T.T さんから頂いた年賀記念のSSです。
清麿・恵カップリング推奨の同士としては堪らない一本、
年明けから堪能させて頂きました!!
T.Tさん、ありがとうございました!!

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夢を見た。なんかとんでもない夢……。
どういえばいいのだろうか?
荒唐無稽? 支離滅裂?……いや、妄想具現?
まあ、詰まるところどんな夢なのかといえば……その……、
…………とても、いい夢だったのかもしれない。……たぶん……。


ある日のイヌの夢


「……眠ぃ……」
目が覚めたら、そこはオレの部屋だった。……いや、当たり前なのかもしれないけど……。
すこしだけ呆けた頭で目覚ましを見た。……朝の十時……か……。
まあ、普通はこんな時間に起きるのは色々な意味で論外だ。なにせ学校があったら遅刻だろうし、
休みだとしても誰かに間抜けな寝顔を見られる前に起きているからだ。
……特に……恵さんだけには見られたくないな、オレの寝顔は……。
まあ、今日はその心配は無いわけだ。なにせ今日は一月三日。世間で言うところとの正月真っ最中というわけだ。
「トップアイドルである大海恵さんはとてもお忙しいらしく、オレと会えるのは早くても明日になるのでした。
……ははは……あ〜、虚しい……」
……なんて、すこし自嘲気味にはなってしまったが、ようするに恵さんは年始の仕事で本当に忙しいのだ。
なにせ、彼女のマネージャーから貰った情報だ。間違いは無い。
しかたがないとはいえ、さすがに寂しい……。
なにせ、最後に会ったのはクリスマスイヴだった。それからの恵さんはとにかく忙しかった。
特に大晦日は本当に忙しかったのだ。恵さんは初めて紅白に出演したし、それが終ったら終ったで、
午前零時からの年明けコンサート。
そして、年明けからは朝早くからの生番組出演。それからもetc……etc……。
とにかく、正気を疑うくらいのハードスケジュール続きなのだ。
とてもではないけど彼女の体が持ちそうなスケジュールとは思えない。
だけど、そんなことを思ってもオレには何も言えない。当たり前じゃないか、これは彼女が望んでしていることだ。
『大丈夫! これくらいなんでもないから!』
心配になって、つい聞いてしまったときも彼女は笑顔でこう答えたのだ。こんなことを言われたらオレはなにを言えというのだ?
だから、オレにできることは彼女が休めるときにはできる限り一緒にいることしかできない。
……歯がゆいが、今のオレにはそれしかしてやれない。
ああ、いや。無論、彼女の仕事の間、ティオを預かることはしているわけなのだが……。
そんなわけで、今日は遅く起きても特に焦る必要はなにもないワケで。
「俺が焦る必要もなにもないということだな。ははは……やっぱ虚しい……」
ま、虚しさを味わっても仕方ないし、メシでも食うか……。

バタン!

……へ?
「ワンなのだ! 清麿!」
「ワンなのよ! 清麿!」
…………え〜っと、なんだ?
「だから、ワンなのだ! 清麿!」
「だから、ワンなのよ! 清麿!」
まあ、とりあえず言えることは今、ドアを開けて入ってきたのは言うまでもなくガッシュとティオなのだが、
……なんで……イヌの着ぐるみ?……なんか着てるんだ、コイツら?
「き〜よま〜ろ〜! ワンなのだ!」
「だから〜! ワンなんだってば!」
「わ、わかったから。……で、なんで『ワン』なんだ?」
とりあえず理由を聞いてみたら…………ガッシュもティオもなぜか黙ったまま?
「……ウヌゥ。そういえばなんでなのかのう?」
「……そうね? なんでかしら?」
…………おい…………!
「おお! そういえばこれはマネージャー殿から貰ったのだ! なかなか温かいのだ!」
「うん! ほら、見て見て! このボタンを押すとシッポが動くの! 可愛いでしょ?」
そう言いながらティオは胸にある赤いボタンを押した。……確かにシッポが動いているな。
「そうかそうか。……だからなんで『ワン』なんだ?」
「……ウヌゥ? 確か……そう言ってみたかっただけであったのう、ティオ?」
「……そういえばそうね。特に意味はないわね」
…………コラ…………!
「……つまり、なにか、お前ら? ただ意味もなく俺を困らせたかったのか?」
しまいには怒るぞ、お前ら……!
「よいではないか。たまにはこんなのも」
「そうよそうよ。清麿ってばつまんない事を気にしすぎよ」
…………プ・チ・ン・!
「……おまえらぁぁぁ!」
キュ……。
「ワン♪」


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………………………………………………………………はい?



