玄英宮 厩に続く道。 政務が終わり、少し解放気分で何とはなしに歩き来てしまった。 慶の国の、この場所で泰麒や李斎と別れた。 「どうしているかな…」 今日は太陽が眩しい。風もなくて穏やかだ。 でも戴は寒いんだろう…。 戻ろうと振り返った時、良く見知った主の姿が。 「あれ?尚隆、どこ行くんだ。」 「おうっ、ちょっとな」 「またかよ。…あのな、いい加減にしろよ。 この間の泰麒の一件でも相当時間が取られただろう」 「そりゃ、お前の立ってのお願いだったからな」 「俺のって…結局、雁が無縁ではいられないから、協力したまでだろうが」 「それのどこが悪い。俺は雁の国の小間使いだ」 「小間使いが遊んでばっかりで良いのか?」 「なんだ、随分絡むな、今日は」 憮然とする尚隆に六太が止めを刺す。 「あ〜そういや陽子に軽くあしらわれた、どこかの王様がいたっけ!」 「…暫く戻らん」 「はいはい、どうぞご自由に」 どう見ても六太が喧嘩を売ってるようにしか見えないが 売られている尚隆は、何が理由かさっぱり分からず呆れてしまった。 「なんだ、お前、可笑しいぞ」 「…ごめん。そうだな」 「どうした。泰麒のことでも思い出していたのか?」 「うん…。俺に出来ることって…、今、何もない」 先程とは打って変わって気の毒なほど萎れてしまった。 それなら尚の事、感謝こそされ八つ当たりされる謂れは無いずだが。 「…そうか。だが六太、泰麒はもう小さい子供ではない。 あの荒れ果てた国の為に、自分に何が出来るかを捜しに行った成獣した麒 麟だ。 泰麒は、もうお前の知っているちびじゃないぞ」 言わずもがなと、尚隆自身が思いながら六太を諭す。 もう、ちびじゃない。 その言葉は同時に失ってしまった痛みも伴う。 「信じてやれ」 「ああ…」 あいつは自分で選んだ。祖国に還るのだという強い想い。 必ず、また会えることを信じよう。そう思っていたはずなのに。 戴があるであろう虚海の果てに目を向けた。 「泰麒…」 その横顔を見詰めながら、尚隆は何かを言いかけたが、自嘲するようにふっ と笑い代わりに六太を誘う。 「どうだ。たまにはお前も一緒に行くか?」 「はぁ? 遊郭にか?今度は尚隆の方が可笑しいぞ」 吹き出した六太が、尚隆に向かって何かを投げた。 余りの至近距離で思わずのけぞる。 「じゃーなっ。朱衡には知らないって言っておいてやるよ!」 笑いながら足早に去っていく。 桃だ。 ―誰が遊郭だと。 ふと思い出す。 麒麟は王のもの?廉麟だけじゃないのか、そんなの。 「…信じられんな…。」 かじりながら苦笑する。 六太が振り返ると、尚隆が、たまに乗って去っていく姿が見えた。 手をかざす。 本当に今日は太陽が眩しい…。 |