ついでにマのつくお手伝い









眞魔国にやってきて六日。
この世界になれてきたは良いが、問題も発生しています。


「大将〜そろそろ休憩にしません〜?」
「やだ。」


ヨザックは呆れるように肩で溜息をついた。


「今日は一体何言われたんですか〜?」
「別に、言われたわけじない。」
「じゃぁ、どうしてそんなにムキになってるんです?」
「何にも言わないから逆に凹んでるんだよ・・・」


そのときの様子を思い出して沈みそうな気分を、何とか奮い起こそうと努力している。
元はといえば、あの眉間魔人のせいだ。
話しかければ微妙な顔をするし、目を逸らすし、挨拶しても「ああ」しか返事返さないし。
嫌いなのかと思って顔をあわせないようにしたら、ユーリから『グウェンダルが可哀想だよ』とか注意されるし。
俺が・・・俺が・・・・っ!


「俺が何をしたって言うんだ!」
「とかいって、書庫に籠もる癖治してくれません〜?」
「鍵はかけてないから、使おうと思えば使えるよ。」
「そうですけどねぇ・・・」


部屋で腐っていたら、護衛兼教育役兼憂さ晴らしの道具役のヨザックが、気分を紛らわしたらどうかと言って来てくれたので、即行で書庫に直行。半日近く籠もっている。


「でも、今まではそんなに凹んでなかったじゃないですか。」
「そりゃぁ、あんなに意味不明な人だと思わなかったから・・・」


目線は古書を見つめたまま、ヨザックの質問に答えていく。
そう、はじめは気にしていなかった。
俺があんまり好きじゃないんだろうからかなぁ?とか、機嫌が悪いのかなぁ?とかって思っていたわけだ。
それこそ、ユーリに注意される前まで『申し訳ないから、近づかないで置こう』とか謙虚でいたわけだ。


「閣下は嫌いな相手と婚約しようなんて思わないでしょう?」
「でも、今日のアレは無いだろう。」


その時のことを思い出して、深々と溜息をつく。
ああ、あれは一体どんな意味だったんだろうか・・・・・・
もしかしたら、深い意味があったのか?
いや、でも、あんなことに深い意味があるとは思えないんだが・・・


「アレって、何があったんです?」
「実はさ、昼前に・・・」
「陛下〜〜!!」
「「・・・・・・・・・・」」


何かのコントか、漫画かと言いたくなるようなお見事なタイミングでギュンターが汁を撒き散らしながら書庫に飛び込んできた。
ああ、頼むから本がある場所で汁を振りまかないでくれ。
っていうか、こっちに走ってくるし!


「ギャー!まて、待ってギュンターさん!!俺はユーリじゃないから!」
「勿論分かっております!私の陛下への愛は黒髪をもつという様な事だけで惑わせるほど軽くは無いのです!
それこそ谷より深く山よりよりも高く海より広くッそれこそ世界を覆いつくすほど計り知れないのでございます!」
「って、行ってる事とやってる事が違うよ!離して!汁がつくから!!」
「嗚呼、なのに陛下・・・・・・どうして私の前からその麗しい姿をお隠しになられるのですか!
はッ!もしや私の愛が如何程なものか試しておいでなのですね!
このフォンクライスト・ギュンター、必ずや貴方様を大きな愛の力で探し出して見せますッ」


去って行ったよ。
駆け寄って俺を一度これでもかというくらいキツく抱きしめると、踵を返して去って行ったよ。
何故だか敗北感がこみ上げてきて、呆然と彼が去っていった方向を眺めると、横からそっとハンカチを差し出された。


様、どうぞ。」
「ああ、ありがとう・・・・・・」


思わず彼の優しい気遣いにほろりと涙が出そう。
・・・・・・やっぱり総レースハンカチーフか。
グリ江のハンカチに再びしょっぱい気持ちになった。


「まぁ、状況は分かったね。」
「また脱走したんっすね。陛下。」
「しょうがないなぁ・・・・・・探しに行く?」
「仕方ないっすねぇ〜ギュンター閣下をあのままにしておくわけにはいきませんしねぇ・・・・・・」


汁を振りまきながら走り回るギュンターさんを思い出してその後の処理の大変さを思い出す。
ふっ・・・なんでこんなに変人が多いのだろうか・・・・























「ユーリの行きそうな場所は・・・・・・って、明らかに城外な気がするな。」


絶対・間違いなく・100%の確立でウェラー卿のノーカンティーでタンデムだ。
あっさりと予想できた場所に溜息が出る。
いいや。暫くしたら厩ででも捕まえよう。
城外まで捕まえに行ったら、真っ黒な精神攻撃を受ける。


「どうしました?」
「はぃ?」


驚いて振り返ると、金髪碧眼のナイスミドルが笑みをたたえて立っていた。


「震えておいでですよ。ささ、この外套を羽織りなさい。
 ここの廊下は冷えますからね。」
「あ、どうも?」


冷えるって言うか、ウェラー卿の黒い笑みを思い出して真っ青に震えていたんだけどね。



「まったく、貴方のような高貴な方をこのような廊下で一人にするとは、この城のものたちはなっていませんね。」
「え?」


ん?おや?この人・・・


「しかし、このような所でお会いするとは奇遇ですな!
 噂から聞いておりましたが、お会いしてみると、噂以上に素晴しい方ですねぇ!」
「・・・・・・」


胡散臭い。
笑顔だけど、薄っぺらい。
敬意払ってるけど、目が値踏みしてる。
話してる内容がゴマすりにしか聞こえない。
近年まれに見る胡散臭さ120%なんですけど、どーすれば良いですかぁー!?


