さて、塗装をせずにへこみを直すデントリペアですが、
意外なことに自動車業界の人でもデントリペアのことを知らない人が多いのです。
そのため自動車会社にへこみのある車を持ち込んで見積を取ると、多くの場合傷の無い小さなへこみでも板金塗装の見積を出される
ことが多く、当然ですが見積価格はデントリペアの倍以上になります。知らないということは本当に損ですね。
デントリペアは今でも自動車メーカーの製造ラインの最終工程でボディパネルのわずかな歪などを消すために
応用されています。メーカーのパネル調整現場では表からのハンマーリングがほとんどのようです。
デントリペアの直し方の実際はズバリ、へこみの裏側から正確に丁寧にデントツールを使って押し出しているのです。
決して裏から適当に叩くわけではありません。もちろん表からのポンチングは裏からと同じくらい数多く行います。
そして裏側には少なくともリペアツールが入るスペースが必要になります。そのため裏側に補強材があったりパネルが折り返されて
いたりすると修理できないことになります。
実際のデント作業は表側からへこんだ部分に蛍光灯を映しこみ、蛍光灯のゆがみ(へこみの形)をよく見極めながら何回も
何十回も押し出しているのです。
慣れてくればパネルの僅かな凹凸や塗装肌の凹凸まであたかも月のクレーターのように見えてきます。
ただし、蛍光灯を映しこむ角度(ライティング)や自分が見ている位置がまずいと凹凸が正確に見えなくなります。
こんなときはなかなかへこみの芯を捉えられなくて時間がかかったり、へたをすると思わぬところにアウティ(出っ張り)を
作ったりするので注意が必要です。
最近のボディパネルはハイテンション鋼が多く使用されパネルに弾力があり、一度くせがつくとその形に戻ろうとしますが、
少しづつ何度も正確に繰り返し押し上げて形を元に戻していきます。最終的には塗装の肌目と同じように状態を整えていきます。
ただし、中心の折れ込みがキツイへこみの場合はかなり困難な作業になります。鉄板や塗装に伸びや亀裂ができていたりすると
デントリペアでは完全に直せないこともあります。しかし私どもはそんな場合でも少しでも目立たなくしたいという
お客様の気持ちに沿ってできる限りの手をつくして努力をしています。
もしご自分でチャレンジされる場合は決していきなり強く押し出さないことです。局部的に強く押し出すとそこの部分だけが
飛び出してしまい、へこみを直すどころかへこみがでこぼこになってしまいます。
最近はDIYで直せるデントリペアやウインドリペアキットなるものも売られています。
お値段も4000円〜5000円ぐらいと手頃で、これらを使って簡単に直りましたなどの”さくらブログ”などもありますが
まず満足のいく結果は得られないと思います。特にへこみの修理に関しては、「突然ぽんっと音がしてへこみが戻りました」など
と書いてありますが、実際にはへこみはそんなに簡単に戻りません。市販のデントツールは表から吸引するタイプ
ですが、表からの吸引は私達も使用することもあるのですが、それだけではへこみは直りません、いわゆるへこみの芯が出ないのです。
要するにへこんだ部分全体がそのまま上がるわけですからへこみの形は変らずに、周りの高さが高くなりすぎるのです。
それを修正するためにもやはり裏からピンポイントで押し上げる必要があるのです。