そういえば、皆忘れているけど

俺ってどうしてこの世界に来たわけ?











ついでにマのつくお手伝い!













「へ?眞王廟からの呼び出し?」


うららかな日差しを横目で眺めつつ、グウェンダルの仕事を微妙に手伝いながらお茶をしていると、汁がまったく出ていないレア・ギュンターさんが『眞王廟から呼び出しがされております』とのたまった。
何、呼び出しって体育館裏系?


「あ〜確か、眞王廟って、眞王の魂を安置している墓所だよね?」
「その通りでございます!嗚呼、なんと聡明でいらっしゃるのでしょう!様の勤勉な御姿勢、我が国に対する深い愛情!私感激のあまり何やら鉄くさい匂いが!!」
「それ間違いなく鼻血だから。」


一瞬にしてレア・ギュンターから汁・ギュンターに変貌した彼をいつもの如く、グウェンダルがひょいっと廊下に捨てると、ギュンターが持ってきていた書簡を開ける。
ねぇ、思うんだけどさ、ギュンターさんを諫めるって手はないの?
内心、何となく疑問に思っていると、グウェンダルはさっと目を通して俺に渡してきた。


「なになに?
 『様の魂について、眞王様よりお言葉がございました。
  つきましては、様に御来廟いただきたく存じます。
               原始巫女 ウルリーケ』
だって。」


いや、あの、ごめん。一言言って良いかな?


「今更?」
「・・・・・・。」
「だって、グウェンダル、俺がこの世界に来てから軽く半月ばかり経とうとしていますが。」
「・・・・・・」
「ついでに、俺もすっかり忘れていたし。」
「・・・・・・確かに。」


あ、やっぱりグウェンダルもか。
微妙に苦笑しているような表情に、俺もアメリカンな感じで肩をすくめると、溜息をこぼす。
まぁ、とりあえず行くしかないんだろうけど・・・


「でもさ、一つ問題があるんだよね。」
「何だ?」


困った笑いを浮かべている俺に、グウェンダルはいつもの厳しい表情になる。


「俺、馬乗れないんだよね。」


俺の乗馬経験、メリーゴーランドのみ。






















こんな時に頼みになる元護衛のヨザックは生憎と海外遠征中。
どうも、俺の護衛が必要なくなると、待ってましたといわんばかりに諜報任務が言い渡されたらしい。
う〜ん、さりげなく人使い荒いあなぁ・・・
その他、ウェラー卿はユーリの護衛だし、ヴォルフラムも何だかんだ言ってはユーリにベッタリ。
ギュンターさんは論外なので、結局、急ぎの仕事を怒涛の速さで終わらせたグウェンダルにタンデムさせてもらうことに。
で、俺は現在グウェンダルの腕の中。(語弊あり。)


「そういえば、魂について〜と書いてあったけど、具体的にはどんなことなの?」
「おそらく、魂の所属や魔力の有無のことだろう。」
「魂の所属ねぇ?」


メイド in 地球か、メイド in 眞魔国か。
俺的にはどっちでも良いんだけどな。


「それに、もしかしたら・・・・・・」
「ん?何?」
「いや・・・」


なんだよ。
急に口ごもったかと思うと、何やら考え事を始めたらしく、黙り込んだしまった。
あ〜もしかして、こんなところに来てまで仕事のことを考えているのか?


「グウェンダル、あんまり考えないほうがいいと思う。」
「・・・・・・」
「全部は帰ってから考えることだよ。」
「・・・・・・」


って、言っても無駄かもしれないけど。
案の定、返事はなく、更に考え込んでしまったようだ。
顔は見えないが、背後が非常に重い空気だ。
くっ、気分転換失敗!この空気のまま眞王廟まで向かうのか・・・
はあ、と溜息をつくと、ふと頭に何かが乗った。


「私のことは気にするな。」
「・・・・・・・・・」


だったら、その重い空気をどうにかしやがれ!!
と叫びたかったが、頭を撫でられ、どうも慰めれられて居るらしく、それも出来ない。


「まったく、ユーリが羨ましいよ・・・・・・」


誰とでも意思疎通が出来るお前の能力は、全てに勝る気がするよ・・・
血盟城でウェラー卿とほのぼのしているだろう幼馴染を思い、少々悲しい気分になった。
俺の頭を撫でていた手がピタリとまると、無言のまま眞王廟に着いた。
眞王廟はどうもドーナツ型をしているらしく、外壁が曲線を描いている。
その扉の前には、女性の兵士がやりを構えており、その手前で馬を降りた。


・・・」
「ん?何?」


そのまま入っていこうとしたら、グウェンダルに呼び止められた。
振り返ると、何やら複雑そうな顔をしたグウェンダルが手綱を握り締めて立っている。
何?この雰囲気?


