戦いは
何が起こるかは分らない
そして
何をもたらすか分らない
この戦いで
兵は 人は 彼等は
一体何を思ったのだろう
―――――――Make your determination――――――
ジョウイと屋根の上で話をしてから2日後の昼、王国軍と合間見えた。
斥候を放った後、はフリックの横で装備の確認をする。
フリックはフリックで、同じようにざっと確認すると、隊長クラスを集めておく。
流石に手馴れた様子だ。
「斥候が帰ってきました!!」
その声に緊張感が走る。
斥候として放たれた男は、フリックの前に来ると、素早く報告する。
「報告します。王国軍の部隊は二つ、一つはソロン・ジーという将軍が率いる二千ほどの部隊。
もう一つは赤いマントを纏った男が一千の傭兵部隊を率いております。」
つまり王国軍は三千に対し、同盟都市は一千の傭兵たちしかいない。
数字的にきついところだが、足止めであれば何とかなるかもしれないギリギリの数字だ。
(速めにビクトールさんの部隊が来てくれるといいんだけどね・・・・・・)
ミューズの兵はまだ準備に時間がかかるということで、後から来る事になっている。
ただ、からすれば、事前にこうなる事は分っていたのだから、準備くらいしときやがれという気分にもなったが。
取りあえず、考えを喉の奥に押し込んでフリックを見ると、何やら考え込んでいる様子だ。
「フリックさん?」
「ああ・・・・・三千ってのは先行部隊だろうな。それにしても、赤いマントの男っていうのは・・・・・」
「悩むのもいいですが、指示出してくださいよ。」
「あ、ああ。」
ぶつぶつと独り言を言っているフリックに呆れた声をかけると、彼もやっと顔を上げて指示を飛ばす。
「取りあえず、ビクトール達が到着するまでは此処で踏ん張るつもりだ。
ただ、これは足止めに過ぎない。くれぐれも無理をし過ぎないように!!!」
「はい!!それでは僕等も配置につきます。」
「ああ。気をつけてな!」
「フリックさんも君もご武運を!!」
そういうと、とジョウイや他の隊長も自分の部隊に帰っていく。
皆散ったのを見ると、はフリックの横に馬をつける。
今回はフリックの騎兵隊に配置されていた。
「さて、もう直ぐ此処からでも敵影が確認できますね。
指示はどうなさいます?」
「もう少し待ってくれ。」
「隊長が部下にお願いしてどうするんですか。」
笑いながら頷くと、取りあえず薄紅を飛ばし先行部隊の数を確認させる。
暫くすると、敵影が何とかと確認できるほど近づき、薄紅も帰ってきた。
簡単な方法で数を確認すると、フリックに伝える。
「先行部隊は二手に分かれているようです。
こちらに向かっているのは1千の傭兵部隊。他2千の王国軍は少し離れて来ているようです。
恐らく波状攻撃が目的かと。」
「ありがとう、。」
前を向いたまま敵影を見ていたフリックは一つ頷くと、一つ打診する。
「部隊長を説得できた場合、敵を引き入れる事は可能か?」
「・・・・・・可能だと思います。王国兵ではなく傭兵ですから。
不満を持っている方も多いでしょう。」
「なら説得してみよう。」
「でしたら、指示を飛ばしておきましょう。
じゃないと皆全力で叩き潰そうとしますから。」
「頼む。」
取りあえず、近くにいた伝令兵に伝えると、フリックにぴったりと付くように馬を進める。
「そういえば、言うの忘れていました。」
「なんだ?」
我等が行く先に 幸多からん事を
「 “May are there the blessing of God is in our destination.” 」
フリックは頷き返すと、剣を抜き放ち高々と掲げる。
「行くぞ!!!我等が剣に勝利を!!!」
左右の歩兵を置いていく形で突っ込んでいったフリックたちの部隊は、真っ向から敵とぶつかっていく。
前線にいるフリックは、一直線に赤いマントの男を目指して進んでいった。
はそのフォローで、後ろを取られないようにぴったりと後を付いて周囲の兵を薙ぎ倒していく。
(説得すると言ったからには、さっさとしていただきたいですね。)
の体力も無尽蔵ではない。
いつまでもフォローを入れられるというわけでもないのだ。
それを分っているように、フリックは脇目も振らず真っ直ぐと敵の隊長を目指していく。
「ギルバート!!!」
ガギィィン!!
