ウラゴマダラシジミ

裏胡麻斑蜆蝶 (シジミチョウ科)


2002/05/12 15:10 袖ケ浦市吉野田 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 大型のシジミチョウ。一般にゼフィルスと呼ばれるミドリシジミの仲間で最も早く姿を現す種。県内では5月上旬~中旬には見られる。全国的には平地性のそれほど珍しくもないチョウだが、近年は棲息環境が開発などの理由で失われつつあり個体数が激減している。また、食樹は県内の全域に多く自生しているが、なぜか本種の分布は局地的で個体数も少ない。
 写真は、袖ケ浦市吉野田で5月中旬の午後3時過ぎ、食樹イボタノキの葉上にとまる♀。裏面はご覧のとおり、銀白色の地色に黒胡麻を散らしたような地味な柄だが、表面には黒褐色の翅の中央付近に薄紫色ないし淡い青紫色の清楚な斑紋をもっている。♂は♀より翅表の青色部が広く白色部が狭い。また♀がやや♂より大型で翅の形が若干丸みを帯びる程度なので、裏面をちょっと見ただけでは区別が難しいが、表面を見ることができれば簡単である。
 強い黄昏飛翔性を示す種で、午後5時ごろから6時ごろまで緩やかに雑木林を飛翔するが、アカシジミなどよりやや活動時間は早め。♀はあまり活発に飛び回ることはなく、食樹付近でじっとしている。♂♀共に訪花性は強く、ウツギ、イボタノキ、クリなど白色系の花で吸蜜する姿を見かけることが多い 。ゼフィルスの仲間ではかなり原始的な種と考えられており、かつてはヤマトシジミやルリシジミの仲間(ヒメシジミ亜科)に分類されていたことがある。



ウラゴマダラシジミ 原名亜種 (シジミチョウ科 ミドリシジミ亜科 ミドリシジミ族)
Artopoetes pryeri pryeri  (Murray, 1873)
分布 国内: 北海道、本州、四国、九州、佐渡、隠岐。北海道~本州では平地性の普通種だが、四国・九州では山地性で稀。
県内: 県南部の小櫃川と小糸川に挟まれた丘陵地にのみ局地的に棲息する。個体数も少ない。
国外: 朝鮮半島、沿海州、中国東北部などに分布する。原名亜種は日本産をさす。
変異 形態: やや顕著な地理的変異が知られ、かつてはいくつかの亜種に分けられていたが、現在日本産は原名亜種に統一されたようである。 県内産のものは翅表の紫白色斑紋がほぼ白色に近い色調を示す型のみが知られ、神奈川県産との関連が示唆されている。
季節:
性差: ほぼ同型。斑紋に差はないが、一般に♀は♂よりやや大型で、翅形が丸みを帯びる。
生態 環境: 主に渓流沿いの食樹の多い林縁や林内。なかば藪化したような薄暗い環境を好む。
発生: 年1回。暖地では5月上旬~中旬、寒冷地では7月上旬に出現する。
越冬: 。ただし、卵内では年内には幼虫体が形成されている。
行動: 昼行性(黄昏)。飛翔は比較的緩やかで、午後から夕方、特に午後4時~5時ごろに蝶道のようなものをつくって活発に樹上を飛翔する。産卵は、半ばヤブ化したような薄暗い環境に自生する、生育の悪い食樹の根際に近い位置に卵塊で行われる。
食性 幼虫: 食植性/新芽若葉モクセイ科イボタノキが主。他にはミヤマイボタオオバイボタ、サイゴクイボタ、ネズミモチ、ハシドイなど。若齢時は膨らみかけた休眠芽に穿孔して内部を食べ、中齢以降は展開した葉を食べる。
成虫: 食植性/花蜜。ミドリシジミ亜科の中で最も訪花性が強く、ウツギ、イボタノキ、クリなど主に白色系の花で吸蜜することが多い。
類似種:
保 護: 千葉県:、東京都:D(区部)、埼玉県:VU(大宮台地・大宮台地/EX、中川・加須低地/CR+EN、山地帯~丘陵帯/NT1)、栃木:
その他: 近年特に数が減少している種で、千葉県レッドデータブックではB(重要保護生物)に指定されている。 ただ、食樹は県内全域に分布しているにもかかわらず、本種はきわめて特異な分布を示すことから移入定着の可能性が指摘されている。
天敵 捕獲: 幼虫はサシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: ヤドリバエ科のPhryxe heraclei (Meigen)、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のウラゴマダラシジミヒメバチ(Anisobas artopoetese Uchida, 1956)、ヒラタヒメバチ亜科のコキアシヒラタヒメバチ(Apechthis capulifera (Kriechbaumer, 1887))、キフタホシヒラタヒメバチ(Apechthis rufata (Gmelin, 1790))、ヒメキアシヒラタヒメバチ(Pimpla disparis Viereck, 1911)、チャイロツヤヒラタヒメバチ(Theronia (Theronia) atalantae gestator (Thunberg, 1822))が知られる。

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