ことば



  養護学校の入学式の日、学園で一緒だったお友達を1年ぶりにみつけました。その時、すばるが

「○○△△ちゃん!」とフルネームで!!

 ちゃんと覚えていたんだね。学園で遊んでた頃は、すばるは言葉が出ていなかったから、物や人に名前があることを
まだ、わかっていないと思っていました。

 でも違ったんだね。ちゃんと知ってたんだ。後でびっくりさせようと思ってたんだね。




 今でこそ、たとえ言葉が出なくても、気持ちを伝える術があればいいんだと思えるようになりましたが、2,3歳頃はだいぶこだわっていました、私が。
なんと言っても、障害の度合いを判定するのに、発語のあるなしが大きな問題でしたから。

 ビデオなどの機械を操作することは、2歳頃から一人でやっていました。
このころ、ロゴやマークに興味を持ち始め、電化製品のメーカーのマークや、家電店のチラシを持って来て、私に「読んで」と指差すようになりました。

 やがて、マークからテレビ局の名前、番組の名前...というふうに少しずつ言葉への関心が出て来たと思います。

 年中になる頃、言葉にどんどん興味をを持ち始めたので、おもちゃのパソコンを買い与えてみました。


 画面に絵が出て、その名前を英語で打ち込む、というものでしたが、機械が大好きなのでキーボードの操作はすぐに覚え、遊ぶうちに「物には名前がある」
と気づいたようで、みるみる打ち込める単語が増えていきました。

 冷蔵庫から卵を出して[egg]、周りの家族も「おお〜、天才!」なんて笑っていました。
日本語より先に英単語を覚えましたが、昴のやる気を最優先させて、ほめちぎっていました。

 見通しを立てて行動するために、学園では1日の予定に数字で順番をつけていましたが、昴にとってもわかりやすい方法だったようです。

 お兄ちゃんのCDプレイヤーに、曲名が数字と一緒に現れるのに気づき、じっと見ていたようです。その時

「おかあさん、すばるが[よん]って言った!!」

お兄ちゃんとお姉ちゃんが走って来ました。   初めて、自分から言った意味のある言葉だったでしょう。

 その後、しばらく何も言ってくれませんでしたが、年中の秋ごろ、単語の一番上の文字だけを言うようになりました。
お父さんもお母さんもおばあちゃんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも、みんな「お!」です。バイバイは「バ!」
毎日何か話すたびに嬉しくて喜んでいました。

 ある日、テレビを見ていたら、大好きなパパイヤ鈴木が出ていました。そこで昴は「パ!」
「そうだね。パパっていうのは、おとうさんのことなんだよ。」と言ってみると、そばで寝ていたお父さんのそばに行って「パパ!」

......昴、偶然なの?

 驚いている私のそばに来て、今度ははっきりと「ママ!」

 そうだよ!すばる、ママだよ!言えるようになったんだね!!テレビを見て喜んでる昴のとなりで一人、ボロボロ泣いていました。


 それからは、少しでも声を出して何か話すと、周りが大喜びしてほめるので、昴もそれが嬉しかったようで、少しづつ発音できる言葉が増えていきました。
学園最後のお遊戯会では、初めて「せりふ」もあったのです。

 入学してからは、毎朝の新聞テレビ欄チェックで、曜日感覚を身につけたようです。学校行事、日程、献立など、曜日と関連付けて覚えていきました。

 自閉症の特徴と聞いたことがありますが、イントネーションが変だったり、助詞がなかったり、場面と関係ないことを突然言ったりもしますが、
話すようになったことがうれしく、かわいく、おかしく。家族には幸せをくれます。

 自分の思いが少しずつ伝わるようになり、相手の言うこともわかるようになってきてからは、以前のような大きなパニックは少なくなってきています。