キイトトンボ

黄糸蜻蛉 (イトトンボ科)


2002/8/14 木更津市中尾 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 やや小型のイトトンボ。複眼と胸部は黄緑色だが成熟した♂の複眼と腹部は鮮やかなレモンイエローで、腹端背面には漆黒のワンポイント。一見すると非常に目立ちそうな色調なのだが、草むらでは逆に保護色となって見つけにくい。田んぼの周りや溜池の縁の地表近くを低く、風に流されて漂うように緩やかに飛び、腹部がやや太めなので、あたかもマッチ棒が宙に浮いているように見える。
 写真は、木更津市中尾で8月中旬の正午過ぎ、水田脇の草むらで植物の茎にとまって♀を待つ成熟♂である。♀は 成熟しても全身がやや薄汚れたような淡い緑色。未成熟な♂は緑色を帯びていて♀と似るが、腹端に不完全ながら黒色部があるので見分けるのはそれほど難しくはない。また、国内にはこれと似た種は生息していないので、見間違えることはないだろう。
 産卵は雌雄が連結したまま行い、♂はその際直立して周囲を警護することが知られる。ベニイトトンボと混生することがあるが、本種のほうが産地も個体数も多い。かつては7月~8月に田んぼのため池など多く見られ、平地の夏を代表するイトトンボだったのだが、近年の開発により著しい減少傾向にあり、残念ながら北総地域の平地ではめっきり見かけることが少なくなってしまった。ただ、房総丘陵地域ではそれほど減少しているようには見えず、分布は局地的ながら良好な産地もまだ少なくないようだ。



キイトトンボ (イトトンボ科 ナガイトトンボ亜科)
Ceriagrion melanurum Selys, 1876
分布 国内: 本州、四国、九州。島嶼では佐渡、隠岐、壱岐、対馬、種子島、屋久島。
県内: 市街地を除き、全域に汎く分布するが、一般に産地は局地的。北部では稀だが南部では産地での個体数は少なくない。
国外:
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 羽化直後は同型、成熟すると異型。♂腹部は鮮やかな黄色で、腹端背面に黒色斑紋をもつが、♀腹部は汚黄緑色で、腹端には黒色斑紋を持たない。
生態 環境: 止水性。平地~丘陵地。抽水植物が豊富な池沼や休耕田で、底質は泥、水質はやや濁った陸水。周囲の草丈が低く、比較的明るい環境を好む。
発生: 年1回。5月~9月に見られる。暖地では年2回発生し、4月下旬~10月まで見られる。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性。静止時は翅を閉じ、平らにとまる。飛翔は緩やかで移動性は弱いが、羽化直後の未熟な個体は♂♀共に水辺を離れ、付近の雑木林などの林縁で栄養飛翔を行う。成熟した♂は水辺に戻り、抽水植物の茎などにとまって縄張りをつくり♀を待つ。♀は♂と連結したまま水面付近の植物組織などに産卵する。その際♂は直立して産卵中の♀を警護する。
食性 幼虫: 捕食性/生体。ミジンコ類、ユスリカ類やハナアブ類の幼虫。
成虫: 捕食性/生体。小蛾類、ハエ、ユスリカなど小型の飛翔性昆虫。
類似種: 未成熟個体はベニイトトンボに似る。
保 護: 千葉県:、千葉市:、東京都:(区部)/(北多摩・南多摩・西多摩)、神奈川県:
その他: 県北部を中心に開発により個体数が激減している。
天敵 捕獲: オオセスジイトトンボなどの大型イトトンボ類、ヤンマ類やサナエトンボ類、大型~中型のトンボ類、ハエトリグモ類、造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

メイン