・・・何があってもお前の望むとおりにしろ。」
「・・・・・・・・・うん?」


ごめんなさい。
全然意味不明のわけワカメです!!!
ちょっと疑問系で返事をして頷くと、グウェンダルも頷き返して馬を引いていった。
・・・・・・・・・・・・・まぁ、詳しくは帰ってから聞こう。
グサグサと刺さるような女兵士の好奇の目線にそう結論付けると、俺も中に入っていった。

中はひんやりと涼しく、松明がかけられているが全体的には少々ほの暗い感じだった。
案内されたのは、地下のようで、進むにつれて人が減っていく。
最後たどり着いた扉の前には、兵士が二人居るだけで、他には誰も居なかった。
う〜ん、秘密のダンジョンって感じ?
何となくレアアイテムがありそうな雰囲気に苦笑する。


「ウルリーケ様、様をお連れいたしました。」
「どおぞ、お入りください。」


ん?今の声は・・・?
中からの返事に首を傾げると、兵士がさっと扉を開いて、軽く俺の背中を押した。
ああ、入れってことね。
中に入ると、目の前に大きな滝。そしてさらにその手前には巫女服といえばこれ!という袴を着た少女がいた。
って、もしかして〜?


「あ、アナタがウルリーケ様?」
「はい。始めまして様。」
「あ、どうも始めまして・・・・・・」


明らかに見た目年下ですよ!!
魔族の年齢が見た目×5とはいえ、なんだか違和感!
新たな発見に戸惑ったが、気を取り直して此処に来た本来の目的を思い出す。


「えっと、何やら俺の魂についてお言葉があったとかなかったとか?」
「はい。遥々来て頂いてありがとうございます。本来ならこちらから出向くべきなのでしょうが、私ども巫女はこの眞王廟を出るわけには行きませんので、僭越ながら様に来ていただきました。」
「いや、暇だったから全然構わないよ。」
「ありがとうございます。
 では、早速ですが、様の魂についてのご伝言を申し上げます。」
「あ、はいはい。」


単刀直入だなぁ・・・まぁ、そのほうが分かりやすくて好きだけど。


「まず、貴方様の魂は完全にこちらの世界のものでございます。
 今まで一度もあちらの世界に渡った事も、人間に生まれついたことすらもありませんでした。」
「へ〜」
「ですが、今回の転生において、少々問題が起こりまして・・・」
「・・・・・・・・・」


うわ、なんだろう、このいやな予感・・・・・・
先を聞きたいような聞きたくないような・・・
しかし、彼女には役目があるわけで、微笑んだまま言葉をつなぐ。


「本来ならば、魂は転生の前に傷を癒し、記憶を襞の中に封印するのですが、これまで魔族にばかり生まれついたのが原因で魔力が非常に強く、魂が意思を持ったまま、記憶の封印を拒んだのです。」
「・・・・・・・・・」


なんて我侭な。
いや、自分の魂のことだから、そんな第三者的な視点を持っちゃいけないんだろうけど・・・


「あれ、でも、俺は前世の記憶なんて持ってないよ?」
「はい。魂が意思を持ったことが原因だったので、直談判をいたしまして。」
「た、魂に直談判・・・・・・」


何をしてるんだ、俺の魂!!!
何だか、俺のことじゃないのに恥ずかしくなってきた・・・
あれ、でも俺の魂のことなんだから、俺のことなのか??


「それで、ある条件を満たせば記憶の封印や転生も構わないということだったのです。」
「その条件って・・・?」
「・・・・・・・・・その、ある人物が笑っているところを見れたら構わないと。」
「・・・・・・・・・」


ああ、なんだ、ちょっと驚いた。
意外に普通な感覚も持っていたんじゃないか。
魂になってまでも我侭を通すなんて、どんな事を言い出すのかと思ったら、なんだ。


「その人が本当に大事だったんだね。」
「ええ、その通りなのです。」
「・・・・・・・・・」
「その人物というのが・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・ごめん、ちょっとまって。」


良い話だと感動していたら、またいやな予感がし始めた。
だって、『笑ってることを見れたら』ってことは、笑わない人だったってことだよね。
思いつく範囲には約一名しかいないんだけど・・・・・・


「まさか、グウェンダルとか言わないよね・・・?」
「ええ。フォンヴォルテール卿ではございませんが、」
「あ、違うんだ。」
「当たらずといえども遠からずと申しますか・・・」
「え?」


今度はまったく心当たりがなく、首を傾げる。


「本来は、様の魂はまたこちらの世界で転生をするはずでしたのです。」
「へ?」
「ですが、様の魂はその人物についてあちらの世界へと。そしてそこで転生をしたようなのです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか・・・」


先ほど以上にいやな予感がする。
つまり、その人物は地球に渡ったってことだ。
じゃないと着いていった俺の魂が地球にあるはずがない。
でも、俺が知っている中で地球に渡ったことがある人物は一人しか知らないわけで・・・・・・


「はい。ウェラー卿コンラート閣下でございます。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・うわぁ。





















「大丈夫か、・・・」
「あ〜肉体的には平気なんだけど・・・・・・」


精神的には致命傷に近いです。
ついさっき、眞王廟で『貴方の前世はウェラー卿ラヴァーで、傷心のウェラー卿について地球に渡り、彼が笑顔を取り戻したのを確認して転生した』と言われてきたのだ。
どんだけウェラー卿大好きっ子だったんだよ!!!前世の魂よ!!!


