コチャバネセセリ

小茶翅挵蝶 (セセリチョウ科)


2001/7/25 12:20 木更津市中尾 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 やや小型のセセリチョウ。セセリチョウの仲間をガだと思っている人も多いようだが、本種のような褐色の地色に胡麻斑模様に白斑を散らす地味な柄の翅表を見れば確かにそう見えても仕方がないかもしれない。ただ、裏面は光の具合によっては金色に輝いて見える地をいぶしたような黒い筋が何本も走るので、見ようによっては渋い趣きをもったチョウだといえないこともない。
写真は、木更津市中尾で7月下旬の正午過ぎ、林縁の下草上で休息する夏型の♀である。♀は♂より大型で翅が丸みを帯び 、♂の前翅基部には暗緑色の長毛を生じるが、性差は斑紋には表れないので区別は結構難しい。季節変異は明瞭で、春型は前翅外縁の縁毛が白一色だが、夏型は黒白の斑模様になるので見分けるのは簡単。翅表はチャバネセセリやミヤマチャバネセセリなど多くの褐色系セセリチョウに似るが、裏面がまったく異なるので見間違えることはない。
飛翔は比較的敏速だが、長く飛び続けることはない。訪花性は強く、草本・木本を問わず多くの花で吸蜜する が、白色系の花を好む傾向がある。セセリチョウの仲間では特に吸水性が強く、湿地などで大集団を形成し、仲良く水を飲んでいる姿を見かけることも多い 。また乾いた獣糞などの汚物にも集まり、 腹端から水をたらしてその養分を溶かしてそれを吸う、「吸い戻し」と呼ばれる行動をよく行うことも知られている。



コチャバネセセリ (セセリチョウ科 セセリチョウ亜科)
Thoressa varia (Murray, 1875)
分布 国内: 本土全域。 島嶼では国後、礼文、利尻、奥尻。平地~山地にかけて汎く分布する。
県内: 一部の市街地を除き、ほぼ全域に棲息する。
国外: 樺太、千島(中南部)に分布する。標式産地は「日本」とのみ記されている。
変異 形態: 若干の地域差が知られるが、亜種区分は認められていない。
季節: 明瞭。翅の斑紋や大きさなどに差はないが、前翅縁毛の斑紋が相違する。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。
性差: ほぼ同型。斑紋には差はないが、♀は♂より大型で、翅形が丸みを帯びる。また、♂は前翅表前縁に緑灰色の長毛束をもつ。
生態 環境: 樹林周辺のササ、タケの群落地周辺。比較的日当たりのよい林縁的環境を好む。
発生: 通常年2回。 4月中旬~5月中旬、7月上旬~8月上旬に姿を現す。暖地では温暖な年に第3化が発生することがある。寒冷地では年1回春型のみが出現する。
越冬: 幼虫(終齢)。食草の葉を巻いた巣の基部を噛み切って巣と共に地上に落下し、その中に潜む。翌春そのまま摂食せずに蛹化する。
行動: 昼行性。飛翔は敏速で、直線的に飛ぶ。♂は夕方に枝先などにとまり、占有性を示す。日光浴などの際には後翅全開、前翅半開の姿勢をとる。
食性 幼虫: 食植性/タケ科メダケ属アズマネザサ、メダケ、ゴキタケ。 他にササ属のクマザサ、デンツクザサ、トクガワザサ、アオスズ、ミヤコザサなど。を食べる。
成虫: 食植性/花蜜汚物。訪花性は強く、ハナショウブ、アザミ類、タンポポ類、シオン類、ウツギ、イボタノキ、ホウセンカ 、シシウド、オカトラノオ、ハギ類、ツルボなどさまざまな花で吸蜜する。花のほかに汚物などにも集まり、吸い戻し行動も知られる。♂は湿地でよく吸水し、ときに大集団を形成することがある。
類似種:
保 護: 指定されていない。
その他:
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類やサシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、大型~中型カマキリ類、造網性クモ類。
寄生: ヤドリバエ科のノコギリハリバエ(Compsilura concinnata (Meigen))、Thecocarcelia actangulata (Macquart)、ヒメバチ科コンボウアメバチ亜科のAgrypon halpee (Uchida, 1958)が知られる。

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