ついでにマのつくお手伝い!
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・・・カリカリ、パサ
・・・・・カリカリ、パサ
「・・・・・・」
「・・・・・・」
昨日、許可をもらったとおり、今日はグウェンダルの執務室で本を読んでいる。
異文化コミュニケーションでショックを受けつつも、健気に成長しようとする俺は、猛獣を檻の外から観察するがごとく、時々こっそりと覗いたりしながら。
ギュンターさんを見習って、『誤解から始まる観察日記』でもつけてやろうか。
小学校の時のひまわりの観察を思い出すなぁ・・・
そんなことを思いながら、ぼんやりとグウェンダルを眺める。
あ、眉間の皺増えた。書き直しだな。
「・・・ヴォルテール卿、お茶いります?」
「ああ。」
部屋の片隅にある紅茶(かどうか、良く分からないが)のセットで二人分のお茶を入れると、邪魔にならないところに置く。
この間も一切目線はあげない。
集中しているのか、必死なのか・・・
両方だろうな。
そのまま、自分の紅茶を片手で持ちつつ、ふとグウェンダルが処理した書類を一枚手に取る。
げ、司法改正案じゃん。
しかも何、この国は司法庁が無いのか?
「っていうか、もしかして、警察も軍がやってるとか?」
「何をしている。」
「ああ、ごめん。」
すぐに書類を元に戻すと、また本を読み出す。
二、三ページ読むころには、先ほどの内容はきれいさっぱりと忘れていた。
また、集中しだすと時間を忘れて没頭していた。
コンコン。
「入れ。」
軽やかなノックの音で気づくと、ふと顔を上げた。
あいたた・・・下向き過ぎて首が痛い。
首をぐるぐる回していると、メガネをかけたギュンターが大量の書類をもって入ってきた。
おお!眼鏡ビューティーだよ!
だけど、その眼鏡、もしかして老眼じゃな〜い?
「ギュンターさん・・・その書類は?」
「ああ!これは様!!こちらいらっしゃったのですか!」
「いや、だから、その書類は?」
「これは各地からの定期報告書でございますが・・・いかがされました?」
いかがされました・・・って、何でそれをここに持ってくるんだ?
ここって、ギュンターさんの執務室じゃないよな。
疑問の目線を向けていたのだが、相手が黒髪フェチだといういことを忘れていた。
「ああ!そんな熱い目線で見つめないでください!!
様は弾みとはいえ、グウェんダルと婚約をされ、私自身もまた陛下一筋でございます!!
しかし、そのように見つめられては、勘違いをしてしまいそうです!
ですが、きっと貴方様はこのような眉間に寄せた恐ろしい男から助け出してほしいと思っておいでなのでしょう!
ああ、一時でも私が貴方様の癒しの泉となれるのであれば、茨の道でも進みましょう!
さぁ、様私と一緒にめくるめく背徳の都へッ!」
その都って、○楽園ですか!?○に入るのが後なら喜んで行くけど、失うのはいや〜〜!!
抱き疲れた後、そのまま引きずられていきそうになり、反射的に服をつかみ、引き倒しながら膝を突き上げていた。
「ぎゅフッ!!」
鳩尾にきれいに決まった膝蹴りに、ギュンターさんはギュンターさんらしい声を出して白目をむいて気絶した。
う・・・ちょっと白目がキモいかも・・・
腕から抜け出して少し離れると、つかつかと寄ってきたグウェンダルがギュンターさんの襟首を持つと、廊下に捨ててきた。
ああ、朝のゴミだしみたいな扱い方だな・・・・・・
「大丈夫か?」
「大丈夫ですけど、それって、ギュンターさんに言う言葉じゃ?」
「アレなら平気だ。放っておいても復活する。」
まぁ、確かに。
「ところで、この書類って全部グウェンダルさんがやるの?」
「そうだ。本来なら陛下の仕事なのだがな。」
といって、苦々しそうな顔になる。
気持ちが分かるが、ユーリの気持ちも分かる俺としては、苦笑するしかない。
肩をすくめて、一番上の書類を見ると、今度は決算報告書。
・・・・・・財務省はどうした。財務省は。
気になってギュンターが持ってきた書類を膝に載せてソファーに座りテーブルに書類を仕分けていく。
財務、財務、軍部、軍部、農林、財務、司法、外交、司法、財務、教育・・・・・・
「何をしている。」
「種類ごとに分けてる。」
農林、軍部、農林、財務、司法、司法、司法、外交、建築・・・
ざっと分けていくと、いくつかの山が出来ていた。
おいおい、ものすっごくバラバラに積み上げられていたよ。
しかも、これ全部一人が見るわけ?
