ヤマキマダラヒカゲ

山黄斑日蔭蝶 (ジャノメチョウ科)


2004/8/19 13:10 長生郡長柄町権現森 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 大型のジャノメチョウ。これまた薄暗い林縁的環境を好み、あまり明るい場所には出てこない。色は地味だが斑紋は複雑で迷路のようである。和名は翅表の斑紋に由来するが、とまるときは必ず翅を閉じるので、捕獲しない限り翅表を見ることはできない。
 写真は、長生郡長柄町で8月中旬の午後、雑木林の林縁で休息する夏型の♂である。性差は斑紋や大きさ、翅形に表れるが、きわめて微妙なので、外見で区別するのは非常に難しい。ただ、季節変異は比較的明瞭で、春型は夏型より表面の黄色斑が発達し、裏面の眼状紋が小さい。サトキマダラヒカゲとはかつて同種とされ、きわめて酷似しているが、斑紋の細かい点が若干異なる程度なので区別は難しい。特に房総亜種の夏型とサトキマダラヒカゲの夏型は酷似していて、ほとんど区別できない程である。
 活動は主に正午以降で、午前中は茂みの中などで休息している。日中は主に樹液などを吸汁しているが、夕方には活発に飛翔し、配偶行動を行う。飛翔は比較的敏速だが、長く飛び続けることはなく、飛び立ってもすぐに下草などにとまる。人の気配には結構敏感で、驚かすとすぐに林内の茂みなどに飛び込んで行方をくらます。訪花性は弱く、春型がウツギやイボタノキ、クリなどを 稀に訪れることがある程度。夏型はほとんど訪花せず、主にクヌギやコナラ、カシ類、ニレ類、ヤナギ類 、アカメガシワなど多くの広葉樹の樹液に集まるが、地上で吸水したり汚物に集まる傾向が強い。



ヤマキマダラヒカゲ 房総亜種 (ジャノメチョウ科 マネシヒカゲ亜科)
Neope goschkevitschii (Ménétriès, 1857)
分布 国内: 本土全域。島嶼では北方四島、礼文、利尻、奥尻、佐渡、屋久島 。北海道では平地~低山地、本州以南では山地性の傾向を示す。
県内: 房総丘陵地域にのみ棲息する。本亜種は房総半島固有で、原名亜種と比較して著しく分布する標高が低い。
国外: 南千島、樺太、シベリア、中国東北部に分布する。原名亜種は日本産をさす。
変異 形態: 顕著な地理的変異が知られる。原名亜種と本亜種のほか、屋久島産が別亜種(ssp. marumoi  Esaki et Umeno, 1929)とされるが、他の地域では亜種区分には至っていない。
季節: 比較的明瞭。翅の地色と斑紋が相違する。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。
性差: ほぼ同型。一般に♀は♂より大型で、翅形が丸みを帯びる。♀の地色は♂より淡く、翅表の黄色斑が発達する。翅を灯りに透かすと♂前翅中央部には性斑がみえる。
生態 環境: 食樹の自生する樹林。薄暗い林内や林縁的環境を好む。
発生: 通常年2回。5月下旬~9月上旬に姿を見せるが、九州南部では9月下旬に第3化が現れることがある。寒冷地では年1回、春型のみが出現する。一般的にサトキマダラヒカゲより発生がやや早い傾向がある。
越冬:
行動: 昼行性。飛翔は敏速だが長時間飛びつづけることはなく、すぐに下草上などにとまる。人の気配には比較的敏感で、危険を感じると迅速に茂みの中などに姿を隠す。静止時は必ず翅を閉じる。
食性 幼虫: 食植性/タケ科ササ属アズマネザサ、デンツクザサ、シナノザサ、トクガワザサ、スズタケ。 他にはイネ科ススキ、モウソウチクやマダケ、ハチク、ミヤコザサ、クマザサ。
成虫: 食植性/樹液腐果汚物花蜜。訪花性はほとんどなく、花で吸蜜することはきわめて稀だが、春型はシシウド、リョウブなどで吸蜜することもある。一般にクヌギやコナラ(ナラ類)、アカガシ、アラカシ、シラカシ(カシ類)、マテバシイ、スダジイ(シイ類)、ヤナギ類などの樹液やカキ、イチジクなどの腐果などに集まり、♂は稀に地上で吸水したり汚物で吸汁する性質がある。
類似種: サトキマダラヒカゲに酷似する。特に本亜種はきわめてよく似ており、区別は結構難しい。
保 護: 千葉県:
その他:
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 幼虫に寄生するシロスジトゲヒメバチなど。

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