動き出した大きな流れ
しかし
まだ、小さな流れは自力では進めず
思わぬところで立ち止まる
Signs to fate 1
「結局、サウスウィンドウの手前まで来れたけど、この後どうするの?」
「うん、。的確だけど今回の場合は中々に痛烈なご意見だね。」
たちは森で話し合ったあと、ビクトール達との約束の場所であるサウスウィンドウの一つ手前の町、コロネまで辿りついた。
そこで、さぁ後は、船で移動するだけ!となったところで問題が発生した。
肝心の船が出ていない。
流石に船を盗むわけにも、出してくれと強行に出るわけにも行かず、困っていた。
仕方なく、どうにか頼み込んで乗せてくれそうな人を探しに行く事になったのだが、如何せん皆が皆渋い顔をする。
「まったくもう!皆ケチなんだから!!」
「いや、ナナミ、それは違うと思うんだけど・・・・・・」
は微妙に外れた怒り方をしているナナミに苦笑すると、街の中へとはいっていった。
できればすぐにでも船を調達して、サウスウィンドウでビクトール達と合流したいのだが、船は王国軍に既に手回しをされていたため使えない。
とりあえず、現時点で何も手が浮かばないので、野宿続きで疲れているナナミはピリカを休ませてあげようと、宿を探す。
街には数軒しか宿がなかったが、幸い手ごろな宿があったので、カウンターで部屋の交渉をしていると、いきなり後ろから声をかけられた。
「あれ〜?じゃない?」
「アイリ?」
がビックリして振り返ると、アイリたちがテーブルについていた。
は嬉しそうにテーブルに駆け寄っていったが、は今一分からず、宿帳に記入をすると後から付いていった。
「、知り合いか?」
「うん!キャロに戻ろうとして、関所を越える時助けてもらったんだ。」
「ああ、あの時か・・・」
一度がハイランドに戻った時の事を思い出して、苦笑した。
ビクトール達とどうやって関所を抜けたのかと疑問に思っていたのだが、旅の一座に紛れ込んでいたのかと納得した。
も微妙に苦笑いをしているが、話が分からないナナミとピリカは不思議そうな顔をしている。
「?」
「ゴメン、紹介するよ。今声をかけてくれたのが、アイリ。あともう一人の女の人がリィナで、おっきな男の人がボルガン。」
「よろしく!私はのお姉ちゃんでナナミ!この子はピリカちゃん!
それで、深緑のお兄さんは君よ!」
「よろしく。」
ナナミに『深緑のお兄さん』と紹介されて苦笑しつつ、軽く会釈をする。
とナナミが早速一座と同じテーブルに着くと、は疲れて眠そうなピリカを二回の宿部屋に運んでいった。
やはり、ピリカは長旅で疲れているらしく、布団に入るとすぐに寝付いてしまった。
その可愛い寝顔をみて、ちょっと微笑むと、手袋を外してピリカの髪を優しく撫でる。
暫く様子を見ていたが、魘される気配も無いので、付けていたマントと荷物を置くと、すっかり打ち解けている二人のところへと戻った。
「良いタイミング!今、ちょうど君の話をしてたところなんだよ!」
「俺の?」
ナナミに腕を引っ張られて席に着くと、は『自分にそんな話題性が有ったのか?』と首を傾げる。
すると、目の前にいたリィナが微笑しながら説明してくれた。
「貴方は剣の腕が素晴しいし、頭も良くて、その上面倒見も良い、憧れのお兄さんみたいよ?」
「そうかなぁ・・・」
「そうよ!君は凄くカッコイイよ!!」
「ナナミ・・・」
ぐっと拳を握って力説するナナミにどうしたものか困ってしまった。
肯定はできないし、かといって否定するもの可笑しいし・・・
お礼でも言えばいいのだろうか?
しきりにナナミの隣で頷いているも目に入る。
「ありがとう、かな?」
困った顔のまま、少し微笑んでお礼を言うにリィナが微笑みを深くする。
返事はどうやら合っていたらしい。
すると、今まで聞きたくてウズウズしていたアイリも話しに飛び込んできた。
「でもさ、アンタ達もコロネまで流れてきたって事は、やっぱりミューズの戦闘に?
