モンシロチョウ

紋白蝶 (シロチョウ科)


2002/4/29 14:30 千葉市緑区 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 中型のシロチョウ。知らない人はいないとさえ思われる、日本産のチョウの最普通種。しかし、本来は土着種ではなく、農耕文化の伝来と共にわが国に渡来した古代の帰化種(史前帰化昆虫)と考えられている。世界的にも従来生息していなかった地域にも分布を広げつつあり、いずれ汎世界種(cosmopolitan-species)になりそうな勢いである。ただ、耕作地や人家周辺に多く、山地や原生林的環境には少ない。英語圏では"Small White"もしくは欧州に普遍的に分布する大型の近縁種であるオオモンシロチョウに対し"Small Cabbage White(小さなキャベツシロチョウ)"と呼ばれている。
 写真は、千葉市緑区で4月下旬の午前中、ハルジオンで吸蜜する春型の♂である。夏型は春型より黒色部が発達し、いずれの場合でも♂は黒色部が少ないので、区別はそれほど難しくはない。スジグロシロチョウに似るが、翅脈が黒くならないので簡単に見分けられる。
 日本産の近縁各種の中で最も明るい環境を好み、特に日当たりのよい明るい草原や畑などを好む。また飛翔は比較的活発で、上下左右に不規則に飛び、荒地に出たとき以外は直線的に飛ぶことはほとんどない。土着種・帰化種を問わず様々な花を訪れ、特に紫色系の草本の花を好むが、中でも史前帰化植物に依存することが多いようだ。第1化(春型)の羽化は県内では3月下旬頃で、以後11月中頃まで6回~7回程度世代を繰り返す。個体数は春に最も多く、次いで秋、盛夏には著しく個体数を減らすことが各地で知られている。幼虫は一般に"アオムシ"と呼ばれ、キャベツやブロッコリーなどの害虫として知られる。家庭菜園程度であれば1頭ずつ取り除けばいいのだろうが、農薬などにも強い抵抗性を示すため、大規模な畑では駆除するのは大変。しかし、畑が減った都市部では本種よりスジグロシロチョウのほうが多いようだ。



モンシロチョウ 日本周辺亜種 (シロチョウ科 シロチョウ亜科)
Artogeia rapae crucivora  (Boisduval, 1836)
分布 国内: 主な周辺離島を含む日本全土。平地~山地まで汎く分布するが、人里周辺に多い。南西諸島には近年進出し定着した。
県内: ほぼ全域に棲息するが、市街地や田園地帯が中心で、南部の山間部では稀。
国外: アフリカ北部、欧州全域~中国大陸、極東、朝鮮半島に分布するが、北米大陸や豪州など従来分布していなかった地域にも進出している。いずれ汎世界種となるものと考えられる。原名亜種は欧州産(北米産を含む)をさし、標式産地は「スウェーデン」。
変異 形態: 国内での地理的変異は知られていない。
季節: 明瞭。斑紋が相違する。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られるが、晩秋には春型に似た個体が出現する。
性差: 異型。♀は♂より黒色部が発達する。
生態 環境: 畑や人家周辺、林縁などさまざまな環境に棲息するが、基本的には日当たりのよい草原的環境を好む。
発生: 多化性通常年6 回7回。寒冷地では2回 。暖地では2月下旬、他では3月中旬に出現し、11月ごろまで見られるが、夏季には個体数が減る。
越冬: 。九州南部以南では幼虫態でも越冬する。 雨のあたらない人工物などさまざまなものに付着している。
行動: 昼行性。飛翔は緩やかだが、荒地に出ると次の緑地まで非常に速く飛ぶ。静止するときには翅を閉じるか半開することが多い。近縁種の中でもっとも明るい環境を好み、近縁種と混生する場合、日当たりのよい草原などでは有占種となっている。このような環境にスジグロシロチョウの♀が侵入すると、本種の♂が集団でこれを追い回し、域外に排出する行動が見られる。やや陰性の環境ではこの逆の現象が発生することが知られる。
食性 幼虫: 食植性/アブラナ科セイヨウアブラナキャベツダイコンブロッコリーなど特に栽培種を好むが、野生種にもつくことがある。他はセイヨウフウチョウソウ(フウチョウソウ科)、ノウゼンハレン(ノウゼンハレン科)など。なお、本亜種はキャベツなどにつく場合、周囲の青い葉を好み、中心の巻いた部分はあまり食べないが、原名亜種では逆に、中心付近の巻いた部分を好み、周囲の葉をあまり食べないという。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は強く 、アブラナ、タンポポ類、レンゲソウ、ナズナ、アザミ類、シオン類、ユリ類、シロツメクサ、ハギ類、セイタカアワダチソウ、キク類、ツルボ、コスモスなどさまざまな花で吸蜜するが、特に紫色系の花を好む。
類似種: スジグロシロチョウに似るが斑紋が異なる。
保 護: 指定されていない。
その他: 飼育は容易。農薬にも強い抵抗性を示し、農業害虫あるいは園芸害虫として有名。吸蜜の際に史前帰化植物に依存する傾向が強く、農耕文化の伝来と共に大陸から渡来した古代の帰化種と考えられている。江戸時代以前は白粉(しろてふ)と呼ばれていた。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリなどの 捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 幼虫に寄生し、終齢幼虫から脱出するアオムシコマユバチなどのコマユバチ類、蛹から脱出するヒメバチ科ヒラタヒメバチ亜科のコキアシヒラタヒメバチ(Apechthis capulifera (Kriechbaumer, 1887))、モンシロヒラタヒメバチ(Apechthis rapae (Uchida, 1925))、イチモンジヒラタヒメバチ(Pimpla aethiops Curtis, 1828)、ヒメキアシヒラタヒメバチ(Pimpla disparis Viereck, 1911)、マイマイヒラタヒメバチ(Pimpla luctuosa Smith, 1874)、チビキアシヒラタヒメバチ(Pimpla nipponica Uchida, 1928)、クロフシヒラタヒメバチ(Pimpla pluto Ashmead, 1906)、チャイロツヤヒラタヒメバチ(Theronia (Theronia) atalantae gestator (Thunberg, 1822))、ヒメキアシフシオナガヒメバチ、チビアメバチ亜科のスギハラチビアメバチ(Campoplex sugiharai sugiharai (Uchida, 1932))、ヤドリバエ科のムラタヒゲナガハリバエ(Bessa parallela (Meigen))、マガタマハリバエ(Epicampocera succincta (Meigen))、ノコギリハリバエ(Compsilura concinnata (Meigen))、エゾシロヤドリバエ、Phryxe heraclei (Meigen)、Paradrino longicornis Shima、エゾシロヤドリバエ(Phryxe vulgaris (Fallen))、Zenillia dolosa (Meigen)、Athricia curvinervis (Zetterstedt)、前蛹に寄生し蛹から脱出するアオムシコバチなどが知られる。

メイン