ホソミイトトンボ

細身糸蜻蛉 (イトトンボ科)


2003/6/8 千葉市緑区 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 中型のイトトンボ。和名のとおり腹部が非常に細く目立たない色調であるため、飛んでいるときは腹端の水色部分だけが浮いているように見える。田んぼの周りや溜池の縁の地表近く の低い位置を、風に流されながら、漂うように飛ぶ。
 写真は、千葉市緑区で6月上旬の午後、林縁で栄養飛翔中の越冬型亜成熟♂である。成熟しても雌雄同型で、大きさなどにも差がないので、♂♀の区別には腹端の生殖器を観察する必要がある。成熟すると腹端が水色になるアオモンイトトンボやアジアイトトンボ、セスジイトトンボなどに似るが、本種の腹部はそれらよりはるかに細く、それぞれ翅胸部の斑紋などが異なるので、見分けるのはそれほど難しくはない。
 オツネントンボやホソミオツネントンボと同様、日本では数少ない成虫越冬の種であるが、両種とは異なり夏型と越冬型の二つの型が知られる。7月上旬に羽化する個体が夏型となり8月下旬には交尾産卵して姿を消すが、これと入れ替わるように羽化する越冬型は未成熟のまま冬を越し、翌春に成熟し交尾産卵して6月中には姿を消す。ただ、不思議なことに夏型・越冬型それぞれから得られた卵を飼育すると共に夏型が出現したという実験結果があり、この二つの型が自然界でどのようなサイクルでつながっているのかははっきりしていない。要因として幼虫期の水温や日長などが関係している可能性が考えられるが、詳細は不明である。



ホソミイトトンボ (イトトンボ科 アオモンイトトンボ亜科)
Aciagrion migratum (Selys, 1876)
分布 国内: 本州(関東平野以西)、四国、九州。島嶼では対馬、種子島、屋久島、沖永良部島。
県内: 千葉市東部と夷隅郡大原町以南に分布するが、産地は局地的で個体数も少ない。
国外: 台湾、マレー、インド、セイロンに分布する。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 羽化する時期によって顕著な季節差が認められ、夏型と越冬型(f. forma-b)が知られる。
性差: 同型。大きさや斑紋に差はない。
生態 環境: 止水性。平地~丘陵地。抽水植物が繁茂し挺水植物の多い池沼で、底質は砂あるいは泥、水質はやや濁った陸水。周囲の草丈が低く、明るい環境を好む。
発生: 年1回と考えられるが詳細不明。夏型は7月上旬~8月下旬、越冬型は8月中旬~翌年6月下旬に見られる。
越冬: 成虫(越冬型)。未成熟状態で越冬する。
行動: 昼行性。静止時は翅を閉じ、平らにとまる。移動性は弱いが、羽化直後の未熟な個体は♂♀共に水辺を離れ、付近の雑木林内で栄養飛翔を行うことが知られる。 成熟した♂は水辺に戻り、抽水植物の茎などにとまって縄張りをつくり♀を待つ。♀は♂と連結したまま抽水植物の茎などに産卵する。その際♂は直立して産卵中の♀を警護する。
食性 幼虫: 捕食性/生体。ミジンコ類、ユスリカ類やハナアブ類の幼虫
成虫: 捕食性/生体。小蛾類、ハエ、ユスリカなど小型の飛翔性昆虫。ときにアジアイトトンボなど小型のイトトンボ類も捕食する。
類似種: アオモンイトトンボ、アジアイトトンボ、オオイトトンボに似るが、これらより腹部が細く、斑紋が若干異なる。
保 護: 千葉県:、千葉市:、神奈川県:Ex、埼玉県:CR+EN(中川・加須低地/DD)
その他: 県内での産地は局地的で、個体数も少ない。
天敵 捕獲: オオセスジイトトンボなどの大型イトトンボ類、ヤンマ類やサナエトンボ類、大型~中型のトンボ類、ハエトリグモ類、造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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