価値観とは実に恐ろしいと思う。




ついでにマのつくお手伝い!!










「ヨザックぅ〜〜〜何でこの城は馬鹿みたいに広いんだよ〜〜〜」
「しょうがないですよ、大将。城ってものは大概無駄に広いんですよ。」


ウェラー卿と手合わせをしたあと、肉体的・精神的疲労でボロボロな俺はヨザックに肩を貸してもらい、部屋に向かっていた。
でも、こっちにフラフラ、あっちにフラフラ。
全身脱力状態で、模範的な酔っ払いのオッサンのような足取りのため一向に進まない。
もし、ヨザックの素晴しい上腕二等筋が無かったら、きっとそこら辺に倒れこんでいるのは間違いが無い。
俺は決して筋肉フェチではないが、ちょっと羨ましい。


「ヨザ〜君の上腕二等筋はスバラシイね。」
「イヤン☆大将ったら、こんな所で口説かないで!」
「こんな所でなければ良いのか?」
「大将ったら、そんなに私のことが好きなの?」
「面白から好きさ〜〜〜」
「まぁ!お上手なんだから!」


はたから見ると、酔っ払いの男2人が口説きあっているように見えて微妙だが、今は観客はいない。
ふざけるのにはもってこいってモノだ。


「もう直ぐ俺の部屋だからゆっくりとお話しないか?」
「密室で2人っきりってことね?」
「その通りさ!邪魔が入らない部屋に2人っきり・・・素晴しいと思わないか?」
「ええ!とても素敵だわ!2人の将来についてじっくりと話し合いましょう?」


台詞だけはイチャイチャしながら、よたよたと最後の角を曲がる。
あとは部屋まで一直線。
俺は視線を床に這わせたまま、軽くやけくそのようにヨザックに話しかける。


「ああ!グリ江、君は子供は何人欲しい?やはり、一姫二太郎。最初は女の子がいいかな?」
「・・・・・・あの。」
「ん?どうしたんだい?2人の将来にとって、とても大事のことじゃないか?」
「いや、その・・・・非常に言いづらいのですが・・・・・・」
「?本当にどうしたんだよ?」


なんだろうか?角を曲がったら、いきなり返事が無くなった。
しかも、足止めちゃうし。


「なぁ、ヨザ。俺は早くベットに行きたいんだが・・・?」
「その前にですね・・・」
「ん?ああ、そうだな。その前に風呂に入らなくちゃ駄目だな。」
「いや、そうじゃなくてですね・・・・」
「だから、なんだよ。」
「ちょっとばかし、目線をあげていただけますか?」
「何・・・?」


言われるまま、ノロノロと目線をあげると、こげ茶のブーツが目に入った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだろう。嫌な予感がする。


「よ・・ヨザ・・・・・・・・俺、顔上げるのが怖いんだが・・・・」
「目が合いっぱなしの俺の気持ちにもなってください!!」


見覚えが微妙にある靴。
泣き出しそうなヨザックの声。
多分俺の予想はあっている。
あたって欲しくは無いんだけどね!!!


「・・・・・人の婚約者と何の話をしているんだ。」
「フォンヴォルテール卿・・・・・」


いやいやながら顔を上げると、眉間の皺をさらに深くしたヴォルテール卿の姿があった。
俺は不機嫌絶好調のヴォルテール卿の顔を見ると、走馬灯のように三日前のことを思い出す。
ヤバイ・・・・・・絶対この人怒ってるよ・・・!


「いや、あの、そのッ!」
「・・・・・・きちんと喋れ。」
「きゅ・・・・」
「きゅ?」
「求婚しちゃってゴメンナサイ!!!」
「「・・・・・・・・・は?」」


ポカンとしたヴォルテール卿とヨザックの声が聞こえた気がしたが、俺はそれどころではない。


「俺、全然こっちの作法とかマナーとか知らなくて、勢いでやっちゃたというか、知らずにやっちゃったんだよね!何ていうのかな?異文化コミュニケーションの典型的な失敗例っていうのかな?ほら、アメリカ人とかを手招きする時に、手のひらを下に向けてやっちゃうと、逆の意味になっちゃうっていう感じ?だから、つまり、その・・・・求婚とは逆の意味だったんだよ!!!」
「え?」
「だから、求婚するつもりとか全然無かったの!っていうか、だからそんなに不機嫌なんだろ!?いきなり変な男に求婚されて、彼女とかいたら、絶対に修羅場だろ!?って、そうか!!その眉間の皺は彼女との喧嘩なんだな!?
マジでゴメンナサイ!!おれ、そんなつもりで殴ったわけじゃないんだよ!彼女の方には俺から謝って誤解といておくから!!!」
「ぶっ・・・!」
「なんだよヨザック!爆笑しやがって!笑い事じゃないだろう?」
「いや、笑い事だと思うんですけど・・・」
「何を言う!ヴォルテール卿位の年齢なら結婚していてもおかしくないだろう!?」
「おい。」
「なのに、男に求婚されたんだぞ!?」
「待て。」
「家庭の危機じゃないか!!!」
「その暴走した思考を止めんか!!!」


