暗い 暗い
果て無く暗い深遠
誰が言っただろうか?
“覗き込んだら 捕らわれたしまう”
君は 今 それを見ているのだろうか?
そうだとしたら
君は一体
何処に行くのだろう?
―――――――Make your determination―――――――
丘上会議のある朝、はいつもより早く起きると、着替えを済まし、一回の食堂へ降りていく。
まだ誰も起きて来ていない様で、酒場兼食堂はいつもよりも静かだった。
(嵐の前の静けさって、やつかな・・・・・・・)
は店の主人であるレオナに軽い食事を頼むと、適当なテーブルに座り考えにふける。
一体丘上会議でどれだけの都市が参戦してくれるのだろうか?
まず間違いなくアナベルはミューズの権限を使って各都市に参戦を命じるだろう。
問題は果たしてどのくらいの期間でどれだけの兵力が集まるのか。
一番戦場となる場所に近いのはマルチダ騎士団領。
此処は最も軍事力が整っている。しかし、一方で騎士団長であるゴルドーという男はあまり良い噂を聞かない。議会制や、複数の人間が治めるのであれば、まだ期待もできるが、マルチダは白騎士団長が実権を握っている。個人の意思で動かされかねない。
次に近いのは、湖をはさんだ向かい側、サウスウィンドウ。
此処は市長のグランマイヤーもかなり理解があると思っていいと思う。
だが、兵力の支援となると、心もとない。
湖を突っ切れば速いが、逆を言えば湖を渡る船が無いと、時間がかかる。
船を調達する早さが問題となるだろう。
後は、グレンヒル、ティントだが、これは微妙だ。
グレンヒルは元々兵力が殆どないし、ティントは最も遠い。一週間で来れるのであろうか?
は其処まで考えると、レオナが持って来てくれた朝食のお茶に口をつけ、溜息を漏らす。
(ま、考えたってしょうがないんだけどね。)
は会議に参加するわけではない。もちろん発言権などもあろう筈もなく、今考えていたのは次に備えて考えをめぐらせていただけだ。
どうしようもないと分っていても、次の事態にすぐに対応できるよう、考えておいて損はない。
と、フリックとビクトールが降りてきた。
どうやら、やっと起きてきたらしい。
「おはようございます。」
「おはよう。相変わらず早いな。」
「おはよ。お前ちゃんと寝てるのか?」
「失礼ですね。ちゃんと寝てますよ。」
いつも二人が起きてくる頃には、テーブルについて食後のお茶を啜っているに、ビクトールは見当違いな心配をする。
呆れた顔で、否定しながらはのんびりと食後のお茶を楽しむ。
二人はを囲むように座ると、それぞれ朝食を頼むと、早速今日の話しに入る。
「今日で同盟都市の方針が決まるな。」
「ああ。、お前も見に行くか?」
「もちろんです。っていうか、連れて行かないつもりだったんですか?」
「そうじゃないさ。単なる確認だよ。」
「達はどうする?」
「そうだなぁ・・・・・・見たいといえば連れて行くが、子供が見て気持ちいいものじゃないだろ。」
「確かに。」
確かに、同盟都市はひとつのまとまりとなっているが、実情は自治都市の寄り集め。
各都市の存亡と利益を重視して、一致団結とは言いがたいだろう。
「でも、たちは見る権利があると思いますよ?」
はそう言うと二人の顔を見る。
フリックもビクトールも分っているようで、難しい顔をしている。
確かに貴重な情報を危険を犯してもたらしてくれたのは、とジョウイだが、まだ純粋な彼らに大人の汚いところをあまり見せたくないという思いもあるのだろう。
大人の微妙な心境というヤツだろうか。
「それに彼らも見たいというでしょう。」
「やけに自身たっぷりだな。」
断言するにビクトールが苦笑しながらいうと、は呆れたように『当然です。』と言い切る。
「何のために彼らが危険を犯したのか考えるべきですね。」
その後、レオナに伝言を残すと、等三人は先に会議場に向かう。
途中でフリックが何故かはぐれてしまったが、彼も道を知っているはずだと、ビクトールは勝手に進んでいく。
会議場の入り口に丁度着いた所で、賑やかな足音が聞こえてきた。
「お。やっぱり来たみたいですよ。」
「だな。」
こちらへ走ってくるたちを見つけては微笑むと、彼等が来るのを待つ。
「ビクトールさん!!」
「おお、なんだ。お前らも会議の見物にきたのか?」
「はい。ビクトールさんが一緒なら中に入れると聞いたもので。」
ビクトールは自慢そうに笑うと、『何たって砦の隊長だからな!!』と豪快に笑う。
「おい、俺はミューズ市に雇われている傭兵隊長のビクトールだ。残りは俺の連れだ、通させてもらうぜ。」
そう言ってずかずかと入ろうとすると、入り口の兵に待ったをかけられてしまった。
ビクトールも予想していなかったのだろう。面食らった顔になってる。
頑張って食いつくが、一向に兵の態度は崩れない。
は溜息を吐いて不毛なやり取りを続けている二人から視線を外すと、元来た道を見る。
(これから帰って何しようかね?)
