逃避行


六太が麒麟としての使命と尚隆への情念の狭間で心揺れ、あの溌剌とした姿
は見る影もなく、痛々しく日々朽ちていく。

失道の病。それでも尚隆は彼の耳元で「お前は俺のものだ」と囁く。
虚ろに見上げた六太の瞳からは涙が溢れた。
「なぜ、尚隆なんだ。なぜお前が王なんだ」
「六太…」
「いっそ殺してくれ…」
言葉無く六太を見つめる尚隆。だが、その後、六太は全てを振り切るかのよ
うに、尚隆に手を伸ばしそのうなじにしがみ付いた。

「…いやだ、いやだ、離れない。最後まで一緒にいてくれるよな尚隆」
既にその腕には力が無く黒斑が出来ていた。
「お前は俺の半身だ、誰にも渡さん。使令にもだ。あの時みたいにおぶって
行ってやるよ。」
大きい背中にしがみ付いた。あの時の幸福を思い出す。
「使令に?…それは無理だと思うけどなぁ」
泣き笑いしながら、それでも嬉しそうな六太。
「無理なもんか。信じろ」
その明るい笑顔に、尚隆は使令との戦いを自分の墓標にするつもりなのだと
、六太は気が付いた。
また涙が溢れる。

尚隆が王でなければ、自分達は出会えなかった。
分かっている。だが今は麒麟である自分が悲しい。
民への想いで胸が張り裂けそうだ。そして愛しい尚隆の最後を思って…。


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