服もそのままでベッドに括り付けられた両腕は自由がきかない。 ビジャックは必死にあがくが、締め付けられた肌に布が食い込むだけだった。 視界からはずれているため、どういう結び方をされているのかすら解からない。このまま引いて、千切れるものなのかどうか。 オルエは自らに目隠しをしていた。そして妖しい笑みを浮かべていた。 ゆっくり、彼が近づいてくる。 ビジャックのベルトは彼が手を滑らせただけで簡単にほどけた。手品のように、一瞬だった。 「…オル、待っ!」 ビジャックは止めたがオルエはその声を聞こうともせず、寛げた服から露わになったそれを口に含んだ。それは、視覚がきかないオルエの頬に一度あたり、そしてなぞるように唇の中へと入り込んでいく。 「…ッ」 思わず目を逸らせたが、水気の感覚にまた視点を戻す。 わざと水音を立てて、オルエが何度もそれを舐めた。口だけでなく頭まで上下させて、時には舌を這わせて、時には飲み込んだ。刺激の強すぎる眺めだった。 ふいにオルエが顔をあげて、自分の指を舐め始める。 目が覆われているだけで、こうも表情が読み取りにくいものか。何を考えているのかまったく解からなかったが、じきに彼の行為であきらかになる。 オルエはその指で自らの奥を突きだした。 脱衣された下半身に、羽織ったままの法衣が揺れる。彼が指を埋めて、取り出して、広げて、こするのが、目の前で繰り返された。 ビジャックは溜まった唾を飲み込む。自然な息の仕方が解からなくなった。瞬きの仕方も。唾液とはこんなに口内に溜まるものだったか。思考は躊躇うのに、オルエの指は止まってくれない。何度も何度も彼自身の犯す。それからやがてゆっくり、微笑んで、 とうとう、勃ち上がったビジャックの上に、腰をおろした。 「オル、オルエ!…おい…ッ…!」 ぐずぐずと、それは飲まれていく。 いつのまにそれは硬度を持ったろう。意識した覚えは無い。呼吸と瞬きに集中するあまり、他の感覚への制御がきかない。最後まで埋まり、オルエは満足そうに息をついた。 一瞬の空白に、ビジャックは彼にやめさせる方法をめぐらせる。 もちろん、そんな手段はない。 考え付く前に、オルエがそのままビジャックの腹に片手をついて、腰を上下に動かせ始めた。 驚いたのも束の間、追って彼の口から甘い甘い言葉が漏れる。たまらなく甘い、ビジャックの脳髄を溶かしきる声だった。 「…んン、あ、…ふ、ァ…っ」 目隠しごしの表情が、切なく震えている。口は常に半分開いた状態で、それはいつまでもその甘い声を発し続けた。 「…ハ、…ッ、ゃ、アぁ、…、ん…!」 熱い。 熱くて息が出来ない。 締まって、肉が収縮して、拡張して、血流がめぐって、廻りすぎて頭が回らない。 眼球で鼓動が感じられるほど、全身が脈打っていた。 オルエの動きが滑らかで、それが妙に淫らだった。 ひとつも無駄な動きがなく、生身の人間にしかできないうねりを、まるでそうするためだけに造られた機械のように続けて繰り返す。 上げて、おろして。あげて、おろして。そのたびに埋まり、すられ、液体がこぼれる。 「…オル、やめ…ッ」 「ハ、ぁ! ヒぁ、あ!あ!アァ!」 声をかけると、オルエはいっそう熱い音を出した。水音もそれに混ざり、何かが破れそうなぐらい振動させられている。鼓膜か、脳か、或いは理性か。どれだっていい。いっそ破れてしまったほうが楽なのではないかと思えるほどだ。 縛られた手首が痛い。熱なのか痛みなのか、もう認識できない。それを必死にほどこうとする。オルエは腰を動かせる。 「……オルエ…ッ! もう、…ッ、やめ…ッろ、…ぁ」 焼き切れそうだった。頂きが近い。断崖に追い詰められた。 「っ……!」 ぐらりと世界が揺らいで、落ちる。 嗚呼。 急に呼吸が戻ってきて、縛られた腕の刺激は痛みである事が解かった。ビジャックは肩で息をしていて、たまっていたはずの唾液はカラカラに乾いていた。 玉のような汗を噴き出しているのが、見なくても解かる。 オルエは腰をうずめたまま、にたりと笑った。 中の感覚がある。 体から切り離されたように、別の細胞が内側のぬめりを感じ取っていた。 それを吸い上げるオルエの奥。 ズ、と一度だけ音をたて、それは引き抜かれた。 腰をあげたオルエから、ぱたぱたと液が零れ落ちた。 肩で息を整えつつ、後悔がビジャックを覆う。それでもオルエは笑っていた。 疲労に飲み込まれそうになりながらも腕の開放を待っていたが、一向にその気配がない。 視線を彼に戻す。 オルエのそれも、十分に熱を持っていた。 嗚呼、手の自由がきかない。 近くにくれば口の奥へと導いてやるのに。触りたい。 腕はほどかれるだろうと確信していたが、オルエはそうしなかった。 それどころか、彼はゆっくり身体を、ビジャックにすり寄せ始める。 右太ももに、オルエの内股がすられ、熱をもったそれが摩擦に震えている。 「ちょ、オル…っ!」 オルエは再び、あの甘い声をつむぎ、腰だけといわず、胸も、腹も、ビジャックの身体に擦り付けた。下から上へ、擦っては戻り、滑らかな動きで、擦っては戻る。 オルエの身体が感じる刺激と、同じ分だけビジャックの身体も味わうことになる。 放ったばかりの熱が、また篭りつつあるのが解かる。 「…オルエ、…オルエ…!」 抑制の声も、彼の動きは止められない。 快楽のままに擦り合わせているのかと思えば、落ち着いたはずの血が、加速を取り戻す。 彼のそれから漏れる液にビジャックの足は濡れ、擦られる肌は熱を覚え、 一度、焼き切れた神経を、さらに焼かれる熱帯夜は、 終わりを知らない。 |