出来上がったテーブルの上の山にため息をつくと、いつの間にか向かいに座っているグウェンダルに呆れた目線を送る。
「なぁ、ヴォルテール卿。」
「何だ?」
「この国の政治体制って、どうなってるの?
何で一人が雑多な内容を見なくちゃいけないんだよ。
普通こういうのって、専門家が集まってやってて、王様には報告とか立案程度じゃないの?」
俺が疑問で首をかしげていると、グウェンダルは真剣な目をして腕を組む。
「しかもさぁ、直轄地と各地方の報告書が混ざってたのもビックリなんだけど・・・」
ビックリしっちゃったよ。クライスト地方とか明らかにギュンターさんからの報告書も混ざってたんだもん。
しかも、バラバラに混ざってたし。
もっと分類してファイリングしようよ。
「別に政治制度とか、内容には何にも言うつもり無いけど、流石に効率悪くない?」
いや、だからといって、俺の部屋の周りはきれいに片付けられているわけじゃないけどね。
こっそり心の中で言い訳をしていると、グウェンダルは分類された書類を確めていく。
ざっと内容を確認し終わると、また腕を組んでちょっと黙考すると、ふと口を開いた。
「この書類の分け方は、お前の世界の分け方なのか?」
「え?いや、どうだろう?
日本の分け方っていうか、日本の省庁の名前で分けた感じ?」
「そうか。」
あっさりと頷くと、グウェンダルはふらりと席を外した。
いきなり唐突に部屋を出たグウェンダルをソファーから見送ると、心の中のノートを広げ、栄えある一ページ目を刻んだ。
『今日から始める謎日記』謎その1、急に消えるグウェンダル。
この話の流れでいきなりトイレに行くか?フツー。
突然の行動にあっけにとられていたが、とりあえず気持ちを持ち直して持ち込んだ本をまた読み出す。
一ページを読み終える頃にはグウェンダルも帰ってきた。
ただし、両手に箱を持って。
「ヴォルテール卿?」
無言のまま目の前に箱を置くと、おもむろに仕分けた書類を入れていく。
ああ、分類用の箱なのね。
いったい何処から持ってきたのか気になって、箱の外の文字を見る。
『モシカシテあめーる 手芸羊品店』
いったい何処から持ってきたのさ!!!
謎その2、グウェンダルと謎の箱。
この分なら、一日で軽く10ページはいきそうである。
何が入っていたのかすら不明な上、何ともミスマッチな組み合わせにめまいを覚えてしまった。
そんな俺の様子など、グウェンダルは気づくわけも無く、箱に書類を移し終えていた。
「、これか書類を種類ごとに分け、期限が早い順に並べ替えておいてくれ。」
「いいですけど・・・一つ聞かせてください。」
「何だ?」
「この箱、どっから持ってきたんです?」
「私の部屋だが、どうかしたのか?」
「いや、別に・・・何となく。」
不思議そうに眉間に皺を寄せたまま首を傾げるグウェンダルをマジマジとみると、ボソッと呟いた。
手芸用品って、似合わねぇー。
しかも、『モシカシテ』って疑問かよ。
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