それに、一緒に居たもう一人の姿が見えないけど・・・」
「うん・・・」
ちょっと先程よりも真剣な声で聞かれ、は口ごもると少し俯いた。
ナナミも笑顔が翳ってしまっている。
恐らく、ジョウイとのやり取りやこれまで見てきた光景を思い出しているのだろう。
「少々巻き込まれましてね。皆さんは?」
「私たちはハイランドで公演していたのですが、思ったほどお客さんが来なくてね。
それに、何かと怪しげな空気でしたので、早々に引き上げてきてしまったんですよ。」
軽く流して話を変えると、リィナさんが敏感に空気を読んで、の話に乗った。
おかげでもナナミも翳りが少し和らぎ、感謝の気持ちでにこりと笑うと、リィナも心得たように微笑んでくれる。
「では、これからどちらに向かわれるんです?」
「そうですね・・・とりあえず、サウスウィンドウあたりを考えています。」
「そうだ!ミューズの戦いにいたってことは、達もサウスウィンドウに行くんでしょう!?」
「ええ、まぁ・・・」
再びぐっと乗り出してきたアイリに気おされつつ答えると、目を輝かせてとナナミに向く。
「だったらさ、一緒にいこうよ!人数が多ければ、船だってどっかしら出してくれるよ!!」
「え?え?」
いきなりの申し出には慌てるが、ナナミはアイリと同じように目を輝かせて身を乗り出す。
「そうよ!馬車の前も皆で渡れば怖くないよ!!」
(ナナミ、お前なら一人でもやっちゃいそうで俺は怖いよ。)
はもう一人の保護者と苦笑しながら、そう心で呟いた。
翌日、はニとナナミとは離れ、リィナと一緒に船を出してくれそうなところを回った。
しかし、やはり王国軍の影響で、何処も船を出してくれそうに無い。
仕方なく、せめて何かお土産に買ってから帰ろうと店先で品定めをしていた。
「とりあえず、一番はピリカちゃんですよね。」
「そうね。ぬいぐるみはは持ってるみたいだから・・・」
「う〜ん、身につけられるものが良さそうだけど、装飾品はなぁ・・・」
「ふふっ、ちょっと早いかもしれないわね。」
目に留まった装飾品店のガラスの向こうには、手ごろな値段のブローチやネックレスが並んでいたが、ピリカには少々早いと、は苦笑して立ち去ろうとしたが、リィナは微笑んだまま店のガラスに近寄っていく。
「リィナさん?」
慌てて近づいて後ろから覗き込むと、リィナが振り返ってガラスの向こうを指す。
その指先を視線で追うと、花の形をしたヘアゴムやヘアピンなどの小物が飾られていた。
それのどれもが、木や飾り気なの無い金属で出来ていて、とても可愛らしいが大人しいものだった。
「君は、女性への贈り物に慣れていないのね。
こういいう小物屋には幼い子向けの装飾品も売っているのよ?」
「あ〜・・・女性に贈り物をする機会なんて全然なくて知らなかったんですよ・・・」
「ふふふ、可愛らしいのね。」
「・・・・・・いや、そんなこと無いですよ・・・」
くすくすと笑うリィナにたまらずは店内に逃げ込むと、女の子向けの髪飾りを三つ買った。
ピリカには動物の形をしたもの、ナナミはピンク色の大き目の花、アイリには赤い蝶の形をしたもの。
三人とも髪が短かったので、ヘアゴムよりもピンの方がいいだろうと思って、全部同じ種類にした。
主人が包んでくれている間、はふと置かれたバレッタを見つけた。
(・・・リィナさんなら、髪が長いよな。)
細かい銀細工で月が象られていて、一つだけ小さなアメジストが埋め込まれたものを追加で買った。
その注文に主人がニヤリと笑う。
「外の美人さんへ、プレゼントかい?」
「感謝の気持ちのね。」
こういったオヤジはどこにでもいるもんだなと、苦笑すると主人はくいっと親指で外を指す。
「だったら、行動で示してやったらどうだい?」
「は?」
親父が指差したほうを見ると、外でリィナが若い男に絡まれていた。
は買った商品を掴むと、早足で外へ向かう。
背後で『せいぜい男をあげるこったな!!』と主人が頓珍漢なことを喚いていたが、あっさりと無視。
店のドアをくぐると、リィナが振り向いた。
「買い物は終わりました?」
「・・・ええ、終わりましたよ。」
キッパリと相手の男を無いものとして聞いてくるリィナに、は噴出しそうになるのをこらえる。
