神の住む国アスガルドの首都、ヴァルハラ。
町の名にもなったこの国の王である主神オーディンの住むヴァルハラ宮殿の玄関ホールで金髪碧眼の美貌を持った男は目の前にいる珍しい細工の首飾りをした少女をかこんだ数人の男に声をかけた。
「お前たち、ずいぶん醜い顔をしているけど何のようだい?」
薄笑いを浮かべ、からかうような口調で金髪の男は言った。男達が醜いのではない。首飾りをした少女と金髪の男が美しすぎていた。
「・・・ちがいますよ」
一人の男が丁寧だが吐き捨てるような口調で言った。
「私たちはヴァナヘイムからフレイア様をおつれしたのですよ」
少女を囲んでいる1人の男が声を上げた。
「アスガルドへようこそ、フレイア様。このたびは我が国の主神オーディンの妻になられるとの事で。御苦労お察ししますよ」
金髪の男は大げさな動作で礼をした。
「挨拶などあとでしろ。何者だか知らんがさっさとそこをどけ!」
美の女神であるフレイアを囲むには醜すぎる一団の中で最も醜い男が声を荒げた。
「我々は絶対に遅れるなと命を受けていますのでそこをどいていただけませんか?」
さらに別の男が続けた。
「いやだねぇ。」
金髪の男が薄笑いをうかべて言った。
「ふざけるな!」
醜い男が大声を上げた。
「王家顧問魔術師として君達に命令だ、ニブルヘイムに行きたくなければ今すぐここを去れ」
金髪の男は薄笑いを浮かべたまま、静かに言った。
男たちの顔色はニブルヘイムと聞いて恐怖の色に染まっていた。
「去るんだ」
呆然としている男たちに向かって金髪の男はもう一度、同じ言葉を繰り返した。
男達は逃げるように去っていった。
「あなたはどなたかしら?まぁあなたが誰であろうと私の兵を払う権利はあなたにはございませんよ」
男たちが見えなくなった後、フレイアが言葉を発した。
男たちが去っていった方を見ていたロキはフレイアに向き直り言葉を返した。
「僕は王家顧問魔術師のロキ、改めてこれから同じアース神族としてよろしくおねがいしまーー」
「なにをやっているんだ、ロキよ」
ロキを背後から声がした。。
「その言葉をそのままあなたに返しますよ。ビフレストの番はどうしたんだ?ヘイルダム」
ヘイルダムは黒髪を短く切り、アスガルド軍の兵の着る物と同じ作りの漆黒の鎧を身に着けていた。
「俺はおまえのように用もなくふらふらしたりはせん。軍事会議によばれたから来たのだ。」
「うそくせえな。沼の見張り番が戦争の役に立てるのかい?」
ロキはせせら笑うように言った。
「勝手に言っているがいい。だがフレイア様をオーディン様の元へ連れて行くのは俺の役目だ」
ヘイルダムは表情を全く変えずに言った。
「なぜだか言えるかい?」
「言えるさ、たったいまオーディン様から連れて来いという命令を受けたんだからな」
「そうかい」
「わかったなら会議がはじまるまでどこかへ言っていろ」
「しかたないか・・・・。それではフレイア様、会議の場でまた会いましょう」
そういってロキは2人に背を向けゆっくりと歩き出した。
「あいつの事は気にしないでください。我がアース神族の恥ですから」
「この場は見なかった事にしておきましょう」
廊下を歩いているロキを蔑むような目で見ながらフレイアが言った。
「そうしてもらえると光栄です」
ヘイルダムはそこで言葉を切りロキが会議場にはいったのを確認して改めて言葉を続けた。
「私について来てください、フレイア様。オーディン様がお待ちしています」
フレイアは黙ってうなずきヘイルダムと共に玄関ホールを後にした。