甲高く耳障りの悪い音を立てて、2人の隊長がにらみ合う。
どうやら何とか接触には成功したようだ。
「フリック、お前も元気そうで何よりだ。」
そう言い、ギルバートと呼ばれた男とフリックが剣を交える中、はフリックの少し後方で、横から狙って来た兵にダガーを投げつけ、そのまま後ろに付き、声をかける。
「お知り合いで?」
「ああ!!!」
「では、感動のご再会、援助いたしましょう。」
「・・・・・・・・・・・・」
そう言うと、ギルバートは狙わず、横から襲ってくるものを全て一人で相手をする。
はざっと周りを見渡すと、大声を張り上げる。
「そういうわけで、再会を邪魔するものには容赦しませんから、命が惜しい方は控えてくださいね!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
脱力したフリックだが、背中をに預けるとギルバートに切りかかる。
ギルバートも受け、切り返すが共に太刀筋を知った仲。全く決着が付かない。
数合打ち合った後、鍔迫り合いになった。
「久しぶりだな!奥さんと子供は元気かい?」
「ああ。お前は俺が傭兵を続けなきゃならん理由を知っているだろう?」
「家族のため、だろ?
だが、何故そうやって家族を大事にするお前が村を焼き払うような奴等についている!!??」
「!!!」
「お前はそんな男じゃないだろう!!??」
そ言い放つと、剣を押し上げギルバートの剣は宙を舞った。
他の相手をしながら様子を見ていたは、それを掴むとフリックの元に馬を走らせる。
彼等の勝負は付いていた。
頸に剣を突きつけられたギルバートに向かうと、穏やかに話しかける。
「寝返っていただけますね?」
「君は・・・・・?」
「と言います。フリックさんの知り合いです。
あと、これどうぞ。」
「ああ・・・ありがとう。」
剣を差し出すと、彼は馬をめぐらせフリックの横につく。
近くにいた兵も手を止めている。
さっと、二人にい目配せすると、頷いて2人は声を張り上げた。
「攻撃を止めよ!!!これより敵部隊を味方として迎え入れる!!!」
「攻撃をやめよ!今から我がギルバート傭兵部隊もミューズ市に力を貸す事にする。
全員、敵は王国軍と心得よ!!!」
草原が静まり返る。
戸惑っている双方の兵を見ると、も声を張り上げる。
「非道を重ねてきた王国軍に少しでも不満を持つなら力を貸してください!!
また、ミューズ市も敵兵を迎い入れて戦うぐらいの懐の深さを見せ付けてあげたらどうです!!??
今は一人の兵も、一時の時間も惜しいんです。さっさと覚悟を決めなさい!!!」
そう言うと、ざわついていた兵たちがぞろぞろと動き出す。
はフリックにウィンクを飛ばすと、苦笑してすぐに指示を出す。
それを見ながら、ギルバートが驚いた声を漏らす。
「出っきり君は少年かと思っていたのだが・・・・・・」
「見た目を裏切っていましたか?」
「いい意味でな。」
「一応喜んでおきましょう。」
「ああ。そうしてくれ。」
「取り込み中悪いが、もう行くぞ。新しい部隊が迫って来ている。」
「隊列は?」
「間に合った。」
「そうですか。
それじゃぁ・・・・・・本番といきましょうか!!!」
ソロン・ジーの部隊にミューズ市の兵は圧倒的に押されていた。
いくらギルバートの部隊が加わったとはいえ、兵力も足らず、疲労も増していた。
は前線近くで剣を振りながらも、歯軋りをしたい気分だ。
このままでは全滅になりかねない。
(死ぬなと言われたんだけどね・・・・・・)
横にいた兵士を切り伏せると、周囲をざっと見た渡す。
すると、少し離れた所でフリックとシード、クルガンが打ち合っているのが見えた。
舌打ちをすると、ダガーをクルガンの喉元をめがけて投げ放つ。
無論あっさりと弾かれたが、注意を引く事は出来た。
「ですか。」
「こないだはどうも。」
剣を交えながら、挨拶を交わすと他の二人も気付いたようだ。
シードはフリックと鍔迫り合いに持ち込むと、クルガンに食って掛かる。
「おい、クルガン!!!相手を替われ!!」
「貴方はその青い人を相手にしていなさい。」
「ずるいぞ!!」
は急激にやる気がそがれていく。
何でこんな人たちが強いのだろうか?
