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“†ime after †ime”



「……あいつ、マキの奴、恵利子のことが好きだ、って言って」
恵利子は、えっ……と眉をひそめた。巧は、痣と絆創膏だらけの顔で、気まずそうに
彼女に語った。
「マキは昔から、いわゆる『男嫌い』で……それは知ってたけどさ。まさか、恵利子のことを
 好きだなんて……。それで、俺はエリの彼氏でいる資格は無いって言うんだ。俺みたく
 鈍感で、エリが悩んでるのにも気付いてやれないような奴じゃ、エリが可哀相だって」
いつしか二人は、道端で立ち止まっていた。
「マキの言うこと聞いてたら、確かにアイツの方が、エリのこと分かってて、大事に思ってる
 気もした。だけど、それが悔しくってよぉ……だって、女の気持ちは女の方がよく分かる
 のは、 当たり前だろ? 俺だって、分かりたいけど、どうしたってハンデあるよな。
 それで、俺なんかに恵利子は任せられない、渡せないって……ずるいよな。
 マキがいきなり殴ってくるから、つい俺も、ガキの頃みたいに取っ組み合いになって、
  『こっちこそ、オメーなんかにエリを渡すか!』って、本気で大喧嘩しちまった」
恵利子は背中を向けたまま、じっと彼の話に、耳を傾けていた。
「大人げないと思ったけど。マキは……本気で俺を殴ったよ。だから俺も、絶対に
 エリは譲らないって、言った。――十年ぶりの殴り合いにも疲れた頃、マキが言ったよ。
 分かった……エリが俺を好きだから、仕方ないから、負けてやる、って。でも、俺みたいな
 鈍感な男は、自分は大っ嫌いだとさ……エリ? どうし……」
恵利子は、静かに肩を震わせていた。くるりと振り返り、見上げた瞳は……
「――あんたって、ホンットーに、鈍感ね……!」
泣きたくなって、そのまま彼に抱きついた。こんな、ニブで鈍感な奴のために、一体今まで、
何を悩んでいたのだろう。腹が立つほど鈍感で……それでも、やっぱり好きなんだと、
分かっていた。だからこそ、自分でも待つだけはなく、その思いを、言葉にして言わなければ
ならないのだと思った。
大切な宝物を譲ってくれた、真紀絵のためにも。










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