彼は何を思っているのか


彼は何を迷っているのか


それは聞いてみないと分らない


そのために人は


言葉というものを持っているのだろうから。








―――――――Make your determination―――――――











丘上会議の後、は皆と一緒に宿屋に戻る。
帰り道はそれぞれ思うところがあるようで、口数も少なかった。
とナナミは同盟都市の不仲に、この先の心配をしているようだし、腐れ縁は次の戦いの戦力計算でもしているのだろう。
も、考え事をしながら歩いていたが、考えている事は全く違う事だった。

(ジョウイは一体何を悩んでいるのか・・・・・・・・・)

やはり、皆と違った事悩んでいるようなジョウイの様子を心配していた。
彼は会議の直後、に声をかけられて、すぐにもとの様子に戻ったが、ふと暗い眼をして考え込んでいる様子がする。
そんな様子を盗み見しながら、は鬱々としてくる気分を抱えていた。

どういたら彼の手助けになるのか。
悩みを聞いてあげたいのだが、親友のにも言っていない様な事を、自分などが聞いても良いのか・・・・・・
そもそも聞いてあげて、彼の気は楽になるのだろうか?

とか何とか。ずらずらと堂々巡りのような問いを繰り返す。
すると、右肩に重みを感じて一気に意識が現実に引き戻される。
肩に薄紅がとまっていた。
心配そうな赤い目で覗き込んでくる相棒に苦笑を漏らすと、沈んでいた考えを一気に振り払う。

(考えてばかりいないで、行動するか。)

頭を切り替えると、すぐに宿屋についてしまった。
どうやら、長い間考え込んでいたらしい。
まだ皆考え込んでいるようだが、酒場に入ると、意外な人物が目に入った。




「アナベルさん?」
「お、帰ってきたね?」




何故だかアナベルがアップルと一緒に地図を広げて待っていた。
は不思議に思いながらも、アナベルが待つ席へと向かう。




「よぉ、アナベル。毎度の事ながら大変そうだったな!!」
「見に来ていたみたいだね。
 仕方ないさ。これも仕事の一部だからね。」




ビクトールは馴染みのアナベルに気安く声をかけると、アナベルも苦笑する。
よく知っている仲のようだ。
は、少し間を空けてアップルの傍へ寄っていた。
アナベルとは、彼等ほど付き合いがあるわけではない。




君、会議の方はどうでしたか?」
「・・・・・・予想よりも悪かったね。」




アップルの問いかけに、首を振って答えると、地図を覗き込む。




「此処が国境で、此処が国王軍の駐屯地だね。」
「はい。それで、兵力はどうでしたか?」
「俺もジョウイたちと同じく一万五千と読んだよ。」




そんな話をしていると、ビクトールと再会の話を切上げたアナベルも話しに加わる。




「更に増援部隊が加わって来ている。」
「恐らく数は五千ないしは六千でしょう。
 場所は・・・・・・」




そう言うと、肩にとまっていた薄紅が地図の上の一点に留まる。




「――――――此処のようです。」
「なんだい?この鳥は?」
「俺の相棒で薄紅といいます。
 さっきまでハイランドの動きを見ていてもらいました。」
「賢い鳥だね・・・・・・」




呆れたような関心の声を漏らすと、アナベルはピンク色の鳥をしげしげと眺める。
ビクトールは何やら思いついたようにに疑問をぶつけた。




「人間の言葉が分るって事は、喋ることも出来るのか?」
「流石にそれは無理ですよ。声帯器官が違いますから。」
「そうか・・・・・・残念だなぁ・・・・・・」




喋れたらもっと詳しい事が分るのに。と呟くビクトールに、は呆れた声を上げる。




「それは欲張りすぎです。
 っていうか、相棒に何やらせる気ですか。」
「いや、悪い悪い。」




適当に謝る熊を睨みつけると、また地図に目を戻す。
すると、反対にアナベルが地図から目を離し、ビクトールに向ける。




「ビクトール、頼みがあるんだが、一日でいい。一日でいいから国王兵の足止めをしてくれないか?」
「一日か?」
「ああ。一日あればマルチダからの増援が来るはずだ。そうすれば騎士団とミューズの兵で何とか持ちこたえられるだろう。」




