ホソミオツネントンボ

細身越年蜻蛉 (アオイトトンボ科)


2002/4/29 木更津市中尾 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 やや大型のイトトンボ。木々が芽吹く前の雑木林で下草の上を低く飛ぶイトトンボがいたら、ほとんどの場合は本種かオツネントンボである。日本産のトンボでは数少ない成虫越冬の種で、その中で、県内では最も数多く見かける種でもある。
 写真は、木更津市中尾で4月下旬の正午過ぎ、水辺で♀を待つ成熟♂である。成熟しても雌雄同型で、大きさなどにも差がないので区別するには腹端の尾部付属器を観察する必要がある。また、未成熟個体は全身が褐色で、オツネントンボに酷似するが、翅胸部及び腹部の斑紋が異なる。
 主に低山地~丘陵地のなかの周囲が木立に囲まれた抽水植物の多い明るい池や沼を好み、同じく成虫で越冬する近縁のオツネントンボとは明確に棲み分けている 。しかしこれまた成虫で越冬するホソミイトトンボとは似た環境に棲み、混生することもあるが、本種のほうがはるかに個体数が多い。初秋に羽化した成虫は水域を離れ、通常は発生地周辺が多いが時にかなり離れた場所にまで移動して栄養飛翔を行い、そのまま越冬。春、カタクリの花が咲く頃に活動を再開し、晩春から初夏に成熟して水辺に戻る。産卵は♂♀が連結したまま挺水植物や抽水植物の組織内に行う。越冬中は日当たりのよい崖下や林床の植物に頭をこすり付けるようにしがみついたまま、じっと寒さに耐えるが、真冬でも暖かい日には活動することが知られている。



ホソミオツネントンボ (アオイトトンボ科 オツネントンボ亜科)
Indolestes peregrinus (Ris, 1916)
分布 国内: 本州、四国、九州。太平洋側の暖地に多く、北限は岩手・山形、内陸では長野。島嶼では種子島、屋久島。
県内: 市街地を除く全域に棲息するが、下総地域では個体数は少ない。
国外: 朝鮮半島、中国(華中)に分布する。
変異 形態: 国内での地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 同型。尾部付属器の形状を観察する必要がある。
生態 環境: 止水性。平地~丘陵地。抽水植物や挺水植物の多い池沼で、底質は砂泥、水質は澄んだ陸水。草丈が高く木立の多い、比較的明るい環境を好む。県北部では台地の斜面林に多い。
発生: 年1回。7月~9月下旬に羽化し、翌年4月下旬まで見られる。
越冬: 成虫。未成熟状態で越冬し、越冬後成熟する。また越冬中も暖かい日には活動することがある。
行動: 昼行性。静止時は翅を閉じ、平らにとまる。移動性は弱いが、成虫は水辺を離れて樹林内や林縁にいることが多い。♀は産卵時には水辺に戻り、♂と連結したまま水面付近の比較的やわらかい植物組織内に産卵する。
食性 幼虫: 捕食性。ミジンコ類、ユスリカ類やハナアブ類の幼虫。
成虫: 捕食性。小蛾類、ハエ、ユスリカなど小型の飛翔性昆虫。ときにアジアイトトンボなど小型のイトトンボ類も捕食する。
類似種: 未成熟個体はオツネントンボに酷似するが、翅胸の斑紋が相違する。
保 護: 千葉市:、東京都:(区部)/(北多摩)
その他: 県内ではやや局地的だが、産地での個体数は少なくない。
天敵 捕獲: ヤンマ類やサナエトンボ類、大型~中型のトンボ類、ハエトリグモ類、造網性クモ類。
寄生: 不明。

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