今、後からものすごく聞き覚えのある声が聞こえた。しかも、声の主は後からオレの腰に抱き付いていたりしているようで……。
いや、確かに間違いない。この耳から離れない声は絶対に忘れるわけはない。
しかも、この声はオレしか聞けない甘い甘い声。
そう、一人しかいないわけで……。
「……ティオ、一応聞きたいのだが……」
「なに?」
「今、オレに抱きついて、あまつさえ『ワン』って言ったのは……誰?」
「なに言ってるのよ、恵に決まってるじゃない。……さすがに今のは私も驚いたけど……」
あはははは、やっぱそうか。
そうだよな、この声は恵さんしかいないよな〜。
あ〜、なんかオレ、現実と妄想の区別がつかないくらいおかしくなってるのかもしれないな〜。
だって、恵さんは今は仕事だもんな。こんなところにいるわけないよな〜。
「ワン、ワン♪」
オレの目の前まで来てから改めて妄想の恵さんはオレに抱きついた。
「ク〜ン、ク〜ン」
恵さんはオレに抱きつきながらオレの胸に顔を押し付けたり、たまらないくらい甘えた顔でこちらを見たり……、
「わうん♪」
……ペロ……。
……ついでに……その……めぐみさんは……おれのかお?を……ぺろぺろなめたり……してますし……。
って、……あれ? 今の感覚は…………本物?

な……、な……、な……、
「なにがあったぁぁぁぁぁぁ!?」
あまりに(ある意味)壮絶極まりない今の状況に思わずオレは恵さんを突き放して部屋の端まで
(座ったまま器用に)高速移動してしまった……。
いや、だって今の状況は本気でヘンだろ!?
今の恵さんは振袖にポニーテールと新春らしい格好だ。それはいい。ついでにオレも眼福だ。(……いや、それはどうでもいいか……)
だが、だが……、
なんで、頭にイヌの耳が生えているんだ!?
ついでになんでシッポが生えているんだ!?(しかもなぜ動いている!?)
と言うか、さっきからそのイヌっぽい声とイヌっぽい仕草なのはどういうことだ!?
「ク〜ン……」
今だって、オレから突き飛ばされたことがショックなのか、辛そうな目でオレを見ていたり……。
「く、くそう! そんな困ったような顔でオレを、オレを見るなぁぁぁぁ!」
「き、清麿……。よくはわからぬが、泣くな、泣くでない……」
「ガッシュ……。本当に哀れだと思うなら俺の肩を叩いて同情するな……!」
そ、それに! 確か恵さんの仕事は今日も残っているんじゃなかったのか!?
確か、マネージャーさんが……、