殆ど会議を見ることを諦めていると、向こうから見慣れた青がやってきた。
何となく妙な予感がする。
「オイオイ、何やってるんだよ。」
「何やってるって、こいつが俺たちを中に入れてくれないんだよ。」
追いついてきたフリックは揉めている様子のビクトールに呆れながら声をかけると、ビクトールも困ったように言うが、言い争っていた兵士は驚いたように目を見開いている。
(ああ・・・・・・何かあれだよね。)
が何かしみじみと感じ入っていると、兵士がフリックに問いかける。
「もしかして、青雷のフリックさんですか!?」
フリックは何のことだか分らないようだが、とジョウイも何か悟っているような顔をしている。
ビクトールは憮然とした顔だが。
「ん?そうだが・・・・・・」
「失礼しました!!!どうぞお入りください!!」
「あ、ああ・・・・・ありがとう・・・・・・」
「いえ!!」
ビクトールとは180度違う態度にビクトールは不満顔で、フリックに何か文句を言っているようだが、は数歩下がってたちと並んでいた。
そして、幼馴染二人は前の二人を見ながらポツリと
『顔が身分証明になるのは美形だけなんですね。』
「・・・・・・・・・それは言わない方がいいと思うんだけど。」
それは当たっていると思うが、言わない方がいいと心から思った。
何とか中に入ると、アナベルやジェスらは既に控えていたが、他の市は全て揃っていない。
少し時間が早かったのか、アナベルもジェスと最終確認をしているようだ。
は取りあえず、邪魔にならないように入り口の脇によると、たちにも声をかけようとするが・・・・・・
「きゃっ!?」
入り口で立ち止まっていたナナミが後ろから来た男にぶつかってしまったようで、床に膝をついていた。
慌ててたちが寄るが、ぶつかった男は
「邪魔だ。小娘。」
鼻で哂ってズカズカと入っていってしまう。
これには流石にも眉を顰める。
ぶつかっておいてそれはないだろう、と思う。
(いや、わざとぶつかったのか。)
ナナミには見えなくても、前を向いて歩いていれば彼には見えていたはずだ。
それをナナミがこけるほど強くぶつかるとは・・・・・・
考えながらも、ナナミの様子を見ようと近づくと、
「大丈夫ですか?レディ。」
後ろから現れた二人に視線がいってしまった。
相変わらず女の子にはレディと声をかけているらしい彼は、昨日と違って真っ赤な騎士服を着ている。
さり気無い様子で、ナナミに手を貸すと、嫌味にならない笑みも浮かべている。
後ろからは、彼より少々背の高い実直そうな顔をした青年も入ってきた。
こちらは真っ青な騎士服を纏っていた。
「時間を守るのも騎士の勤めではないか?」
相変わらず生真面目な事も言っているが、二人はナナミに目礼すると、連れ立っていく。
は驚いて呆然と見上げていると、彼等もに気付いたようで、軽くウィンクを飛ばす。
我に返ると、も目礼をして見送った。
(カミューさんとマイクロトフさんは騎士だったのか・・・・・・)
そういえば、昨日は特に気にもしていなかったが、『主が参戦したら』というようなことを言っていたのは、騎士だからかと納得していると、いきなり背中が重くなる。
「うわ!?」
「ねぇねぇ!!!君、今の人知り合いなの!!??」
「な、ナナミ!?」
の首を離して、今度はの背中に飛びつくと、紹介しろと揺さぶりをかける。
そんなに体格が良い方ではないは足を踏ん張りながら、たちに助けを求める。
「!ジョウイ!!ナナミを剥がしてくれ!!!」
「え〜?」
「何だよ“え〜”って。」
「だって、僕たちも知りたいし。」
こいつ等にも話が通じないのかとショックを受けると、は帰ったら話すと約束してやっとこさ開放された。
会議が始まる前までに、色々ありすぎては疲れていると、ようやく各市長が揃ったようで、アナベルの声が響き渡り、開始が告げられる。
内容は予想した通り、はっきりと同盟都市同士の不仲を凝縮したようなものだった。
事前の疲れも相まって、は機嫌が悪くなっていった。
特にマルチだ騎士団のゴルドーが発言するごとに、機嫌は悪化の一歩をたどる。
(・・・・・・・・どうでもいい所で、一々突っかかるな。)
やれ、ハイランドの回答と違うと言う。
やれ、簡単に激昂する。
挙句の果てには
「我が騎士団領の出る幕ではない。」
と言い放った。
これを聞く頃には、は機嫌が悪くなるどころか、あきれ果ててアナベルに同情していた。
だが、カミューとマイクロトフの顔が目に入ると、少し考え直す。
彼等の顔はアナベルと同じように苦渋に満ちて、拳を硬く握っている。
(つまり、ゴルドーの意志が騎士団領の総意ではないということか・・・・・・)
それに少し安堵すると、隣にいるとジョウイを見る。
多分かれらは同盟都市が此処まで酷いとは思ってもいなかったのだろう。
は明らかにショックを受けているようだ。
ジョウイも同じような感じかと思うと、彼は虚ろな目をしてた。
それはまるで、暗い湖を覗き込んでいるような―――森の中で見た時と同じ目。
(一体君は何を見ているのだろうね・・・・・・?)
との距離が開いていくような気がして、は溜息を漏らすと、また会議に意識を戻す。
『彼の領域に踏み込み過ぎてはいけない。』
そんな気がした。
結局すぐその後、アナベルが盟主として全軍の召集を命じると、会議は終了した。
深く 暗い 深遠を覗いた君は
一体何処へ行くというのだろう?
だが
それが何処であろうと
“彼”が“彼らしく”
いて欲しい
そう 思う
□■□あとがきという言い訳□■□
さて、やっと丘上会議が終わりました。
何だか書きたいところを書いただけで、の描写が少ない気がします。
かなり反省してます。
でも、此処のところは、書き辛いので困りました。
特にジョウイ!!彼の悩みを聞いてあげたいところなのですが、
聞くわけにもいかなくて・・・・・・
葛藤があるのですが、表現できない・・・・・・
自分の未熟さを痛感してます。
次回はアナベルさんも交えて今後の話と、ジョウイとお話をしたい。
どれだけできるかは不明ですが、頑張りたいと思います!!!
|