「!!どういう知り合いだよ!?」
「知り合ったのは偶然です。」
「にしては懐かれてないか?」
「それは不可抗力です!激しく不本意ですよ!!」
そういいながらも、四人とも手を抜かないのは流石と言うか。
だが、体格的に不利なは力押しで睨み合いの形にならないように必死だ。
力押しをされたら、負けてしまう。
(水の紋章で体力回復をしたいんですがね・・・・・)
だが、何度目かの剣を受け止めると、鍔迫り合いの形になってしまった。
「・・・・・・くっ」
「投降しなさい。。」
「嫌です、よっ!!」
わざと剣を引くと、クルガンの脇腹を蹴って距離をとる。
すると、左翼からどよめきが伝わった。
は不思議に思って、更に後退し距離をとるとそちらを見る。
フリックと、シードも距離をとって状況を把握する。
すると、草原にマイクロトフの声が響き渡った。
『我はマルチダ騎士団、青騎士団団長マイクロトフなり!!ミューズ市の傭兵隊に加勢いたす!!』
「何だありゃ・・・・・・」
シードの呆れた声が聞こえてきたが、フォローする気が起きない。
口上を述べている暇があるならさっさと加勢してくれと思う。
「彼もまた普通の人じゃないんですかね。」
そう思いながらも、はまた戦場に目を向ける。
敵の増援ではなく、味方の援軍だと分ったからには、放っておいてもいいだろう。
自分のやるべき事をするだけだ。
クルガンも状況を把握すると、剣を構えなおす。
「どうやら、援軍がいらしたようですね。」
「・・・・・・・・・・」
「どうしました?」
はクルガンの言葉に返事を返さず、剣を振るう。
それは以前よりも重さは変わらないが、スピードが乗ったものだった。
援軍が到着して士気が上がったというわけでもない表情に、クルガンは戸惑う。
の一撃を何とか弾くと、逆に今度はクルガンが距離をとる。
すぐに追ってくるかと思ったが、はその場に留まり、また左翼の方を見ている。
そういえば、左翼から聞こえる喧騒は大きくなっていない。
不思議に思って、見るとすぐに理由は分ったが納得は出来なかった。
「兵が動いていない?」
はクルガンの声に嘆息する。
騎士団は動かず、カミューとマイクロトフが言い争っている様子が見え、程なくしてそのまま引いていった。
は騎士団が戦わず引き始めるのを見てから、またクルガンと剣を交える。
だが、敵である彼の方が剣に冴えが無い。
「気にしているんですか?」
「気にしていないのですか?」
戸惑ったような声に、は苦笑する。
(何だかんだいって、優しい人ですね。)
「気にしてないわけではないですよ。
ただ、予想の範疇でしたので。」
「分っていたのですか?」
「いいえ。単に可能性はある、と思っていただけです。」
「・・・・・・・シビアですね。」
「戦は何が起こるか分らないとも言いますし、性分です。
常に多くのパターンを考えておくべきですね。」
そう言っていると、段々とまたクルガンの剣が重くなっていく。
どうやら彼の中でも踏ん切りが付いたのか。
はその手ごたえを嬉しいような、迷惑のような気がして、また苦笑する。
「冷静で頭の回転もいいようですね。
ますます引き込みたくなりました。」
「諦めが悪いですね。」
「ええ。どうです?援軍も引いてしまった。
投降していただけませんか?」
「いやです。」
「殺しはしませんよ。」
「そういう問題じゃぁ無いんですよ。」
話をしながら攻防は続いていく。
だが、体力も消耗し始め周囲の味方の兵もかなり減っている。
シードと打ち合っているフリックも同じようで、防戦になっている。
これまで少しづつ後退していたが、傭兵隊は壊滅状態になりかけていた。
