ハグロトンボ

羽黒蜻蛉 (カワトンボ科)


2003/8/1 木更津市菅生 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 和名のとおり翅が真っ黒で比較的大型のカワトンボ。カワトンボの中では人里近い河川中流域~下流域に棲息しており、オハグロトンボ、アネサントンボ、ゴクラクトンボ、ホトケトンボ、カミサマトンボ」など各地で多くの俗名で呼ばれてきたことから、古来より人々に意識されてきたことがうかがえる。
 写真は、木更津市菅生の薄暗い神社境内で8月上旬の正午過ぎ、薄暗い林内の下草上で静止する亜成熟♂である。♀は成熟してもあまり色が変わらないが、♂はやや緑色が強くなる。アオハダトンボに似るが本種は翅の偽縁紋を欠き、♂♀共に腹部の色調がやや褐色を帯びるので簡単に区別できる。なお、アオハダトンボは県内では利根川流域での流下個体のみが知られ、分布はしていない。
 未成熟な個体は水域を離れ、付近の森林や薄暗い社寺境内などで栄養飛翔を行う。成熟すると♂は日当たりのよい水辺に縄張りを作り、岩の上などに静止して♀をまつ。求愛の際にはアオハダトンボのような特にめだったディスプレイ行動などは行わないが、翅をパタリと開く位のことはやる。産卵は♀が単独で行い、普通は水面から植物組織内に産み付けるが、完全に潜水して産卵することもある。照りつく日差しに青く輝く体と黒い翅をきらめかせ、群れを成して舞う姿は幻想的。一時、暑さを忘れさせてくれる盛夏のトンボである。



ハグロトンボ (カワトンボ科 カワトンボ亜科)
Calopteryx atrata Selys, 1853
分布 国内: 本州、四国、九州。島嶼では佐渡、壱岐、対馬、種子島、屋久島。
県内: 市街地を除くほぼ全域の比較的大きな河川の中流域~下流域に棲息する。
国外: 朝鮮、沿海州、中国(北部)に汎く分布する。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 異型。♂は♀より翅胸部・腹部の青みが強い。
生態 環境: 緩流性。平地~丘陵地。抽水植物の多い用水路や湿地の緩流、河川中下流域で、底質は砂泥、水質はやや濁った陸水。 未成熟時は樹林内などの暗い環境、成熟すると河川中流域の河川敷や谷津など開けた明るい環境を好む。
発生: 年1回。7月~9月上旬に見られる。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性。静止時は翅を閉じ 、平らにとまる。羽化直後の未熟な個体は♂♀共に水辺を離れ、周囲の薄暗い樹林内で栄養飛翔を行う。成熟すると♂は水辺に戻り、抽水植物などにとまって縄張りをつくり♀を待つ。♀は単独で植物組織内に産卵するが、完全に潜水することもある。
食性 幼虫: 捕食性/生体。ミジンコ類、ユスリカ類やハナアブ類、小型のカワゲラ類、トビケラ類、カゲロウ類の幼虫。
成虫: 捕食性/生体。小蛾類、ハエ、ユスリカなど小型の飛翔性昆虫のほか、小型のカゲロウ類や、カワゲラ類、トビケラ類など。ときにアジアイトトンボなど小型のイトトンボ類も捕食する。
類似種: アオハダトンボに似るが、本種は偽縁紋を欠き体部の色調が異なる。なお、アオハダトンボは県内では偶発個体のみが知られる。
保 護: 千葉市:、東京都:(区部)/(北多摩)、神奈川県:
その他: 県内ではやや局地的だが、産地での個体数は少なくない。
天敵 捕獲: ヤンマ類やサナエトンボ類、大型~中型のトンボ類、ハエトリグモ類、造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

メイン