇帝ではない)であるユリウス・カエサル(Caius Julius Caesar)に因むというが、なぜだろう?
天敵 捕獲: 大型の造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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