メスグロヒョウモン

雌黒豹紋蝶 (タテハチョウ科)


2002/5/14 14:10 袖ケ浦市吉野田 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 大型のタテハチョウ。♂♀で翅の色調や斑紋がまったく異なり、これでも同種かと目を疑いたくなる。和名もこれに由来している。本種も他のヒョウモンチョウ類と同様、晩春から初夏にかけて、ウツギやイボタノキなど白色系の花に訪れる姿を見かけることが多い。本属は大型ヒョウモンチョウ類の仲間では特異で、わが国から極東アジア地域にかけて分布する本種1種のみからなる小さな属で、系統的にはかなり古い形質を残した種であろうと考えられている。
 写真は、袖ケ浦市吉野田で5月中旬の正午過ぎ、ウツギの花で吸蜜する♂である。性差は斑紋に表れ、♀は地色が黒く、イチモンジチョウのような白い斑紋を持っているので、見分けるのは簡単。♂はミドリヒョウモンやウラギンヒョウモンと似るが、後翅裏面の斑紋が異なるので区別はそれほど難しくはない。
 訪花性は強く、主に白色系の花を好む。♂はよく地上で吸水し、稀に♀も吸水することがある。移動性は強く、蜜原植物を求めて絶えず移動を続けるため、盛夏には一時姿を消す。本種も県内に分布する大型のヒョウモンチョウ類のなかでは個体数が多く、比較的普通に見られる種類だがミドリヒョウモンよりやや少ない。これもミドリヒョウモンと同様に他の種よりやや森林に近い環境を好むため、草原性の種と違くらべるとそれほど個体数は減っていないためであろう。現時点では保護指定は受けていないが、このような環境も開発されつつあり、いずれ保護対象になることは間違いない。



メスグロヒョウモン 日本亜種 (タテハチョウ科 ヒョウモンチョウ亜科 ヒョウモンチョウ族)
Damora sagana ilone (Fruhstorfer, 1907)
分布 国内: 北海道(北部を除く)、本州、四国、九州。島嶼では佐渡、隠岐、対馬、壱岐、五島列島。発生地はほとんどが標高700m以下の平地~低山地。
県内: 市街地を除きほぼ全域に棲息するが、北部では稀。
国外: 朝鮮半島、沿海州、中国大陸~ヒマラヤ、西シベリア。原名亜種は中国大陸産。本亜種は日本固有。
変異 形態: 若干の地域差が知られるが、国内での亜種区分は認められていない。
季節:
性差: 異型。♂は黄褐色の地色のヒョウモン型斑紋を持つが、♀の地色は黒褐色で、一見イチモンジチョウ型斑紋に見える。
生態 環境: 樹林周辺。日当りのよい開けた林縁や、草原的環境を好む。大型ヒョウモンチョウ類でもっとも森林性の傾向が強い種。
発生: 年1回。稀に孵化した幼虫がそのまま摂食を開始し、第2化を生じることがある。5月中旬頃に姿を現し、10月下旬まで見ることができる。成虫の寿命は長い。
越冬: 幼虫(1齢)。孵化した幼虫は摂食せずに枯葉などに静止している。越冬幼虫は集合性が強く、数頭~10数頭がかたまって冬を越すこともある。
行動: 昼行性。飛翔は敏速で、活発に直線的に飛ぶ。花から花へ次々とわたるように飛ぶほか、樹冠などの高所を滑空するように飛ぶことも多い。夏季に個体数が減るため、かつては夏季に一時休眠するとされたが、 現在では蜜源植物を求めてたえず移動を続けているものと考えられている。移動性が強く、発生地の平地と山地を季節的に往復することが知られる。
食性 幼虫: 食植性/スミレ科スミレ属(Viola)各種。特にタチツボスミレを好む。飼育下ではパンジーなどの栽培種でも良好に生育する。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は非常に強く、アザミ類やヒメジョオン、ウツギ、イボタノキ、クリ、イタドリ、リョウブ、シシウド、オカトラノオなど多くの花で吸蜜する。♂♀共に地上で吸水し、特に♂が顕著で、♀ではやや稀。♂♀共に樹液や腐果などに集まることはない。
類似種: ♂はミドリヒョウモンと似るが、裏面の斑紋が違する。♀はイチモンジチョウに似るが、これよりはるかに大きい。
保 護: 東京都:(区部・北多摩)、神奈川県:
その他: 大型ヒョウモン類では最も普通に見ることができる種のひとつであるが、近年減少傾向にある。♀は一見イチモンジチョウ型にみえる斑紋を持つため、オオイチモンジと見間違えることがあるが、オオイチモンジは県内には分布しない。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 幼虫期に寄生し蛹から脱出するヒメバチ科ヒメバチ亜科のヒョウモンヒメバチ(Hoplismenus pica japonicus Uchida, 1924が知られる。

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