バキっと俺の頭を殴ると、襟首を掴みズルズルと部屋に連れ込まれる。
その後を笑いに肩を震わせているヨザックの続いてくる。
何で謝っている俺が殴られるんだ・・・・・・?家庭の心配をしただけじゃないか・・・・・・





















「え?ヴォルテール卿って彼女いないの?」
「どうしていると思ったんだ。」
「いや、だってほら・・・・適齢期だし?」
「年齢は関係ないだろう。」
「いや、まぁ、そうか・・・・・・・」


よかった、俺のせいで破局というわけじゃないのか・・・・・・
俺はぐったりとソファーに座り込むと、溜息をつく。
良かった良かった。修羅場なわけでもないし家政婦は見た的な展開でもないらしい。
安心すると、ふと根本的が疑問が浮かんだ。


「で、ヴォルテール卿はどうしてこちらへ?」
「何?」
「用があったんじゃないんですか?」


だって、今まで図書室に立てこもっているのを知りながらも尋ねてこなかった人が、俺の部屋の前にいたんだぞ?普通用があると思うだろう。
はっきり言って俺は今猛烈な睡魔に襲われている。
残念ながら長い話に付き合う余裕がない。


「おれ、今にも寝そうなほど眠いんで単刀直入にお願いします・・・・」
「ああ、分かった。私が聞きたいことは2つ。
一つ、お前は陛下と同じ種族の出身らしいが、何故瞳の色が黒ではないのだ?」
「あ〜それね。」


がしがしと頭をかきながら、溜息をつく。
まさかこんな場所に着てまでそんな質問をされるとは思っていなかった。
今まで散々聞かれた内容に溜息をつくと、何回と繰り返した返事をする。


「別に大した理由じゃないんだ。
 俺の母親は確かにユーリと同じ種族?っていうか民族?だから黒髪黒目なんだけど、オヤジがハーフなんだよね。」
「ハーフ?」
「うん。ああ、今はダブルっていうのかな?二つの民族の間に生まれたわけ。」
「二つの民族の・・・?」
「そ。日本とドイツのね。その血筋の関係で目が紺色なわけ。」


そう、確かに俺の目は黒くない。
遠目に見れば黒だが、良く見れば濃紺。光の加減によってはコバルトに見えるらしい。自分じゃ見れないけど。
父親が黒の優勢遺伝子の影響で黒髪黒目なのに、隔世遺伝で紺の目を持つ俺はいつもカラコンだ捨て子だと言われてきた。


「でも、こちらでは黒が珍しくあちらでは紺が珍しい・・・なのに質問が同じってのはちょっと感心しちゃった。
もしかしたら、この質問ってワールドワイド?」
「どうでしょうね。陛下の話が無ければ、逆に『何故髪が黒いのか』と聞かれるかもしれませんよ。」
「ああ、そうか。つまりユーリマジックだったわけだな。
 侮りがたし。ユーリ魔王陛下。」
「いや、まぁ、陛下は凄い人ですけど・・・」


ヨザックと一緒にユーリの見方を改めながら、うんうん頷いていると、グウェンダルはサクッと無視して話を切り替えた。


「もう一つは、今後お前はどうするつもりなのかということだ。」
「・・・・・・それを俺に聞くのか?」


何ていうか、何も手元に無い状態で選べといわれても困りますって感じだ。
そもそも、俺は俺の立場が今一理解し切れていないのが実情だ。


「っていうか、俺の立場って今はどうなってるの?」
「お前の立場は陛下の友人ということで、賓客扱いになっている。」
「お客ね・・・・・・
 可も無く不可もなく、当たり障りの無い表現だね。」
「ああ。だがいつまでもこのままにしているわけにも行くまい。そこでお前の意志を聞きに来たのだ。」
「俺の意志?」


なんじゃそら。
別に俺は此処でパン屋さんになりたいだの、学校に通いたいだのしたいことはコレと言ってないんだが。


「別に何がしたいというのを聞きたいわけではない。あるなら越したことはないか。」
「いや、無いけど。」
「では、陛下に対立するつもりはあるか?」
「無いよ。っていうか、有り得ないし。」


なにそれ。俺がユーリを敵対するって言いたいのか?
この人は幼馴染という言葉が分かっているのだろうか?


「あのね、俺はユーリの幼馴染なの。トップクラスの友人なの。
 その俺がユーリを裏切るようなことをするわけ無いでしょうが。
 皆がユーリの敵になったって、俺はユーリの味方だ。敵対なんてありえない。」


あまりのありえなさに呆れてきた。
溜息をつくと、のそのそとソファーから立ち上がるとベットに向かっていく。
我慢していたが、ウェラー卿の精神攻撃は思いのほかダメージを与えていたようだ。
目蓋が勝手に下りてくる。


「そんな不毛な話するんなら俺寝るよ。マジ疲れてるし。」
「まて、話は終わってない。」
「なんだよ。話は二つだって言っただろうに。」
「聞きたいことだ。話はまだある。」
「・・・・・・・・」


面倒くさいなぁ・・・・・
半分閉じかけている目を根性でこじ開けると、またソファーに座りなおす。
くそ・・・・・・質のいいクッション使ってるなぁ・・・・・・座り心地が良くなって眠くなる。


「なんですか?話って。」
「それはだな・・・」
「はっきり言ってください。俺寝ちゃいますよ・・・・・・」
「我々の関係のことだが・・・・・・」
「はぁ。」
「私は婚約を破棄するつもりは無い。」
「へぇ?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?