「ああ、やっぱり困ってるわね。ま、私はそんなアンタが好きっちゃ好きだけど。……見てて楽しいし……」

……また後から声が……。
「……なにやってるんですか、マネージャーさん……」
「なにって、そのとっても楽しい光景を写してるの。あ、私のことは気にしなくてもいいから」
「……いや、気にしますから……」
そこにいたのは恵さんのマネージャーさんだった。デジカメ片手に楽しそうにしやがって……。
……とりあえず、色々聞きたいことはあるわけなのだが……、
「まずは……今日はまだ恵さんの仕事は残っているんじゃ……」
「え? あれはウソに決まってるじゃん。意表をついたほうが色々楽しそうだし」
……この人は……。
「そうですか……。なら、もう一つ。と言いますか、こちらの方が本題なのですが……」
「メグがイヌになっちゃったこと?」
「……わかってるんじゃないですか。なんで……!」
「だって、原因は私だからね〜」
……さらりと……言いやがった……。
「あ、あ、あ、アンタって人はぁぁぁぁぁ!!」
「まあ、待ちなさいってば。ほれ、メグが怖がってる」
「……あ」
気がつくと恵さんはこちらから目を逸らして怯えていた。
……どうしょう。体を震わせてるし、目が涙で潤んでいる。まるで怒られた子供のようだ。
「ほら、なんとか宥めてやらないと」
「……わかってますよ……」
オレは怯えている恵さんに近寄る。
「クウ〜ン、クウ〜ン」
怯えて警戒している恵さんをオレはそっと抱きしめる。
「恵さん、怖くない、怖くないから……」
恵さんの体は震えたままだ。今だってわかるくらいに……。
「大丈夫だから、怖くないから……」
「……クウ〜ン……」
恵さんはまだ怯えているけど……すこしずつ……落ち着いて……、
「……わぅん……」
ほら、今は落ち着いて、そのまま……、
「…………すぅ……」
……寝ちまった……。ま、いいけど……。
「いや〜、楽しかったね〜。ついでになかなか痛い光景だったね〜♪」
ついでに後で傍観していた約一名が気楽なことを言ってやがるし……。
「え〜、まずはなんで恵さんがこうなったのか聞きましょうか?」
とりあえず言っておくと……俺はマネージャーさんのほうを向いてはいない。
今、マネージャーさんがオレを見たら、オレがなにを「しでかす」か、わかってしまうだろう。……オレの顔を見ちまったら……。
「ん〜、では話しましょうか♪」
オレがなにを考えているか知りもせず、マネージャーさんは語り始めた。

「とりあえず、年明けの仕事を終ったメグは今日、ティオちゃんを迎えに行くついでに新年の挨拶に行くつもりで
とっておきの振袖に着替えたのよね。ま、それはいいけど」
「で」
「ところがいざ、アンタの家に着いたときにメグってば緊張しちゃったのよね。アンタに挨拶するの怖いって……。
別に結婚前の挨拶するわけじゃないのにね〜」
「で」
「しょうがないから、華さんに挨拶したあとの景気付けついでに私の秘蔵の酒『鬼惚れ』を飲ませてやったのよ。
度数はウォッカと同じくらいのやつなんだけど……」
「……で」
「そしたら、へべれけになっちゃったのよ。わずか四分の一杯よ。普通、酔っ払う?」
「…………で」
「このままじゃ挨拶させてもしょうがないかな〜、って思ったんだけどさ、ふと思ったのよ。あ、面白くなりそうかな〜、なんてさ」
「………………で」
「そ。だから、恵に催眠術をかけたのよ。『アンタはだんだんイヌになる〜』なんてさ」
「……………………で……!」
「あ、ちなみに催眠術は例の『糸をくくった五円玉』を目の前でふる由緒正しい催眠術だから。確実でしょ?」
「……………………で……!」
「ま、とにかく成功してすっかりイヌになっちゃったメグにオプションで耳とシッポをサービスで着けてやって、
さらに視覚面で効果的にするためにガッシュちゃんとティオちゃんに着ぐるみをあげたのよ。
ま、着ぐるみは元々お土産だったんだけどね」
「…………………………で!」
「あとはアンタの知ってる通りよ。まさかここまでうまくいくとは思ってなかったけどさ。」
「……あと、言い残すことは……?」
「え、言い残すこと? う〜ん、……楽しかったかなぁ〜、……なんて♪」

