シーツの擦れる音と、粘着質な水音が室内に響く。
中に押し挿れては、引き抜く。
ただ繰り返される単調な動作。
体が慣れているのに加え、霊薬によって充分に濡らされている為、痛みは無かった。
呼吸が少し苦しいのは、体勢のせいか。
体を抉られながら、オルエは軽く縛られた自分の両手を見ていた。
本来なら行動を抑制する為のその布は、緩み、役割を果たしてはいない。
もとよりその為にそこにあるのではない様だった。
くちゃり、と粘膜と粘膜の擦れ合う音が耳を刺激する。
暑いな。
漠然とそう思った。
太陽が暖めた空気は、窓を、壁の隙間を通り抜け、全てを侵食する。
シーツと法衣の触れ合った部分が、少し汗ばんでいるのを感じた。
剥き出しにされた下肢が心地よくさえある。
電気も付いていない、暗い室内。
体の内部に押し入っては、ぎりぎりまで引き返す。
緩やかに、ただその行為だけが繰り返されていた。
粘膜を擦られる感触に小さく息を詰める。
内奥にビジャック自身を感じながら、オルエは静かに瞳を閉じた。


しばらくして、玄関に人の気配を感じ、薄く目を開ける。
どうせビジャックの客か何かだろう、とぼんやり考えていた。
すぐにドアの開く音と、彼を呼ぶ声。
ずるり、と体から出て行く感触に、思わず眉を顰めた。
ちらりと後ろの方に視線だけを投げかける。
ビジャックは何も言わずに、前を開いただけのシャツとズボンを整えていた。
そのまま部屋を出て行く背中を、視線だけで追いかける。
静かに閉じられた扉。
数秒、扉を見つめた後、オルエは再び目を閉じた。
静かな室内。日常から隔離された空間。
家から遠ざかるビジャックの気配。
たった今、この状態の自分と、顔も知らない男だけが同じ建物にいる。
そう考え、妙に可笑しな気分になって、目を閉じたまま、小さく笑った。
ビジャックはすぐに戻ってきた。
おそらく注文されていた品を取りに行っていたのだろう。
下階からかすかに聞こえてくる話し声。
他愛もない世間話。
体内から押し出された液体が内股を伝う。
(さようなら)
「サヨーナラ」
微笑んでいるであろうビジャックを、閉じた瞼の裏に想像しながら言い返す。
生暖かい液体は、緩やかに落ちて、シーツを濡らした。
(ばーか)
笑わずに 呟いた。


部屋に戻ってきたビジャックは、そのまま何も言わずに行為を再開した。
オルエは、彼がもう一度霊薬で指を濡らし、優しく馴染ませてくるのを肌で感じながら
そのまま突っ込みゃいいのに、と他人事のように考えていた。
ゆっくりと、しかし確実に体内を押し開かれていく感覚。
肌の上を這う手は、優しい。
肩越しに、先ほどからただ注挿を繰り返している男を見やる。
静かに視線が絡み合った。
男は無言だった。
自分も何も言わなかった。
そのまま擦れ合うシーツに目を移し、再び瞳を閉じた。

暑いな…

黒に塗り潰された視界に、流れ落ちる水を思い浮かべながら。

ただ それだけを考えていた。