オオセスジイトトンボ

大背条糸蜻蛉 (イトトンボ科)


2004/6/19 匝瑳郡光町 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4 /Kodak Kodachrome PKR64

 かなり大型のイトトンボで、わが国に分布するイトトンボ科の最大種。セスジイトトンボをそのまま大きくしたような色彩で、和名もこれに因んでいる。 きわめて局地的な分布傾向を示し、国内では津軽、仙台、秋田、越後、関東の各平野のみから記録されている。
 写真は、匝瑳群光町で6月中旬の正午過ぎ、木立に囲まれた沼のすぐ脇の草むらで植物の茎にとまって休息する成熟♀である。 未成熟時は♂♀共に似たような色をしているが、♂は成熟すると鮮やかな水色に変わる。また♂♀で翅胸部の斑紋と腹端の黒色部が異なるので区別は簡単。セスジイトトンボ やムスジイトトンボに酷似するが、本種のほうが一回り大きく、翅胸部と腹端の斑紋が若干異なるので見分けるのはそれほど難しくない。
 飛翔は比較的敏速。そのうえ人の気配には結構敏感なので、なかなか近寄らせてくれない。羽化した個体は♂♀共に一旦水域を離れ、付近の樹林内で栄養飛翔を行う。成熟すると♂は浮葉植物の葉上で♀を待つ。産卵は雌雄が連結したまま行い、卵は水面上の植物組織内に産みこまれる。一般に周囲が木立に覆われた比較的開けた池沼を好むが、本種の継続発生には浮葉植物・挺水植物・沈水植物という水生植物のセットが必要とされるという。クロイトトンボやオオイトトンボ、セスジイトトンボ、ムスジイトトンボ 、オオモノサシトンボなどと混生することがあるが、個体数ははるかに少ない。近年関東一円で、環境悪化によって激減している種であり、早急な保護が必要とされる。



オオセスジイトトンボ (イトトンボ科 イトトンボ亜科)
Cercion plagiosum (Needham, 1930)
分布 国内: 本州。青森、秋田、宮城、新潟、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川から記録されている。
県内: 産地は点々と平野部に散在し、きわめて局地的。江戸川・利根川水系(関宿・野田・市川・我孫子・印旛・本埜)、佐倉市、光町、東金市、大原町で記録されるが局限される。
国外: 中国(大連・熱河・河北・南京)に局地的に分布する。
変異 形態: 地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 異型。成熟すると♂は水色、♀は黄緑色になる。未成熟時でも翅胸部の黒斑が異なる。
生態 環境: 止水性。低地~平地。浮葉植物・沈水植物・挺水植物が豊富な池沼で、底質は泥、水質はやや濁った陸水。周囲の草丈が低く、比較的明るい環境を好む。
発生: 年1回。5月~8月に見られる。
越冬: 幼虫
行動: 昼行性。静止時は翅を閉じ、平らにとまる。飛翔はイトトンボ類の中では敏速で、移動性は弱いが、羽化直後の未熟な個体は♂♀共に水辺を離れ、付近の雑木林などの林縁で栄養飛翔を行う。成熟した♂は水辺に戻り、 ヒシやヒツジグサなど浮葉植物の葉上 や抽水植物の茎などにとまって縄張りをつくり♀を待つ。♀は♂と連結したまま水面付近の植物組織などに産卵する。その際♂は直立して警護することも多い。
食性 幼虫: 捕食性/生体。ミジンコ類、ユスリカ類やハナアブ類の幼虫。
成虫: 捕食性/生体。小蛾類、ハエ、ユスリカなど小型の飛翔性昆虫。ときにクロイトトンボやアジアイトトンボなど小型のイトトンボ類も捕食する。
類似種: セスジイトトンボ、ムスジイトトンボと酷似するが、本種のほうがはるかに大きい。
保 護: 環境省:CR+EN、千葉県:、東京都:(区部)、神奈川県:Ex、埼玉県:CR+EN、群馬県:EX
その他: 環境の悪化に伴い、近年関東一円で激減している。かつて記録された場所でも、環境悪化に伴い絶滅する例が多い。
天敵 捕獲: ヤンマ類やサナエトンボ類、大型~中型のトンボ類、ハエトリグモ類、造網性クモ類。
寄生: 卵はタマゴコバチ科のHydrophylita aquivolans が知られる。

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