ヒガシカワトンボ

東河蜻蛉 (カワトンボ科)


2003/4/29 千葉市緑区(昭和の森下夕田池) / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 中型のカワトンボ。和名のとおり東日本の河川中流域の緩流もしくは清流に棲息し、それらの地域に春を告げるトンボである。東海以西には原名亜種であるニシカワトンボが生息する。
 写真は、千葉市緑区で4月下旬の正午過ぎ、水田の用水路脇の草上にとまって♀を待つ橙色透明翅型の成熟♂である。一般に♀は無色型のみ(f.-asahinai)だが、♂は無色型(f.-ogumai)のほか橙色型(f.-costalis)が知られている。♂は成熟すると翅胸部と腹部に白粉を吹く。他地域にはミヤマカワトンボやオオカワトンボが生息するが、県内には分布しないので、見誤ることはない。また房総丘陵の一部 の地域には無色と橙色の白濁翅型(f.-edai)が通常の型と混生しており、環境省レッドデータブックで絶滅の恐れのある地域個体群(LP)に指定されている 。産地によってはかつて9割以上がこの白濁翅型であったというが、現在ではその比率は1割を割ってしまっているという。心無いマニアによる選択的な採集による捕獲圧が原因と考えられ、このような行為は厳に慎まねばならない。
 コナラの芽吹きとほぼ同時に姿を現し、県内では6月上旬まで姿を見ることができる。未成熟個体は付近の林縁で栄養飛翔を行うが、羽化水域から遠く離れることはない。晩春頃に成熟して水辺に戻り、♂は♀が近づくと 時折翅をぱたりと広げてディスプレイする。♀は単独で水中の植物組織内などに産卵するが、その際♂は付近にとまって♀を警護することがある。ぬるみ始めた小川の縁に何頭もの♂が集まり、ひらひらと舞う姿はとても優雅。里山の春を実感する瞬間である。



ヒガシカワトンボ (カワトンボ 東日本亜種) (カワトンボ科 カワトンボ亜科)
Mnais pruinosa costalis Selys, 1869
分布 国内: 北海道、本州、四国、九州。島嶼からの記録はない。
県内: 主に上総地域以南の河川上流域~中流域に普通に棲息する。北総地域ではやや稀。
国外: 日本特産種。国外には分布しない。
変異 形態: 中部以西産は別亜種(ニシカワトンボ ssp. pruinosa  Selys,1853)で原名亜種とされる。また、本亜種には翅の色彩変異があり、♀は透明型(f. asahinai )のみだが、♂は橙色型(f. costalis )、無色型(f. ogumai )があり、さらに房総半島南部の一部にはそれぞれの翅が白濁する型(シロバネカワトンボ f. edai )が知られる。
季節: 知られていない。
性差: 未熟時は同型、成熟すると異型。♂は成熟すると体が白粉で覆われる。また翅色が異なるものがある。
生態 環境: 流水性。主に丘陵地。抽水植物の多い平瀬をもつ小河川中流域、あるいは湿地の細流。県内では谷津田の水路などに多く見られる。底質は砂利もしくは砂。水質は澄んだ陸水で、水温は低いほうがよいようだ。谷津などの比較的開けた環境を好む。
発生: 年1回。4月上旬~5月下旬に見られる。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性。静止時は翅を閉じ 、平らにとまる。羽化直後の未熟な個体は♂♀共に水辺を離れ、周囲の薄暗い樹林内で栄養飛翔を行う。成熟すると♂は水辺に戻り、抽水植物などにとまって縄張りをつくり♀を待つ。♀は単独で植物組織内に産卵する。その際♂はその傍らにとまり、産卵中の♀を警護する。
食性 幼虫: 捕食性。ミジンコ類、ユスリカ類やハナアブ類、小型のカワゲラ類、トビケラ類、カゲロウ類の幼虫。
成虫: 捕食性。小蛾類、ハエ、ユスリカなど小型の飛翔性昆虫のほか、小型のカゲロウ類や、カワゲラ類、トビケラ類など。ときにアジアイトトンボなど小型のイトトンボ類も捕食する。
類似種: オオカワトンボに似るが、県内には棲息しない。
保 護: 白翅型>環境省:LP、千葉県:。通常型>千葉市:、東京都:(区部)、神奈川県:、埼玉県:LP(大宮台地/DD)
その他: かつて高宕山などでは90%以上が白翅型であったというが、近年になって減少が進み、最近では10%以下になってしまい、さらに減少を続けているという。
天敵 捕獲: ヤンマ類やサナエトンボ類、大型~中型のトンボ類、ハエトリグモ類、造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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