(これは本格的にヤバイですね・・・・・・)
クルガンの剣を弾き返しながら、ジリジリ後退をする。
流石に長時間の間クルガンのような手馴れを相手にして、息が上がってきている。
は肩で息をしながら、間合いをはかりなおす。
何とかしてもう少し持ちこたえたかったのだが・・・・・・
「くそっ!!撤退せよ!!」
だが、驚いた事に、撤退命令を出したのは、王国軍だった。
クルガンが無表情な顔を顰めると、後方を鋭く見ら見つけていた。
(ああ、そうか。)
「着ましたか。」
「ええ。残念ですが、貴方をお連れするのはまた今度にするしかありませんね。」
「・・・・・・趣旨が間違っているように思います。」
もはや呆れ果てて脱力するも、剣はお互いに引いている。
思ったよりも体力を消費していたのか、立ち止まった瞬間どっと疲れが押し寄せてきた。
肩で息をしながら、血糊を拭う。
「シード。撤退だ。」
「くそっ!!!」
クルガンはまだ剣を振るっていたシードに声をかけると、引き連れて撤退していく。
彼等がある程度離れ、周囲に敵兵士がいないことを確認すると、剣を収める。
「良かった。生きてたか、。」
「何とか。精神的にも、肉体的にも疲れましたが。」
「しつこかったからな。」
「まったくです。」
近寄ってきたフリックを、ざっと見る。
「怪我は・・・・・・大丈夫そうですね。」
「ああ。どれも掠り傷だけだ。
そういうお前は・・・・・・」
「同じくです。」
溜息をつくと、周囲の兵士を確認していく。
酷い怪我をしているものも少なくは無く、どちらかと言うと、この程度で済んでいる者のほうが少なかった。
は眉を顰めることなく、淡々と周囲の兵を怪我の酷い順に回復魔法をかけていく。
「おい、。」
「何ですか?」
「お前体力残ってないだろう?いいのか?」
「死にそうな人放っておいて、自分だけ休むわけのも行かないでしょう?」
「そりゃぁ、そうだが・・・・・・」
「倒れたら、運んでくださいね。」
「荷物かよ。」
そう言いながらも、フリックも生存者の確認と、傷の手当てをしていく。
各部隊に無事な者を伝令としてとばすと、はポツリと聞く。
「とジョウイは無事でしょうか?」
「・・・・・・多分な。」
戦いの激しさに、フリックも断言は出来ない。
も、それは分かっていたので、それ以上は言わないが、その代わりにポツリと漏らした。
「ビクトールさんたちが医薬品を持ってこなかったら、どうしてやりましょかね?」
こちらに手ぶらで向かっている厚かましい雰囲気の男を見つけると、フリックは溜息と共に答える。
「・・・・・・殺すなよ。」
幸いにも、医療品はアナベルが大量に確保しておいてくれたようだ。
戦いの火蓋が下ろされた
兵が 人が 彼等が
何を思ったのかは分らない
だが
始めてしまったのだから
最後まで
見届けよう
□■□あとがきという言い訳□■□
終わった・・・・・・・やっと終わったよ!!
書き始めてから約四日。
初めてです。こんなにもMYDで苦労したのは。
戦闘シーンは書き辛いんですよ。特に集団は。
まだ、単体の方がマシ・・・・・・
まぁ、愚痴はおいておいて、ギルバートさぁぁぁん!!!
好きです。大好きです。
2騎士バリに、腐れ縁バリに、鬼軍師バリに好きです。
でも、出番殆ど無し。会話すら少ないし・・・・・・(涙)
クルガンは出張ってましたがね。
彼はさり気無く猪突猛進だと思っています。
だから、私が書くとこうなる・・・・・・
一番キャラが壊れているかもね・・・・・・
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