姿をやっと確認できたと思ったら


またすぐに別れてしまった


でも


そんな重大なことが起こるとは


その時は考えても見なかったんだ・・・・・・・・・











―――――――Make your determination―――――――









結局訳の分からない事を言われたまま、はジョウイを助けてやる事も出来ずに、クルガンとシードにテントから出されてしまった。
無論ノコノコと付いて行こうとしたわけでは無いのだが、流石というか、何と言うか、ハイランドの将を務めているだけあって中々隙を見せてくれないのだ。
だから、仕方なく今は二人のテントに連れて来られている。




「っていうか、あのですね・・・・・・」
「何だ?」
「何でお茶の用意してるんですか。
 いや、それより何で俺に縄を打ってジョウイと一緒のところに入れとかないんです?」




寧ろそうしろ。という言葉を後ろに見え隠れさせつつも、はテントの中央で突っ立っている。
剣は取り上げられてしまったもの、隠し武器は少しはある。
だが、逃げようとしても、此処は周囲に兵も多く、何より入り口にシードが腕を組んで立っているため逃げられない。
相手がクルガンやシードだと騒ぎにせず穏便に倒す事も出来ない。
だから今の状態に収まっているわけなのだが、ハイランドの知将はテントに入るなり、席を勧めると、自らお茶の用意をはじめたのだ。

(ここで表情が柔らかくなってたりしたら、もっとヤバかったな。)

嬉しそうに手馴れた手つきでお茶などを用意するクルガンを想像して、密かに鳥肌を立てていると、クルガンがお茶の入ったソーサーを三つ用意してきた。
表情は幸いにもいつもの無表情だった。




「一緒のところに入れといたら逃げてしまうでしょう?
 貴方の事だ、どうせ他にも暗器を持っているでしょうから。」
「そこまで分かっているのならすっぱりと諦めてください。」
「構わないんですがね・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」




は飲む気も無かったカップの中身をスプーンで掻き混ぜていた手を止める。
今何と言ったのか?『構わない』というのは、『逃げても構わない』ということなのだろうか、やはり。




「・・・・・・それってつまり、逃げてもいいってことですよね?」
「逃げてもいい、というわけではありませんよ。」
「だったら・・・・・・」
「つまり、今貴方を逃がさないようにするというのが無理ということです。」




『じゃなければシードと貴方を見張ったりなんかしませんよ。』というと、入り口にいたシードもソーサーを持ち上げ立ったまま飲み干す。
きっと、立ったままのもが動いた時にすぐに反応できる様にだろう。
は落胆すると、またスプーンでカップの中をかき回す。




「飲まないのか?。」
「飲みませんよ。敵の陣中では。」
「毒なんて入れてませんよ。」
「だとしても、です。」




話しながらも、は頭を切り替える。

(今の状況から暫く抜け出せないのだら、情報を集めておくべきだな。)

は冷め始めたカップをそのままにしながら、室内の装飾をざっと眺める。
見た感じさっぱりとして物が少ない。もしかしたら早めに移動するのかもしれない。だが、クルガンの性格という事もありうる。これは判断の基準にならない。
他には・・・・・・と、考えると、一つ気になることを思いついた。




「クルガンもシードもさっきジョウイに始めて会ったのか?」
「あぁ?そうだけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」




の質問にあっさりとシードが答えるが、クルガンは何も言わない。
どうやらシードは尋問等には向かない人間のようだ。
その答えを聞くと、はまた暫く考える。




「・・・・・・もしかして、昼間は此処にいなかったのか?」
「だからどうした・・・・・・?」
「シード!!」

ガタン!!




はその答えを聞くと、入り口へと走っていく。
だが、あと一歩というところでシードに追い付かれてしまった。
は体を低くし戦闘体制をとり、暗器を仕込んである袖に手を添えつつ、ギリギリと歯を噛締めると、唸るようにいう。




「そこを退いてください。」
「いきなり何なんだよ。」




いきなりのの変貌にシードは腰の剣を構えつつ、警戒しながらもうろたえる。
椅子を立ったクルガンもの背後へと迫ってきている。
こちらはどうやら事情が分っているようだ。
は前後に気を配りつつ、飛び掛るタイミングを計る。
一刻の猶予も無かった。




「おい、?」
「・・・・・・昼間此処にいなかったということは、ハイランドに一時戻っていたという事。
 そして、二人の将が揃って戻ってきたて、捕虜に会ったという事は、その後に更に上の人間、ルカが会いに来るということでしょう?」
「その通りですよ。
 そして貴方を此処に連れてきたのは、ルカ様に合わせないため・・・・・・・・・」
「・・・・・・アレだけの情報でそこまで読んだのかよ?」
「砦では事務仕事もしてましてね・・・・・・」




会話をしながらもジリジリと間合いを詰める。
シードも事情が分って真剣な目で剣を構える。これでは身動きが取れない。
いっそのこと大乱闘を起こそうかとも思ったが、それではミューズ侵攻が早まるだけだ。
此処で大暴れするのは得策ではない。
だが、だからといってジョウイとルカを会わせるのは嫌だった。
会ったからといってルカが殺すとも限らないが、嫌な予感がする。何としてでも防ぎたい。
一か八かで暗器を投げつけ様とした時、俄かにテントの外が慌しくなった。




「!?」
「シード!!」




一瞬シードの気がそれた瞬間暗器を振り抜きながら、横をすり抜ける。
何とかシードは攻撃を受け止めたものの、体制を崩して後ろから追ってきたクルガンとぶつかる。
そして、が確認したのはそこまでだった。
テントを迷わず抜けると、騒ぎのほうに駆けていく。
五月蝿いほど心臓の音が鳴っている・・・・・・

(まさかジョウイがルカに・・・!?)

