歯車が軋み


星が流れ落ち


運命の輪が動き出す








本当に?









―――――――Make yuor determination―――――――









たちは市外戦の後、とりあえず体制を整えるためにミューズに戻って来ていた。
フリックとビクトールはアナベルの所へ報告に向かったが、たちと共に宿に残っていた。
は自室で装備を外すと、ベットに横たわり、自然と体を弛緩させ深呼吸をする。




「・・・・・疲れた。」




自然にもれた言葉が今のを良く表していた。
流石に移動・戦闘・移動で疲れが溜まっている。
薄紅も疲れているようで、机の上で丸くなっていた。
も眠りたかったが、何かが感覚に引っかかり眠れない。

(寝たいんだがな・・・・)

先ほどとは別の溜息を吐くと、起き上がる。
何がいけないのだか良く分らないが、とりあえず装備一式を持つと窓を開け放つ。
とっぷりと暮れた闇の世界から夜風が入り込んできて、頬をくすぐる。
何となくそのまま目をつぶって風に吹かれるままにしていると、意識が洗い流されていくようだ。
だが、その心地良さもあっさりと破られる。
ふと窓の下で何かが動いた気がした。




「・・・・・・・」




そのまま、何の考えもなく自然に目を開けると、闇に馴染んだ目が何かを見た。
おぼろげで良く判別できなかったが、たぶん人だったように思う。
そう漠然とした認識で、意識が冷水を浴びたように一気に戻る。




「こんな路地裏に誰が?」




一つ疑問に思うと一気に疑問が増える。
彼(もしくは彼女)は通りがかりか?
否。路地は袋小路になっている。目的なくして足を踏み入れる事はない。
目的は何か?
恐らく人目をはばかるもの。もしくは人との密会。
人目をはばかるその内容は?
逢引?にしては相手がいない。密会でも同じ事・・・・・・




「いや、そうでもないか。」




路地と接しているのは民家とこの宿屋。
どちらかに相手がいれば別段不思議ではない。
では、どちらに用があったのか・・・・・・




「服装が見れなかったのが残念だな。」




服装が分れば、地元の人間だったのか、それとも外部の人間なのかがわかる。
そうすればどちらに用があったの分るのだが、残念がら夜目が利くでもはっきりとは分らなかった。
悔しいとも思わなかったが、何だか気になる。
もしも単に逢引だったらたんなる冷やかしになってしまうが、勘が違うと告げている。
何か自分に関係していると。
は暫く逡巡すると、薄紅をそのままにして一階に降りる。
レオナが話しかけてくるのを適当に流して宿を出る。
取りあえず、後を追ってみることにしたのだ。




「もし逢引だったら、デバガメですかね・・・・・・?」




適当な事を呟きながらも、大通りに出てあたりをぐるっと見渡す。
月明かりしかない夜に出歩く人間は、酔っ払いくらいだ。あっさりと先ほどの人物を見つけると、少し間隔をあけて後を追う。
しっかり気配を消して。

























「よう、。何処行っていたんだ?」
「まだ起きていたんですか?ビクトールさん。」




が帰ってきたのは深夜になってからだった。
流石に人が少なくなり、閑散とした様子だったのだが、唯一ビクトールだけがまだ酒瓶と一緒に残っていた。
いつも一緒に飲んでいる仲間やフリックの姿はない。




「フリックさんはどうしたんですか?」
「なんで、どいつもこいつも俺の顔を見たらあいつの事を聞くんだか。」
「飼育係がいないと破産してしまいますからね。」
「・・・・・・・」




しれっと失礼な事を言うと、は向かい側の席に着いた。




「美味しいんですか?それ。」




つんと鼻をつく酒気に眉を顰めつつ、疑るように尋ねる。
ビクトールはニヤリと笑うと、カップを渡してくるが、以前痛い目を見ているは断固として断る。
明らかにビクトールはつまらなそうな顔をしたが、実のところ酒気だけで結構つらい。
元々臭いの強いものは苦手である。
香水やお香はもちろん、ポプリで吐き気を感じた事すらある。

