オニヤンマ

鬼蜻蜒 (オニヤンマ科)


2004/8/1 館山市大神宮(県立館山野鳥の森) / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 わが国におけるトンボの最大種。体長は10㎝を超え、林道や林間の空隙地を、悠然とパトロールする姿には堂々たる風格がある。和名は恐ろしげな顔と、黄色と黒の縞模様がトラ柄の鬼のふんどしを髣髴とさせることにちなむ。パトロール中の♂は同じ空間を何度も往復飛行するので、待ち伏せすればつかまえるのはそれほど難しくはない。
 写真は県立館山野鳥の森で8月初頭の午後、パトロール中に休息する成熟♂である。♂♀共に成熟すると複眼は鮮やかなエメラルドグリーンとなり美しい。成熟しても雌雄同型で斑紋などに差はないが、♀は♂よりはるかに大型で、♀には腹端を超える長い産卵弁があるので見分けるのはそれほど難しくはない。オオヤマトンボやコヤマトンボに似るが、本種のほうが細身ではるかに大きく、複眼が完全に接していないので簡単に区別できる。また、本種にはオオヤマトンボのように広い水面上をパトロールする習性はない。
 ♂は日中に林縁や林道などのやや薄暗い場所を、ゆったりと往復飛翔する習性を持つ。また、老熟した♂は縄張り内に他の♂が侵入してもあまり追飛したりすることはない。しかし、縄張り内で♀を見かけると、それまでとはうって変わってすばやく♀を捕獲し、樹冠付近へと連れ去って交尾する。♀は単独で、リズミカルに腹端の産卵弁を水底に突き立てるように産卵する。幼虫期間は長く、2年~5年程度といわれており、きれいな水質の環境を好むので各地の環境指標種として有用。つまり、ある場所で羽化した成虫が見られれば、その場所は少なくとも過去2年は大きな環境改変が行われていないことを示すからである。



オニヤンマ (オニヤンマ科 オニヤンマ亜科)
Anotogaster sieboldii (Selys, 1854)
分布 国内: 本土全域。島嶼では国後、佐渡、御蔵、対馬、壱岐、種子島、屋久島、奄美大島、石垣、西表など。
県内: 市街地を除き、ほぼ全域に分布する。
国外: 日本特産種。国外には分布しない。
変異 形態: 亜種区分は認められていないが、寒冷地のものは小型、逆に南西諸島のものは大型で黄色斑紋が大きくなる傾向がある。また南西諸島産の♀の後翅基部に褐色斑紋が現れる。
季節: 知られていない。
性差: ほぼ同型。♀は♂より一回り大きいが斑紋などに差はない。
生態 環境: 緩流性。平地~丘陵地。細流もしくは渓流。底質は泥、水質は澄んだ陸水。樹林に囲まれた薄暗い環境を好む。
発生: 年1回。6月~10月に見られる。幼虫期は2年~5年を要する。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性。静止時は翅を開き、枝などにぶら下がってとまる。飛翔は比較的敏速。成熟した♂は林間の空隙地や林道、湿地の細流などを上を往復飛翔してパトロールする。他の♂が侵入するとくるくると互いにもつれ合いながらミドリシジミ族のような卍巴飛翔をして威嚇し、後に急に速度を上げて追飛する。ただしこのような行動はやや若い♂に限られ、老熟した♂は他の♂が侵入してもあまり気にしないようだ。♂は♀が縄張りを通過する際にすばやく結合して樹冠付近の高所で交尾することが多い。♀は単独で、水底の泥や砂の中に産卵管をリズミカルに突き立てて産卵する。
食性 幼虫: 捕食性。若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類やハナアブ類 、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、両生類幼生(オタマジャクシ)、小型魚類(メダカ、クチボソなど)。
成虫: 捕食性。鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型~中型のトンボ類などの飛翔性昆虫のほか、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類など。
類似種: オオヤマトンボに似るが、本種のほうが明らかに大きく、翅胸部がやや細身で、複眼の後縁の形態が異なる。
保 護: 東京都:B(区部)
その他: 日本産のトンボで最大種。特に♀は巨大。
天敵 捕獲: 大型の造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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