オナガアゲハ

尾長揚羽蝶 (アゲハチョウ科)


2002/8/9 15:45 館山市国分 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 中型のアゲハチョウ。日本産のアゲハチョウの中でジャコウアゲハと並びもっとも緩やかに飛ぶ種。和名は尾状突起が長いことによる。春はアザミ類やツツジ類、夏はヤブガラシやクサギなどで吸蜜する姿を見かけることが多い。
 写真は、館山市国分で8月上旬の正午過ぎ、薄暗い林縁に生じたヤブガラシで吸蜜する夏型♀である。♀は一般に♂より翅の地色が淡く、後翅の赤色斑紋が発達する。また、♂はクロアゲハと同様、後翅前縁に黄白色の性標をもつので区別はそれほど難しくない。特に♀はジャコウアゲハの♂と酷似していて飛んでいるほとんど区別できないが、腹部側縁が黒いのでとまりさえすれば容易に見分けられる。また、♂はクロアゲハによく似ていて混生することもあるが、本種のほうが翅形が細く、また尾状突起がはるかに長く、飛翔も緩やかで、はるかに個体数も少ない。
 県内では通常年2回発生し、4月下旬~6月上旬、7月中旬~9月に見られるが、年によっては10月に第3化が発生することがある。一般に分布は局地的だが、全国的には産地での個体数はそれほど少なくはない。産地のほとんどは低山地で、垂直分布はクロアゲハより明らかに狭 く、市街地に姿を見せることはほとんどない。♂は林縁や薄暗い林内、渓流沿いなどに蝶道をつくり、 小さな波形を描いてさまようように飛ぶ。夏型の♂はよく湿地で吸水し、集団を形成することがある。クロアゲハとは異なり、幼虫はミカン科のコクサギを最も好み、カラタチなどにもつくことがあるが、サンショウ類はあまり好まないようだ。県内では近年特に減少傾向が著しく、県内産のアゲハチョウ類の中では唯一県レッドデータブックでC(要保護生物)に指定されている。



オナガアゲハ 原名亜種 (アゲハチョウ科 アゲハチョウ亜科 アゲハチョウ族)
Parilio macilentus macilentus Janson, 1877
分布 国内: 北海道(北部を除く)、本州、四国、九州。島嶼からの記録はない。東日本では平地~低山地、四国・九州などの暖地では山地性の傾向を示す。
県内: 市街地を除きほぼ全域に生息するが、局地的な傾向が強い。食樹の関係から県北部ではきわめて稀で、南部に比較的個体数が多い。
国外: 朝鮮半島、中国大陸に分布する。日本産は分布の北東限にあたる。原名亜種は日本産をさす。
変異 形態: 国内での地理的変異は知られていない。
季節: やや不明瞭。 大きさが相違する。春型(第1化)と夏型(第2化)が知られ、夏型の♀は後翅外縁の赤色斑列が極端に発達することがある。 各産地とも個体数は、春型が多く夏型が少ないことが多い。
性差: 異型。♀は♂より翅の地色がやや淡く、後翅外縁の赤色斑が発達する。♂は後翅表前縁に黄白色の性斑をもつ。
生態 環境: 食樹の自生する樹林内や渓流沿い、林縁などのやや暗い環境を好む。街中に姿を見せることは稀。
発生: 通常年2回。4月下旬より姿を現す。寒冷地では年1回。春型のみが出現する。
越冬: 。食樹の枝やその周辺の、雨の当たらない場所に付着している。
行動: 昼行性。飛翔はアゲハチョウ科中では最も緩やかで、樹林内の薄暗い場所に蝶道をつくって飛ぶ。夏季の日中には樹林内で休息していることが多い。
食性 幼虫: 食植性/ミカン科コクサギが主。他にはサンショウやカラスザンショウ 、イヌザンショウ、稀にカラタチや栽培ミカン類など。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は強く、アザミ類、ツツジ類、ユリ類、ヤブガラシ、ムクゲ、ネムノキ 、クサギなどさまざまな花で吸蜜するが、特に赤色系の花を好む。夏型の♂はよく湿地で吸水する。
類似種: クロアゲハと似るが、翅形が、♀はジャコウアゲハの♂に似るが、胸部予及び腹部側面の色調が異なる。
保 護: 千葉県:、千葉市:、東京都:(区部)/(北多摩)
その他: 県内のアゲハチョウではもっとも見る機会の少ない種で、産地での個体数も多くない。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類やスズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫は大型ヤンマ類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類。造網性クモ類など。
寄生: 幼虫に寄生する、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のムラサキアゲハヒメバチ(Trogus lapidator lapidator (Fabricius, 1787))、ヒメキアシフシオナガヒメバチ、アゲハヒメバチ(Holcojoppa mactator (Tosquinet, 1889))、クロハラヒメバチ(Psilomastax pyramidalis Tischbein, 1868)、前蛹期に産卵するアオムシコバチなどのコバチ類が知られ、いずれも蛹から脱出する。他にはヤドリコバチ類 、終齢幼虫から脱出するマダラヤドリバエなど。

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