血まみれのオルエに口付けられて、 自分が欲していることの破片をビジャックは感じ取った。 それは覚醒に近かった。 何かが切り替わったように、視界がクリアになる。 深い傷を負ったオルエに対するさっきまでの焦燥は、待ちきれない期待への興奮にすり替わった。 「……ッ、…ハ、」 オルエが唾を吐いた。それは赤い色をしていた。唾液が彼の唇をぬらし、地面とそれを繋いだ。 ビジャックは自然に、その濡れた唇へと口付ける。 何かの味がした。血、鉄、塩。どれでもない。 舌が勝手に、その味を求めている。意識のところではなかった。本来、舌はそれを求める仕組みになっているようだった。ざらついた感覚。おそらく、唇が切れていたのだろう。その傷口のざらつきから、舌が離れられない。快楽があるわけでもないのに。乾いた砂糖の粉の中へ手を滑りこませる感情だ。さらさらと粒が、皮膚を擦るのが、やめられない。 血に汚れた彼の法衣を丁寧にはぐ。 手つきは決して速くない。でもそれを認識している脳が普段の倍の速度でそれを見せる。鼓動がそれに合わせて速く脈打つ。ドクドクドクドク。素肌があらわになった。まず肩だ。外側へ衣服を押しやると、腕の端の肌が見える。口付ける。赤い唾液が移った。指で強く擦る。オルエは、まだ苦悶の表情を浮かべていた。構わずに口付ける。すぐに意識は舐める行為へと没頭した。ドクドクドクドク。 反対側の肩についた衣服も剥ぎ取った。袖を外しきらない状態のまま、ズボンに手をかける。ふいにオルエの筋肉の動きが止まった。顔を上げると、彼は気を失ったようであった。 顔から表情が消え、瞳は閉じられ、腕は服に隠れ、肩から首、鎖骨、胴体だけが白くあらわになった彼の、 どれほど美しかったことか。 こんなにきれいなものが、自分の思い通りになると、考えただけでくらくらした。 オルエ。 髪を撫でる。 これはオルエだ。 脈ばかりが激しく鼓膜を打ち、それ以外は微塵の振動もなく、触れると切れそうな沈黙がどこまでも続いていた。 |