(自然の香なら平気なんだけどな・・・・・・)

草木の香り、潮の臭いなどは平気だ。
特に森の匂いは寧ろ落ち着くかもしれない。
多分人工的に香を増徴したものが駄目なのだろう。例え元が自然物でも。
そんなことを考えふけっていたら、不意にビクトールが話を変える。




「そういや、。今回の事をどう思う?」
「・・・・・・それは、俺に品評をしろってことですか?」
「いや、そうじゃねぇけど・・・・
 なんつぅのかな。感想みたいのを聞きてぇんだよ。」
「感想ですか・・・・・・」




余りにも適当な質問に眉を顰めてしまう。
感想と漠然と言われると、なんと言ったら良いかわからない。
取りあえず、思った事を言えということだろうと勝手に判断して、感想としておこう。




「まぁ、今回の事で同盟都市は仲が激烈に悪く、協調性皆無ということが分りましたね。
 それに今後の体制に大いに疑問を感じました。
 逆を言えば、問題点がハッキリしているので、まずは其処を改善する事でしょうね。
 後は・・・・・・アナベルさん大変そうだなぁ・・・・・・・ってとこでしょうか。」




本当に正直に答えると、ビクトールは微妙な顔をする。




「・・・・・・気に入りませんでした?」
「いや、よく言えないんだが・・・・・・」
「欲しかった答えと、系統が違う?」
「ああ。」




そういうと、は口元に手を当て、下を向いて考える。

(何が聞きたいんでしょうかね・・・・・・?)

取りあえず、適当に片っ端から聞いてみる。




「え〜っと、国王軍の力について?」
「いや・・・・・・」
「じゃぁ、アナベルさんの力量?」
「それは別に良い。」
「・・・・・・戦線の様子?」
「それは昼間にじっくりと聞いた。」
「・・・・・・・・・・・・補給物資について?」
「俺じゃぁ、扱いきれないだろ。」
「じゃぁ、何なんですか!!??」
「切れるなよ!!!」




唸ると、二人とも机に突っ伏す。
深夜にまで大喧嘩をやらかすほど2人とも体力が残っていなかった。




「う〜フリックさぁん・・・熊が熊語を喋ってて意思疎通ができませぇん・・・・・
 通訳してくださぁ〜いぃ・・・・・・・」
「このやろう・・・・・」




ぶつぶつとまだ言い合っているが、一向に埒が明かない。
はビクトールから聞き出すことを諦めて、戦闘時のことを思い出す。




「もしかして、ギルバートさんを疑ってるんじゃぁないでしょうね?」
「んな訳ねぇだろ。」
「ですよねぇ〜
 だったら、次は・・・・・・・騎士団の撤退?」
「そうっ!それだ!!!」




やっと出た答えには溜息を漏らしながらも、取りあえず返事はする。




「騎士団の撤退はゴルドーの独断、と思いたいですね。
 達の話しだと、赤青騎士団長は揉めていたようですから、総意ではないとは分ります。
 それが救いのような、歯がゆいようなって感じですかね?」
「いや、引いたとこ事態についてはどう思うんだ?」
「引いた事自体は“残念”の一言に尽きるんじゃないですかね。」
「ムカつかないのか?」
「ゴルドーにはムカつきます。足蹴りにしたいほど。
 でも、他の人たちには同情と残念さを感じます。
 従いたくもない命令を出された事には同情しますが、そうれに従ってしまったことが残念といったところでしょうか?」
「そうか・・・・・・」




そう聞くと、ビクトールは納得したように頷く。




「で、何でこんな質問するんです?」
「いやぁ、ジョウイやが騎士団が撤退した事で随分動揺しててな。
もしかしたら、お前もそうなのかと。」
「なるほど。たちにとってはかなりショックだったでしょう。
援軍に来てくれたと思ったら、何にもしないで引いていってしまったんだから。」