「おっと、自己紹介が遅れましたな。
 わたくし、前魔王ツェツィリーエの兄、フォンシュピッツヴェーグ卿シュトッフェルと申します。
 どうぞお見知りおきを様。」
「ど、どうも・・・・・・」
「いや、是非お会いしたいと思っていたのですよ様!」
「え、っと・・・・・・どうしてです?」


あまりのベタベタな態度に完璧に引きつつ、ついでに腰も引けてきた。
どうやって逃げようか。


「何でも、魔王陛下とは幼馴染でいらっしゃるとか。
色々と陛下と話をしたり、相談事をされたりということがおありだと思いまして。」
「は?」
「いやいや、陛下がどんな事でお心を痛めておられるのか、臣下の一人として少しでもお役に立ちたいと思いまして。」
「あ〜なるほど。」


あれか。
ユーリに取り入る道具として気になったわけだな?
ありきたりだ・・・・・・何処までもありきたりだ!
しかし、目的がはっきりしてると分かった以上、本来は簡単に退治できる。
こういう手合いはきっと政敵の所にでも駆け込めば万事解決なのだが、はっきり言って今は『助けてグウェンダル〜〜』と駆け込めるような気分じゃない。
しかも、こんな時に限ってウェラー卿はユーリとランデヴーだし、ギュンターはきっと汁を飛び散らせながら城を駆け回ってるし、ヨザックとはつい先ほど別れたばかりだ。
万事休す。自力で解決するしかなさそう。
ゴマ摺り男と対決する腹を括ると、キッと相手を見据える。


「申し訳ないですが、これから用事がありまして。」
「ほう?御用がおありでしたか。しかし、一体どのような?」
「う。」


そうだよな。俺って此処ですること無い人間だしね。
あっけなく負けたが、次の手だ!


「しょ、書庫の方に調べたい事がありまして・・・!」
「素晴しい!勉強熱心でいらっしゃる!
 ですが、この世界に詳しいものに聞けば宜しいのでは?」


ですよね。
以前はヨザックが人間辞書だったし。


「お、お手を煩わすわけにもいきませかんから、自分で調べようかと・・・」
「なんとお優しいお心遣いでしょう!
でしたら、我が城にいらしてみてはいかがですか?」
「は?」
「私はこの城の者と違い、幾分時間に余裕がございます。、貴方様をお一人にさせるような寂しい思いはさせませんし、
それにこの世界のことについても学べますよ?」
「いや、でも・・・・・・」


ありがたいけど、アンタの笑顔は信用できないんだってばーー!!
でも、そんなことを理由に断るわけにも行かず。
かといって、付いて行くのも断固として拒否したい。
引き攣った笑顔を貼り付けながら、無い頭を絞っていると、いきなり腕をガシっと掴まれた。


「善は急げと言います。ささ、すぐにでもいらして下さいませ!」
「で、でもッ!ユーリに許可取ったり、ヴォルテール卿とかにも知らせてからでないと!」
「そのような事、後で知らせれば良いのですよ。」


ぎゃー!それって誘拐だからー!!
しかも、知らせるって脅迫電話とか身代金要求とかじゃないだろうな!?
『明日までに金を用意しろ』とか言っちゃうわけ!?
俺ってそんな価値なさそうだから、絶対死んじゃうジャーン!
じ、実力行使していいかな!?
正当防衛になるよね!?
腕掴まれただけじゃ誘拐罪の立証は難しいけど、セクハラか何かにすれば正当防衛になるよね!?


「そこで何をしていらっしゃるのですか?」
「ぐ、グウェンダル・・・!」
「げ、グウェンダル・・・!」


背後からの重低音に、鳩尾に蹴りを入れようと足を上げた不自然な格好のまま、俺はシュトッフェル以上に嫌な声を出していた。
2人の視線が痛くてさっと目線を逸らす。


「兵士からフォンシュピッツヴェーグ卿がいらしたと知らせがあったのにもかかわらず、中々お見えにならないので心配いたしましたよ。」
「そ、そうか。」


幸いなことにグウェンダルは俺の反応をサクっと無視して話を進めてくれた。
シュトッフェルも既に俺の腕を離していたので、ジリジリとグウェンダルのほうへにじり寄っていく。


「どうしてこのような場所に?」
様が寒そうに震えていらっしゃったので声をかけていただけだよ。」
「使われてもいない書庫に通じる道にいらっしゃったとは、よほど暇なようですね。」
「これから帰ろうと思っていたところだ。失礼する!」


カツカツと足音を立てながら足早に去っていく姿を見送ると、安堵の溜息がでる。
が、途端にヴォルテール卿と2人っきりなことに気付いて気まずい気分になる。
だが、そんな俺の気分を知ってか知らずか、ヴォルテール卿は何も言わない俺の手を掴むと、スタスタと歩いていく。


「グ、グウェンダル・・・!?」
「・・・・・・」


まただよ・・・・・・
意思疎通ができないのだろうかと溜息をつくと、大人しく従った。
BGMにドナドナが流れてきそうな心境。
ああ、頼むから二束三文で売る事はしないでくれよ・・・・・・