そう言うと、アップルとも地図を睨んだまま声を上げる。




「一日ならば何とかなるんじゃないですかね?」
「ええ。市外戦で出鼻を挫ければ、それ位の時間を稼げると思います・・・・・・」




参謀役の2人がそう言うと、フリックも腕を組んで難しそうに言う。




「足止め、ってことなら何とかなるだろう。
 ただ―――――」
「ただ、純粋に兵力がたらねぇんだが?市長サン。」




ビクトールはニヤリと笑うと、アナベルも負けじと不敵な笑みを浮かべる。




「そのことなら、今居る一万五千のミューズの兵から2千をあんた等に預けるよ。」
「おし。交渉成立。雪辱戦と行こうか!!」































その日の夜、ジョウイはたちが新しい武器を取りに行っている間、部屋でボーっと外を眺めたいた。
2人についていっても良かったのだが、武器を既に持っているジョウイは特に用も無いので、邪魔にならぬよう部屋に残ったのだ。
だが、だからといってやる事も無いジョウイはずっと窓からミューズの街並みを眺めていた。




「・・・・・・・・・明日は此処が戦場になるのか。」
「嫌なこと言わないでくれ。ジョウイ。」




ポツリと漏らした独り言に返事があって驚くが、何処にも人影は無い。
キョロキョロと周りを見渡すジョウイに、上から笑い交じりの声が改めて声をかける。




「何処探してるんだよ?上だよ、上。」
「上?」




声に言われたとおり、窓から身を乗り出して上を見上げると、笑いながら手を振るの姿が見えた。
ジョウイはその足場にギョッとすると、慌てて声をかける。




「そんな危ないところで何やってるんですか!!!降りて来て下さい!!!」
「そんなに危なくは無いんだが・・・・・?」
「いいから!!!」
「試しにジョウイも来てみれば良いじゃないか。」
「人の話を聞いてください。」
「聞こえているとも。
 ただ、周囲の人たちに感化されて聞く耳を失っているのかもしれないね。」
「・・・・・・・・・・・・・・君。」
「良いじゃないか。来てみなよ。」




そう言って笑いながら手を差し出すに、ジョウイは負けて彼も屋根の上へと上る。
来てみると、案外安定した場所で、落ちる心配も無かった。
それに窓から見るよりずっと景色が綺麗で、まるで別の場所に居るような感じさえする。
下には広がる黒い街並み。
上には深く蒼い星空。
とても幻想的な風景だった。




「綺麗ですね・・・・・・」
「来てみてよかったろ?」
「はい。」




そのまま景色に釘付けになっているジョウイを横目には分らない程度に苦笑を漏らす。
昼間決心したように、悩んでいる事を聞こうと思ったのだが、いざ聞こうとすると、何を言えばいいのか分らない。

(この歳になってもどうしたらいいか分らないなんて、変だよなぁ・・・・・・)




君・・・・・・」
「なんだ?」




自分の思考に沈みそうだったは、ジョウイの言葉で意識をまた元に戻す。
ジョウイは前を向いたまま夜景を眺めている。




「どうして屋根に居たの?」
「・・・・・・・・・・・・」




思っても見なかった質問に、は言葉に詰まると、何でだろう?と改めて考える。
特に理由があっての行動ではなかった気がしないでもない。
ただ、自分の部屋に居ては自分の思考に沈んでいくだけだったから・・・・・・




「そうだなぁ・・・・・・
 夜景が見たかったからかな?」
「夜景?」
「うん・・・・・・何ていうのか・・・・・・夜景って綺麗だけど、普通の綺麗な景色と違うだろ?
 上手くは言えないけど、気持ちが吸い込まれていくような・・・・・・」
「・・・・・・分る気がする。」
「なら良かった・・・・・・」




不思議そうだったジョウイも、何とか納得してくれたようだ。
はそのことに安心すると、先ほどの事を聞いてみる。




「さっきさ、“明日は此処も戦場になるのか”って言ったけど・・・・・・」
「あ、いや、思わず言っちゃっただけで・・・・・・」
「分ってるけどね。少し気になったんだ。
 最近何だか悩んでいるみたいだし・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」




黙り込んでしまったジョウイに、はやっぱりまずかったかと、溜息を漏らす。
どうしてこうも、大事な時に言葉を紡げないのか・・・・・・落ち込みたい気分だ。




君・・・・・・」
「え、あ、何?」
君は戦いを終わらせるためには何が必要だと思う?」
「・・・・・・・・・ジョウイ?」




ジョウイは今までと変わらず、前を向いているが、その目は何も映してはいなかった。
会議の時のような何処か遠く、暗いものを見つめている目。
だが、会議の時は何を見ているのか、何を思っているのか分らなかったその目も、今は漠然とだが分る気がする。

(・・・・・・君は迷っているのか。)




「戦いを終わらせるために必要なもの、か・・・・・・」
「何だと思う?」
「ジョウイは何だと思うんだ?」




はあえて自分で答えず、ジョウイに同じ質問を振る。

(多分、これは彼自身に問いかけている質問だ。)