納得言ったは頷きながら、彼等の表情を思い出す。
やナナミはショックを受けていたし、不安そうだった。
ジョウイは・・・・・・さらに闇が深くなったような気がする。
たぶん原因は騎士団の撤退だとは思っていたが・・・・・・

(戦がもたらすのは死や怪我だけじゃないからな・・・・・・)

よく心の傷を負うを言われているが、はそれと同じように、人の価値観や考え方にも大きく作用すると思っている。戦争などの後には、人が変わってしまったようだという話は良く聞く。
ジョウイにはその影響が大きく出ているのかもしれない。




「そういえば、昼間市庁舎に行ってきたんでしょう?」
「ああ・・・・・・」
「どうでした?」
「最悪だな。」




は昼間薬などの備品を買いまわったり、負傷者の手当てを見て回ったりとしていたため、市庁舎には行っていない。
たちは着いて行ったようだが、疲れた様子の彼等から話を聞くわけにもいかず、まだ誰にも話を聞いていなかった。
だが、歯切れの悪いビクトールの言葉に大体の予想はつく。
大方他の市が出兵を断ってきたのだろう。




「大変ですが、其処は俺たちにはなんともしがたいですね。
 アナベルさんに頑張っていただくしかないでしょう。」
「そうなんだがな・・・・・・・・・」




珍しく凹んでいる様子のビクトールにはひっそりと笑いを漏らす。
不謹慎だが、凹んでいる様子のビクトールはまるで母親に叱られた小熊のようだ。
可愛いんだか、怖いんだかで笑うと、流石に悪いと思って、一つ提案をする。




「近いうちにお酒でも持って訪ねていったらどうです?」
「そうだな・・・・・・確かカンナン産の酒が一本無事だったな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・なんだ?」




急にが無表情になった。
経験的に、不機嫌だという事を知っているビクトールは反射的に自分の行動を思い返すが、それらしい該当事項はない。




「ビクトールさん・・・・・・」
「・・・・・・・おう。」




同じ声のはずなのに、怖いのは何故だろう?




「あのさなか、お酒持ち出してたんですか!!??」
「いや、そりゃぁ楽しみにしてたやつだから・・・・・・・・・」




はビクトールの手からカップをひったくると、ガンッとテーブルに叩きつける。
いつもの勢いは何処へやら。すくみ上がるビクトールには更に言い寄る。




「お金の管理や在庫管理が出来ないのに、何でお酒だけはバッチリ管理してるんです!!??
 もっと他の事務にも力注いでください!!!」
「はっ、はい!!!」




そこまで叫ぶと、力尽きたように椅子にぐったりと座り込む。




「・・・いいですけどね。別に。」
「いや、悪かったって・・・・・・・」
「いいですよ。変な慰めは要りません。」
「(慰め・・・?)」




ブツブツと文句を言っていたようだが、それもすぐに収まり、はビクトールの酒瓶を持って席を立つ。




「どうせ明日だってやることはあるんです。
 さっさと寝てしまいましょう。十分飲んだでしょう?」
「そうだな。」




そう言うと、誰も居なくなった階段を上がっていく。
ビクトールの部屋の前で酒瓶を渡して分かれるとき、ふと思い出したようにビクトールが訊ねてきた。




「そういや、こんな夜中まで何やっていたんだ?」




は肩越しに振り返ると、不思議な表情で




「ときめきの無いデバガメに。」




そう答えただけだった。
















星は移ろう


時は流れる


人の想いもまた変わってゆく


だが


運命の歯車なんて


存在するのだろうか?








□■□あとがきという名の言い訳□■□
MYD15終了です。
今回はジョウイを出して、一気にミューズ陥落まで行こうかとも思ったのですが、
またどうでもいいような話を書きたくなってしまい、こんな事に。
ちなみに、が追っていったのは『カゲ』さんです。
取りあえず、あと早ければ一話、長ければ三話ほどでMYDも終了です。
頑張って書いていこう!!!!