……ふっふっふっ……。
そうか、それが『言い残すこと』ですか……。
「わかりましたよ。よ〜くわかりましたよ。……ふっふっふっ……」
ああ、もう迷いはない。……ないとも……!
「き、きよまろ……」
ティオが怯えているが……もうオレは止まらない……。
「お、落ち着くのだ……」
ガッシュが宥めようとするが……もう誰もオレを止められない……。
「え? なんで本なんて取り出して……る……わけ……」
ようやくマネージャーさんもオレのやることに気づいたようだが……もう……遅い……。
ああ、そうさ。オレは今、確かに本を、魔本を手に取った。
赤い、赤い、それこそ血のような赤い魔本を……。
「ええ、よ〜く胸に刻んでおきますよ。マネージャーさんの最後の『遺言』が『楽しかった』って……」
「え? いや、別に私は遺言のつもりで言ったんじゃ……」
「実に『らしい』遺言ですね。ええ、いつも自分の楽しみを最優先にオレと恵さんをからかってるアンタらしい遺言だ……」
ああ、そうだよな。この人はこういう人だったんだよな。……今回もしっかりやられたな……。
だから……しっかりツッコミを入れないとな。
「ま、待って! いくらなんでもそれはマズイ! それはマズイわよ! ワタシニンゲン! マモノジャアリマセン!」
「大丈夫ですよ。なんせ高齢の老人が喰らっても、焦げた程度で済みましたから」
……まあ、言うまでもなくナゾナゾ博士のことなんだけど……。
メグがまた怯えるわよ! アンタそれでも……!」
「大丈夫、まだ寝てますから。寝ている間に済ませますから。……さあ、もういいよな……!」
「ち、ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
――心の力を込める。
――可能な限り……全力で……。
――対象を……『滅殺』するために……!
「し……ねェェェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇぇてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
そして……撃つ!!
「ザグルゼム! ザケルゥゥゥゥゥ!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

かくて、悪は滅びた……。
まあ、さすがに本当に殺すわけにもいかないので焦がした程度で済んだのだが……。
それでもまた、第二、第三のいたずらが襲ってくるだろう。
……考えただけで……鬱だ……。

「清麿……くん?」
「ん? ああ、おはよう、恵さん」
あれから一時間くらい。恵さんは目を覚ましたようだ。
「もしかして、私、寝てた?」
「ああ。疲れてたんだろ? なんならもうすこし寝ていてもいいけど」
「そんなわけには……あ、でももうすこしだけ……いいかな?」
「ああ、オレは構わないよ」
「ん……ありがとう……」
ちなみに、マネージャーさんはあの後、逃げるように帰っていった。
恵さんは今日明日はオフらしい。今度はウソではないようだ。……ウソだったらまたツッコミを入れるだけだし……。
ガッシュとティオもお袋と遊びに行った。……アイツらも震えていたようだが……まあ、そのうちケロっとした顔で帰ってくるだろう。
トラウマにはなってないと……思う。……たぶん……。
「清麿くん。……私、夢を見たの……」
寝ぼけ眼で恵さんはオレに話しかけた。本当に夢を見ているような声で。
「夢?」
「うん。なんかとんでもない夢……。私が清麿くんにワンワン言いながらじゃれるの」
「ふ……ふ〜ん」
「おかしいね。私、イヌじゃないのにね……」
「そ……そうだな……」
事実は……言わない方がいいよな、絶対……。
「清麿くん。遅れちゃったけど……」
「え?」
「明けまして……おめでとう。今年も……よろしく……おねがい……」
そこまで言って、恵さんはまた夢の世界に旅立った。
ちょっと期待外れだけど……ま、いいか……。
「ああ、おめでとう。今年もよろしく、恵さん……」


それは夢のような現実。
無茶苦茶で、荒唐無稽な現実。
ずっと夢見ていた、オレにとっては妄想みたいな現実。
言い方はいろいろあるかもしれないけれど……、
今年もそんな年になるかもしれない。
ガッシュやティオに振り回されて、恵さんにも別の意味で振り回されて、
それでも、オレは、今年はガッシュもティオも友達でいられる、恵さんが好きでいられる……
そんな夢のような楽しい年になると……思う……。


あとがき
いいのかな〜;大丈夫かな〜こんな話;
今年が戌年だからイヌみたいな恵さん書いてみたけど……やっぱヤバイですか?痛いですか?
新年からこんなぶっ飛ばしまくり暴走しまくりなネタ……いいのかな?