ジョウイを探しているときに思い浮かべてしまった事を思い出して、はまた首を振る。
そんな事を考えている場合ではない。はやくジョウイを見つめねば。
おそらくこれはジョウイがまた脱走した騒ぎなのだろう。

暫くもいかないうちに、テントのはずれ、ミューズの方角に追われているジョウイを発見した。
不謹慎だが、元気そうに走るジョウイを見ると、安心して少し笑いが漏れる。
はそのまま走る速度を上げると、柵の直前でジョウイに合流し、そのまま駐屯地を抜けていった。


































後を追ってきたり、襲い掛かってきた兵はいたが、の振るう暗器に気付くことなくその餌食になり、腕や足を引き裂かれ、すぐに追ってくるものもいなくなった。
元々の集合場所まで来たことを確認すると、とジョウイは足を止める。
此処まで走ったため息が上がっている。
だが、いつまでも此処にいるわけにもいかない。
早く此処から離れるためにもは来ていた兵の服を脱ぎ、隠しておいたマントとグローブを取り出し、つける。
ジョウイも少年隊の服から元の青い服へと着替えを済ませた。




「あれ?ジョウイ、短剣なんて持ってたのか?」
「あ・・・これは逃げる時に兵から奪ったもので・・・・・・」




着替えを済ませてから、さぁ出発という時にはジョウイの持っている短剣に気付いた。
ジョウイの獲物は元々棍のはず。何でそんなものを持っているのか気になった。
ジョウイは苦笑いしながらそう応えたが、瞳の暗い部分が揺らめいたのをは見た気がした。
だが、言葉を濁したということは何か考えがあるのだろう。
無理に聞くことは出来ない




「・・・・・・・・・そうか。」
「そういえば、君こそ剣は・・・・・・?」
「あ。」




ジョウイの不思議そうな声には思わず声を漏らす。
そういえば、クルガン達に剣を奪われたままだった。
勢いで脱出して、暗器で事足りてしまったためすっかり忘れてしまっていた。
今まではいいが、この先はモンスターが出てくる可能性が高い。そうなるとちょっと困った状況だ。
ジョウイは短剣以外持っていないし、も暗器の類は先程から使っているもの以外だと、スローイング・ダガーとナイフしか持っていない。

(あんまり使いたくなかったんだけどなぁ・・・・・・しかたないか。)




「あ〜〜〜・・・何とかなるっしょ。」
「・・・・・・凄く信憑性が感じられないんだけど。」
「ダァイジョブさ。剣が無くとも暗器があるから。」
「そういえば、さっきから使ってるのって何?何にも見えなかったのに、みんな倒れてっちゃうし・・・・・・」
「あぁ、これね。」

ヒュッ!





が軽く手を振ると、少し離れたところの枝が切り落とされる。
だが、の手元を見ても何も見えない。まるで勝手に枝が折れてしまったようだ。
驚くジョウイには笑いながら説明する。




「暗器の一つでね、“鋼糸”っていうんだ。」
「コウシ?」
「そ。鋼糸。
 使い方とか扱いは銀糸と同じなんだけど、鋼糸のほうが重いし扱いが難しい。
 その分よく切れるし、何とビックリ。こっちのほうが細いんだよ。」
「重いのに細い?」
「うん。鋼とか言いつつ、実は特殊な金属で出来ててね。電気も通しやすい。
 まぁ、そんな訳だから、俺の紋章も合わせて考えてもミューズまでは行けるでしょ。」
「そうですね・・・・・・」
「そうそう。早くミューズに帰らないと、やナナミが心配しちゃうぞ!!」




は明るくそう言うと、ジョウイの背中を押してミューズへと森の中を帰っていく。
だが、ジョウイからは見えなかっただろうが、は口調と打って変わって、目は悲しそうに光っていた。












少し離れていただけなのに


目に映ったのは


彼のほんの少しの変化


それはまるで


これから起こる二人の変化の象徴のようで


何だかとても悲しく


何だかとても切なくなった


この世に変わらないものなんてない


そんなのは分っているつもりなのに・・・・・・







□■□あとがきという言い訳□■□
さて、今回も突っ込みどころ満載。
まず、クルガン。何で貴方は駐屯地にカップとソーサー、しかもスプーン付きを持ってきているの!!
それと!!何で剣を忘れてってるの!!!
・・・・・・の剣には何の名前もついていなかった設定だったので、『あ〜あ・・・結構あの剣気に入ってたのに』程度で見逃してください・・・・・・
本当はこの回辺りでジョウイとサシでお話をして、紋章を継いだ覚悟を確かめようかと思ったのですが、それは次回以降にと一緒にしようかと画策中。
でも、必ずその話はします。
頑張って書きますので、見放さないでください・・・・・・・・・