蹴った。腹をだ。 何度も蹴った。 そう、何度も。 オルエがやめてくれというまで蹴る。彼の口がそんな言葉を織ることはない。 だからビジャックは蹴るのをやめられない。 オルエは笑う。 最後に強く蹴ったのが、鳩尾に入ったらしく、オルエが一度むせて、大きく咳き込んだ。 それに耐え切れなくなって、ビジャックは彼を抱き起こす。 もういいじゃないか。誰かがそういう。 駄目だ。解かっている。 彼に口付ける。優しく優しく、いとおしいオルエに口付ける。 もういいじゃないか、手に入らなくても。 舌をなで、歯をめぐり、何かの衝撃に切れたのだろう口内を丁寧に舐める。彼を抱きしめて、傷を癒してやろうと思う。 手に入らなくても、こうしているだけで。 するとオルエがビジャックを突き飛ばした。 ハッとする。 拒絶されたのだろうか、よく解からない。もう一度抱きしめると、首筋を噛まれた。激痛が走る。容易に離してくれない。本気で噛まれている。 引き剥がすと彼の歯が赤く染まっているのが見えて、彼の赤い髪の毛に続いて、血が舞った。首から出ているのだと知り、ビジャックは傷口を手で押さえる。オルエがけたたましい声で笑う。 黙って部屋を出た。後ろからオルエの笑い声がせまってくる。 ビジャックは噛み締める。 なにが、もういい、だ。全然よくない。 いいわけないじゃないか。 あれは自分のものだ。 誰にもやるものか。 譲ってなどやらない。誰にも触らせやしない。 彼自身にも。 |