男のほうも、完璧に脈が無いのを分かっているのか、肩をすくめて『しょうがないな』と体で言っていた。
その表情には、ナンパをするような男にしては、ずいぶんと空気が読めるものだなと感心して、改めて男を観察する。
男は短い金髪にきれいな碧眼。身長はやや高めで、引き締まった筋肉が付いている。
悪くない見た目なのに、やや軽薄な感じがしているのは、その表情のせいだろうか。よく見れば、腰の帯びた剣がなかなかの使い手だと分かるのに、全くそんなことを感じさせない。
そこまで計算してそんな表情をしているのかと思ったが、きっとこれが素なのだろう。
思ったよりも人が良さそうだと思って、は男に話を振る。
「けっこう使い込んでますね。」
「そういうあんたもな。」
「ということは、傭兵か何かでサウスウィンドウへ?」
「いや、単なるプー太郎だよ。たまたまこの街にきていただけ。」
「ああ、そうなんですか。」
あわよくはサウスウィンドウまで行く手段がないか聞こうと思ったのだが、どうやら単なる旅人だったらしい。
あまり期待していなかったとはいえ、またもや空振りになってしまい、少々凹む。
すると、男は苦笑を浮かべて、剣をなでていた。
「ここの街の奴らはどいつも、俺が剣を持っているのを見ると、『もしかして砦の傭兵さんですか?』って聞いてくるんだよ。俺が違うと言うと、可愛い女の子が残念そうにするから少し気になってるんだけどさ。」
「ああ、砦の傭兵は人気がありますからね。特にそこの副隊長のフリックさんは女性に人気があるし。」
「・・・・・・フリック?青雷の?」
「ええ。」
男は驚いたように目を見開くと、首をかしげる。
「そうか、じゃあ、副隊長ってことは、隊長はもしかして・・・」
「ビクトールさんですよ。」
「ああ、あの熊が・・・」
今度は逆に、男の口から『熊』という単語が出てきたことにが驚いた。
熊なんて実物を見ないと分からないだろう。
・・・実物を見れば一発だが。
「お知り合いですか。」
「ああ、まぁ、そんなもんかな?
っていうか、あんたもあいつらの知り合いか。」
「そうですよ?」
「じゃぁ、取って置きの情報をやるよ。
これから言う場所の漁師とちんちろりんで勝負して勝ちな。そうすればサウスウィンドウまで船を出してくれるよ。」
「本当ですか!?」
いきなり欲しい情報が手に入って驚くと、男はニヤリと悪戯っ子のような笑みを浮かべて頷いた。
「ま、知り合いの知り合いってよしみでな。」
そう言うと、『じゃぁ、お邪魔したね?きれいなおねぇさん。』と言って飄々と去っていった。
はそこでリィナを思い出すと、ぎこちなくそちらを向く。
「本当に女性の扱いには慣れていらっしゃらないのね?」
「す、すみません・・・」
男に絡まれていたのを諌めることなく、それどころかリィナを置いてけぼりにして、よりによってナンパしてきた相手と盛り上がってきた事に気づいたは、恐縮していた。
しかし、リィナは怒ることなく、『まぁ、気づけるようですから許して差し上げます』とクスクス笑って許した。
「本当にすみません。」
「よろしいんですよ、本当に。それにおかげでサウスウィンドウへの手段も何とかなりそうですしね。」
「そうですね。それは本当に助かりましたよ。」
先へ進む手段が見つかったことは、も純粋に嬉しかったし、あり難かった。
肩の荷がとりあえず下りた二人は、今度はへのお土産を探しに、商店街を歩く。
その時、ふとリィナが呟いた。
「そういえば、彼の名前は聞かなかったですね?」
「あ。」
今日のは色々うっかりしているらしい。
小さな流れは立ち止まる
しかし、それでも運命の歯車は
小さくな道しるべで
小さな流れをまとめゆく
全ては大いなる流れの為に
□■□あとがきとい言い訳□■□
とりあえず、リィナさんと仲良しに。
私の中でリィナさんは「お姉様」なので、どうしてもがヘタレになってしまう・・・
あと、ついでに名前は出てこないけど、シーナと出会ってみました。
次はちんちろりんの場面を抜いて、いきなりサウスウィンドウに行きたいと思います!
だって、ちんちろりんのルールなんざよく覚えてないっての!!
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