クロコノマチョウ

黒木間蝶 (ジャノメチョウ科)


2003/7/15 14:25 富津市東大和田 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 大型の南方系のジャノメチョウ。ムラサキツバメやナガサキアゲハと同様に分布を北に広げつつある種。数年前まで県内には棲息していなかったが、近年定着した。特に県南部に個体数が多いようだが、すでに県内のほぼ全域で分布が確認されている。英語圏では黄昏時によく飛び回るという性質から"Dark Evening Brown"と呼ばれている。
 写真は、富津市東大和田で7月上旬の午後、薄暗い林内の低木にとまって休息する夏型の♀である。季節変異は明瞭で、秋型は夏型より前翅頂の突出が強く、前翅表の橙色部が発達する。また夏型は裏面に不明瞭なさざなみ状の斑紋を有するが、秋型は枯葉状の斑紋となる。ただ秋型の斑紋は個体変異が著し く、様々なパターンが見られる。性差は翅表の眼状紋と翅形に現れ、♀は♂より大型で、両型を通じて翅の突起は♂より強い。ウスイロコノマチョウに似るが、裏面の斑紋が異なるので区別はそれほど難しくはない。
 飛翔は比較的敏速だが、長く飛び続けることはなく、すぐに下草などにとまる。主に夕方に活発に活動し、さまようように林内を飛び続けるが、日中はほとんど活動しない。人の気配にはやや敏感だが、日中であれば素手でつかまえることもできるほど動きは鈍い。訪花性はなく、クヌギやコナラ、ヤナギ類などの樹液やヤマグワ、カキ、イチジクなどの腐果で吸汁する。地上で吸水することはないが、獣糞などの汚物に集まることがある。なお、本種はウスイロコノマチョウと共にジャノメチョウの仲間では数少ない成虫越冬の種である。



クロコノマチョウ 日本亜種 (ジャノメチョウ科 コノマチョウ亜科)
Malenitis phedima oitensis Matsumura, 1919
分布 国内: 本州(関東以南)、四国、九州。島嶼では屋久島以南の南西諸島。記録そのものの北限は山形県にある。平地~低山地が分布の中心。
県内: 市街地を除きほぼ全域に棲息するが、南部に個体数が多い。
国外: 台湾、フィリピン、中国南部、インドシナ~インド、ヒマラヤ、セイロン、マレー半島、スマトラ、ジャワ、ニアス、セレベス。原名亜種はジャワ産をさす。
変異 形態: 国内での地理的変異は知られていない。
季節: 明瞭。翅形と斑紋、裏面の地色が相違する。夏型(第1・2化)と秋型(第3化)が知られる。
性差: 異型。一般に♀は♂より大型で、前翅外縁の突出が強く、翅表の地色は淡い。夏型♂は前翅表の橙色斑を欠く。秋型♀は♂より前翅外縁の黒斑とその中の小白斑が目立ち、裏面は赤みが強い。
生態 環境: 食草の生育する常緑樹林。薄暗い林内や林縁的環境を好む。
発生: 多化性通常年3回。5月~11月に見られる。県内での発生状況ははっきりしていない。
越冬: 成虫(秋型)。越冬状態ははっきりしない。
行動: 昼行性(黄昏)。飛翔は緩やかで、長時間飛び続けることはなく、すぐに下草上などにとまる。静止時は翅を閉じる。日中は樹液を吸汁したりすることもあるが、一般には林内で休息していることが多い。日没前後に活発に活動する。
食性 幼虫: 食植性/イネ科ススキジュズダマが主。他にはアブラススキ、チョウセンカリヤス、カリヤスモドキ、チヂミザサ、アシボソ、メヒシバ、ササキビなど、カヤツリグサ科のナルコビエ。
成虫: 食植性/樹液腐果汚物。訪花性はない。クヌギやコナラ(ナラ類)、アカガシ、アラカシ、シラカシ(カシ類)、ヤナギ類などの樹液やカキ、イチジクなどの腐果に集まり、汚物で吸汁することもあるが、地上で吸水することはない。
類似種: ウスイロコノマチョウに酷似するが、斑紋が異なる。
保 護: 指定されていない。
その他: 近年温暖化によるものか、分布を北に広げつつある。県内全域で定着した模様。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: ヤドリバエ科のノコギリハリバエ(Compsilura concinnata (Meigen))、Senometopia prima (Baranov)、Zenillia dolosa (Meigen)、ヒメバチ科ヒラタヒメバチ亜科のコキアシヒラタヒメバチ(Apechthis capulifera (Kriechbaumer, 1887))などが知られる。

メイン