「ありえない。ありえない。ありえない・・・・・・」


俺の魂が前世でウェラー狂だったなんて、薄ら寒くて笑えやしない。
一瞬『きゃぁー!コンラート様ぁ!!』とジャ○ーズファンの女子中学生並みの自分を想像してみたが、暖かい日差しの下、馬上で凍死しかけた。
慌てたグウェンダルに引き戻されたけど。


、一体巫女に何を言われたのだ?」
「あああああ・・・聞かないでぇ・・・・」


言えるか!こんな想像すら死にそうになる話を俺の口から出来るわけがない。


「しかし、よく戻ってきたな。」
「え?」


っていうか、それは『お前、よく恥ずかしげもなく堂々と帰ってきやがったな』ってこと?
もしかして、知ってるの!?
いやいや、思い込みはいかん!思い込みはいかんぞ!!
もしかしたら、『巫女に引き止められて泊まってくるかと思った』とかかも知れないし!


「それって、どういうこと?」
「いや、大したことではない。」
「自己完結は(俺にとって)良くないよ。」
「まぁ、そうかも知れんが。」
「そうそう。」


だから洗いざらい吐け。
と内心脅迫じみたことを思いながら返答を待っていると、ちょっと戸惑ったように間が空いた。


「・・・・・・つまり、お前の魂について分かったのなら、あちらの世界に帰るのかと思ったのだ。」
「へ?」
「だから、正直お前が扉から出てきたとき少々驚いた。」
「ああ、それね・・・」


あの衝撃の魂の暴露話の後のことを思い出した。

『つまり、様の魂は太古より眞魔国に存在していました上、本来この国に転生すべきものだったため、こちらの世界への引きが強いのです。』
『引きが強い?』
『はい。一度こちらの世界に呼ばれてしまった以上、もしあちらの世界に帰ったとしても、すぐに呼び戻されてしまいます。』
『・・・・・・・・・つまり?』
『一時的な帰郷は可能ですが、あちらの世界で暮らすことは困難かと思います。』

うっかりウェラー狂事件の方が衝撃的で忘れてしまっていた。


「どうも、帰ってもすぐに呼び戻されちゃうらしいよ。」
「・・・・・・・・・」
「でも、まぁ、一時帰国は出来るから、海外に移り住む程度な感じなんじゃないかな?」
「・・・・・・・・・」


まぁ、一瞬俺の魂がまだウェラー卿の傍に居たいがためにこっちの世界に留まろうとしているのかと思ったが、俺はウェラー卿の熱狂的なファンでもないし、前世の記憶があるわけでもない。
だから、きっとその辺りは関係ないのだろう。
多分、地球で満足して記憶を魂の襞とやらにきちんと封印したんだと思う。
前世がどうであれ、魂がなんであれ、俺は俺だ。


「・・・・・・はそれで良いのか?」
「ん?」


俺ってちょっと良い事言った!と自画自賛をしていると、グウェンダルが重々しく尋ねてきた。


「向こうには、お前の家族も友人もいるのだろう?」
「まぁ、そうだけど。」


確かに両親は健在だし、高校に入って間もないけど友達も出来た、中学時代の友達も大勢いる。
しかし・・・


「そりゃ、寂しくないと言っては嘘になるけど、だからといってと過すために学校に言ってるわけでも生活しているわけでもない。
俺は、誰かの役に立てればそれが一番嬉しい。」
「しかし・・・」
「それにね、帰省は出来るんだから、会えないわけでもないでしょう。
海外に出たと思えばそれでいいと思うよ。」


実際は海どころか地球の外だけどね!
あっけらかんと言う俺に、グウェンダルは苦笑する。


「・・・・・・わかった。お前の望むとおりにすればいい。」
「うん?」


あれ、なんだかそのフレーズには聞き覚えが・・・
そういえば、行きに『私のことは気にするな』とか『何があってもお前の望むようにしろ』だとか言っていたが、もしかして・・・


「あ〜、もちろん俺の望むとおりにしますが、一つ聞いてもいい?」
「何だ?」
「もしかして、俺が帰っちゃうんじゃないかって、悩んでた?」
「・・・っ!」


うわっうわっ!顔は見えないけど、手綱を握る手まで真っ赤だよ!!
何この人、面白いっ!!


「いや〜うれしいなぁ〜グウェンダルが心配してくれてたなんて〜〜」
「だ、誰がそんなっ」
「え〜違うの〜?『よく戻ってきた』とか言って、喜んで迎えてくれたくせに〜〜」
「・・・・・・・・・」


きょほきょほと笑いながら、グウェンダルをからかっていると、急に馬が走り出した。


「ぎゃー!グウェンダルっ走るときは声かけてくれよ!!」
「言葉が通じないのだから言っても無駄だろう!」
「ごめん!ごめんなさい!あやまるからっ!ぎゃー!!」


結局、血盟城までノンストップでした。