その答えを自分が与えてしまっては、いけない気がした。
それに、全く分からないという様子でもない。
案の定、ジョウイは特に質問で返してきたことに触れず、ただ前を見据えて淡々と語る。




「今日の会議を見て思ったんだ。同盟都市はどうも協力体制を取れる状態じゃない。」

 だから、今必要なのは唯一つだと思う。」




深い眼をしたままで、それでも決然とジョウイが言う。
はその横顔を見つめたまま、悲しそうに眉間に皺を寄せる。
この先の言葉が、予想できそうで・・・・・・




「それは?」




でも、聞かないわけにはいかない。
これはジョウイの本心だと、悩んだ結果なのだと、そう思うから。
ジョウイはそんなの様子に気付いたそぶりも見せず、そのまま淡々と呟いた。





「“力”だよ。」




は予想通りの答えに嘆息すると、困ったように声をかける。




「森の中でも聞いたけど、力があれば守れると思うかい?」
「うん。君はそう思わないの?」




やっとジョウイはの顔を見ると、不思議そうに言う。




「どっちともいえない。」




ジョウイは困ったように笑いながらも、キッパリと言い放つが理解不能のようだ。
回答は『出来るか出来ないか』どちらかしかないのではないか?
その疑問を分っているかのようにはそのまま続ける。




「確かに力がなければ守れないものもある。

 だけど、奪うのも力だ。

 何かを力で守ろうとすれば、何かが力のために失われる。

 それに、人一人には限度があるだろう?

 大事なもの全てを自分の力で守れるなんて、俺は思わないよ。」




ジョウイは黙ったままうつむいてしまう。
その頭をは撫でながら、苦笑する。




「だけど、力を持つのがいけないというんじゃない。

 力が無くては守れないものが有るのも事実だ。」

「じゃぁ、どうすればいいのさ?
 言ってる事が矛盾してるよ。」




撫でられていた手をはねながら、ジョウイは怒った様にいう。




「力が無くちゃ守れない。でも力を持てば失う。それじゃ、どうしようもないじゃないか!!!」




は怒鳴り声を浴びながらも、そのまま笑ったままでいる。
ジョウイはどうしようもなく腹が立ったが、優しいの目をみて黙る。




「俺はね、その人と見合っただけの力があればいいと思う。
 大きすぎる力は、人を不幸にする。」

「でも、守りきれない事があるかもしれない。」

「それは俺もつい最近まで思ってたよ。
 だけどね、ある人に言われたんだ。」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「“何も一人で守らなくても良いじゃないか”ってね。」

「・・・・・・・・・・・・・・」




爽やかな青年の顔を思い出しながら、は笑うと、ジョウイも驚いているようだった。




「一人で守れないなら皆で守ればいい。
 何も一人で背負う事は無いんだ。」
「・・・・・・・・・僕は・・・・・・」
「ああ〜〜〜いい、いい!!何も言うな。」




また考え込んで、言おうとするジョウイに待ったをかけると、は照れくさそうにがしがしと頭を掻く。




「すぐに答えを出そうとするなよ。じっくり考えればいい。
 焦る事なんて無いさ。」
「・・・・・・・・君・・・・・・」




困ったような顔をするジョウイに、ニッコリと笑うと




「ただ、時々相談くらいしてくれると、嬉しいかな?」
「・・・・・・・・ありがとう。」
「どういたしまして。」




そう言うと、立ち上がる。
何だかんだ話していたら、随分時間が経ってしまった。




「さて、もう寝るとしますか。明日は進軍するんだし。」
「それはいいんだけど、君。」




こちらも立ち上がって、下を伺いながらジョウイが不審そうな声をあげる。
どうしたのかと疑問に思っていると、下を指差し、聞いてくる。




「どうやって戻るの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」




結局その後、出窓の上からそろそろと降りました。











彼の迷いを知った


彼の思いを知った


だけど


そのどれもが


自分独りで戦う事を想定していた


それは


俺ととてもよく似ていると


そう思った







□■□あとがきという言い訳□■□
さって、今回も突っ込みどころが満載。
言われる前に言ってしまえ!!!ってことで
@アナベルが何で一行よりも早くついているのか。
Aジョウイの性格が激しく違う。
B鳥がとまったって、一点を指す訳じゃないだろ。
さて、大まかなのはこれくらいでしょうか?
では、解答です。(え)
@アナベル 「自分の街の抜け道くらい知ってるよ。」
Aジョウイ 「作者の力量不足だよ。」
B薄紅 「・・・・・・」
と、いうわけでした!!!!
では、次回はまた戦場に戻ります!!!!
ギルバートさぁぁぁぁんvvv