「ええ!?」
「反応遅かったっすね。大将。」


のほほんとしたヨザックの声はとりあえず無視。
この人、今凄いこと言わなかったか?


「ちょ、ちょっと待ってください、今、もしかして、婚約破棄するつもりは無いって仰いました!?」
「そうだ。」
「あんた、男と結婚するつもりかよ!?」


何、ヴォルテール卿ってそういう趣味なの!?
俺結構ヤバイ状況!?
嫌な汗をかきながらまじまじと見ていると、嫌そうに溜息をつく。


「勘違いをするな。俺にはそんな趣味は無い。」
「でも、破棄しないってそういうことになるだろう!?」
「十貴族としてそんな婚約破棄など不名誉なことが出来るわけないだろうが。」
「だろうがって、当然の如く言うなよ!!アレは間違いなく事故だろう!?効力無いだろ!?」


異文化コミュニケーションの失敗で結婚させられてなるものか!!
絶対に納得できない!!
別に可愛い奥さんが欲しいとか、気立ての良いお嫁さんが欲しいとか言わないが、そもそも男ってのが論外だ。


「別に結婚するとは言っていないだろう。」
「でも、婚約ってことは『いずれ結婚しますよ。知っておいて下さいね☆』って意味だろ!?」
「・・・・・・・・・」
「黙るな!結婚するつもりが無くて婚約なんかするんじゃない!!!」


昭和のオヤジのような台詞だが、正論のはず。
いや、それともこちらの世界と婚約という言葉は同じでも、違う意味を指すのか?
俺は考え込んでいるヴォルテール卿の後ろに笑いながら立っているお庭番に目線を向ける。
畜生。人事だと思って笑いやがって・・・


「ヨザック、聞きたいんだが、こちらの世界の『婚約』というのは今俺が言った意味で間違いないな?」
「まぁ、概ねあっていると思いますよ?」
「・・・・・・概ね?」


何だ、その含んだ表現は。


「ええ。俺の解釈としては更に突っ込んでいて『近々結婚する予定で付き合ってるんだから、手ぇ出すんじゃねぇぞ』っていう牽制も込められていると思いますけど。」
「尚更悪いじゃないか!!!」


むがーっと頭を抱える俺にヨザックはフォローをする。


「別に悪いことは無いと思いますけど?」
「何?」
「陛下もそうなんですけど、様もご自分の容姿がわかっていらっしゃらないんじゃないんですか?」
「容姿?」


首をかしげながら、乾き始めた髪をつまむ。
もしかして、黒髪なのがいけないのか?


「いや、色じゃなくてですね、お2人はこちらで言う絶世の美男子なんですよ。」
「・・・・・・はぃ?」


なんと言いやがりましたか?
俺とユーリが絶世の美男子?
やばいよ。俺鳥肌立っちゃった!
大変奥さん!チキン肌ですよ!!


「つまりですね、お2人は黒という高貴な色をお持ちの上、容姿がすこぶるいい。
そんな人がフリーでいて御覧なさい。女の子なら兎も角、男に無理やり既成事実を作られるなんてことになりかねませんよ?」
「ええ!?」


お、男に既成事実を作られる!?
いや、確かに三日間の中で読んだ本の中に男男カップルが普通にいることは知っていたが、少数じゃないのか?
しかも、襲われる!?冗談じゃない!!


「そう考えると、十貴族であるフォンヴォルテール卿と婚約関係にあることは良いことなのではないですか?」
「う・・・・・・・・」


確かに、そう考えると悪い話じゃない。
ヴォルテール卿は陛下の信頼も厚い(らしい)十貴族の一人で、まさか他の貴族でも彼の婚約者に手を出そうとは思わないだろう。
しかも、彼には恋人も妻もいないから迷惑はかからない。
そして、一番の利点としては、婚約関係になっても『結婚する気は無い』と言い切っているところだ。
俺の安全は完璧に保障される。


「・・・・・・よし。」


男は度胸、女も度胸。
頬を叩いて気合を入れなおすと、目の前に座っているヴォルテール卿に向かい直る。
相変わらず無表情というか、しかめっ面というか兎に角人相が悪いことこの上ないが、全くひるむことなく目を見据えると、ガバッとテーブルに手をついてお辞儀した。


「不束者ですが、
(身の安全のため)よろしくお願いします!!」


こうして、は、利害の一致により、晴れてヴォルテール卿と婚約いたしました。
・・・・・・・・・後ろで爆笑しているヨザックが気になったけど。