アサギマダラ

浅葱斑 (マダラチョウ科)


2003/9/27 10:55 館山市大神宮(県立館山野鳥の森) / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 中型のマダラチョウ。わが国の本土地域に土着する唯一のマダラチョウでもある。和名の「浅葱」とは青磁のような淡い藍色のことで、本種の翅の鱗粉が退化した部分の地色にちなむ。英語圏では、その斑紋から"Chestnut Tiger"と呼ばれている。緩やかに花から花へ飛ぶが、驚かすと上昇気流に乗って瞬く間に高度を上げ、やがて見失ってしまう。
 写真は、県立館山野鳥の森で9月下旬の午後、オトコエシで吸蜜する♂である。通常は年に2回~3回世代交代するが、季節変異は知られていない。地理的変異もないようだ。性差は斑紋に表れ、♂後翅の中央やや外側付近には写真のような暗色の性斑が現れるので区別は簡単である。奄美諸島以南に分布するリュウキュウアサギマダラに似ているが、本土地域には本種に似たチョウは分布していない。
 訪花性は強く、さまざまな花で吸蜜するが、ノリウツギ、シシウド、セリ、リョウブ、オカトラノオ、クガイソウ、オトコエシ、サラシナショウマ、ヒヨドリバナなど、散形花序や穂状花序と呼ばれる小さな花が集合したような形態の白い花を好む傾向が見られる。樹液や腐果に集まることはないが、稀に地上で吸水することもあるらしい。飛翔は緩やかだが、移動性はきわめて強い。長距離の移動をしない個体も夏季には冷涼な高原に移動しているため、県内で盛夏に姿を見かけることはほとんどない。以前から長距離の渡りをすることが知られていたが、近年盛んになってきたマーキング調査により、直線距離で実に片道1,700㎞にも及ぶ長距離移動を行う個体がいることが確かめられた。もし、マーキングがある個体を見かけた方は、ぜひその連絡先に報告してあげてください。



アサギマダラ 日本亜種 (マダラチョウ科 マダラチョウ亜科)
Parantica sita niphonica (Moore, 1883)
分布 国内: 土着地域は本州(関東以西の太平洋岸)、四国、九州。島嶼では対馬、壱岐、五島列島、南西諸島全域。平地~山地が分布の中心。記録は北海道南部に及ぶ。
県内: 全域で記録されているが断片的。食草の関係から発生の中心は上総南部以南と考えられる。
国外: 朝鮮半島、台湾、中国(中南部)、インドシナ~ヒマラヤ、カシミール、マレー半島に分布する。原名亜種は西ヒマラヤ~カシミール産をさし、本亜種は日本固有。
変異 形態: 国内での地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 異型。♂は後翅中央下部に暗色の性斑をもち、♀はこれを欠く。
生態 環境: 樹林周辺。日当たりのよい林縁的環境を好む。
発生: 多化性。通常年2回~3回。暖地では4回~5回、南西諸島ではそれ以上。
越冬: 本土地域では非休眠の幼虫で、齢数は不定。暖かい日には摂食する。南西諸島では成虫。木の枝などに集団でぶら下がって冬を越す。
行動: 昼行性。飛翔は緩やかだがきわめて移動性が強く、季節的に垂直移動するほか、九州から福島まで直線距離で実に1,700㎞ ものの水平移動をすることも稀ではない。夜間の睡眠時や雨天時の休息中は集合し、林内の枯れ枝など突出したものにぶら下がる習性がある。
食性 幼虫: 食植性/ガガイモ科キジョランイケマオオカモメヅル、サクララン。地域によって嗜好性が異なることが知られている。県内では主にキジョランイケマシロバナカモメヅルが利用されているらしい。与えればガガイモも食べるが、あまり好まないようだ。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は強く、ウツギ、イボタノキ、クリ、ノリウツギ、シシウド、セリ、リョウブ、オカトラノオ、クガイソウ、サラシナショウマ、オトコエシ、ヒヨドリバナなどさまざまな花で吸蜜するが、特に散形花序あるいは総状花序のような、小花が集合したような花を好む傾向が見られる。樹液や腐果に集まることはないが、♂♀共に稀に地上で吸水することがある。
類似種: リュウキュウアサギマダラに似るが県内には分布しない。
保 護: 千葉県:D
その他: 県内での個体数は少ない。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 幼虫に寄生し蛹から脱出するヤドリバエ科のノコギリハリバエ(Compsilura concinnata (Meigen))、Drino (Palexorista) inconspicuoides (Baranov)、Phryxe heraclei (Meigen)、Phryxe nemea (Meigen)が知られる。

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