俺には特技が四つ有る

一つ目は弓道。全国レベルだ。

二つ目は暗記。テストはいつもこれに頼る。

三つ目は相手の本質を見向く事。お陰で詐欺には引っかからない。

四つ目は・・・ユーリすらも良くは知らない。








ついでにマのつくお手伝い!










「ヨザック、これ何て読むの?」
「それは、アーノルド。・・・・・・土地の名前ですね。」
「ん〜さんきゅ〜」


血盟城についてはや3日。
俺は早くもこの世界に順応しつつある。
ギュンター(呼び捨てを強要された)に渡されたテキストは一日で終了。
お得意の暗記でしっかり覚えました。
その後ヨザックを口頭辞書代わりにあれこれ質問しつつ、今は歴史書読んでいます。
驚いた事に、この国は4000年以上も建国から経つらしい。
歴史を知るだけでもかなりの時間がかかってしまった。


「大将は外でないんですか?」
「ん〜まだ出たくないんだよねぇ〜」


だって、また異文化コミュニケーションの洗礼を受けたくはない。
3日前のことを思い出し、深々と溜息をつく。
勢いあまってフォンヴォルテール卿グウェンダルに求婚してしまったらしい。
俺はそれを知るや否や、呆然とする彼をその場に残し、ダッシュでギュンターにテキストを貰い、書庫に立てこもり始めたのだ。
そして、その後から食事時だろうと、ユーリが戸口で騒ごうと部屋を一歩も出なかった。
取りあえず、最低限の知識が得られるまでは、あまり人に合いたくなかったのだ。


「ねぇ〜大将〜そろそろ俺も暇になってきたんですけど・・・・・」
「う〜ん・・・あと2ページ読んだら外行こうか〜」


本から視線をそらさず間延びしている声を上げると、ヨザックが深々と溜息をつく。
お前は落ち着きの無い子供か?
まぁ、しかし3日もつき合わせてしまったのだ。そろそろ外に出るべきか。
歴史さえ多少詰まってれば、この前のような失敗もないだろう。
ヨザックは椅子の背もたれに顎を乗せつつ、つまらなそうに言う。


「イイ子なんですねぇ〜大将は。
 陛下なんで此処3日で二度も逃亡しているのに。」
「あいつは〜本とか勉強が苦手なんだよ〜
 俺は本が好きなだけ〜別にいい子じゃないだろ〜」
「俺、じっとしてられないっすよ〜」
「はいはい。分かったよ〜
 ・・・よし。じゃぁ、外でようか!!」
「待ってました!!」

















外に出てみると、兵たちが訓練しているところだった。
ウェラー卿(恐ろしくてコンラートなんて呼べない)とユーリの姿も見える。
恐らく今回は休憩中なんだろう。


「おー。ウェラー卿はやっぱり強いねぇ〜」
!やっと書庫から出てきたのか!?」
「おう。歴史書が一通り読み終わってね。
 やっと外に出る決心がついたよ。」
「何それ?」


いや、お前の方が不思議だって。
文化も風習も分からないところでいきなり野山を駆け回るなんて、俺恐ろしくて出来ないよ。
まぁ、何処でも誰でも馴染める仲良くなれるってのがユーリのいいところだけど。


「まぁ、俺の心はガラスのハートって事だよ。」
「訳わかんねぇよ・・・・・」


わしわしとユーリの頭を撫でると、ウェラー卿の訓練の様子に目を戻す。


「お、あの兵士君もいい太刀筋してるじゃん?」
「分かるんですか?殿下。」


感心する俺に、ヨザックが意外そうな顔をした。
何?そんなに不思議かね?


「そういえば、ヴォルテール卿とにらみ合ってる時、ジリジリとすり足で逃げてましたよね?」
「よく見てるなぁ〜さすが諜報部員」
「あれ?弓道にすり足なんてあったっけ?」
「よく見とけよぉ〜渋谷有利原宿不利」


何度か見に来た事あっただろ〜俺の試合。
その度に応援の声がデカすぎて注意されてたし。
俺は肩を竦めると、休憩でこちらに来たウェラー卿に声をかける。


「お邪魔してますよ。ウェラー卿」
「構いませんよ。やっといらっしゃったようですね。」
「・・・・・・そんなに俺はレアキャラなのでしょうか?」
「3日間のうち2日を丸々書庫で過ごされて、食事にもいらっしゃらない方ははやりレアなのではないでしょうかね?
ユーリが寂しがっていましたよ?」
「スミマセン・・・」


ヤバイ。
さり気無く機嫌悪い。
多分、今の発言からするに、ユーリが俺の事ばかり言うので、ウェラー卿の機嫌が麗しくないようだ。
やっぱりアンタはユーリ至上主義なんだな?
頼むから、俺にあたるな。
俺はひたすらヴォルテール卿に合うのが恐ろしくて逃げ回っていただけだ。
いや、動いてはいないけど。


「コンラッド!今話してたんだけど、は剣が扱えるらしいよ?」
「え?いつの間にそんな話へ!?」
「それは面白そうだ。ちょっと相手をいていただきたいですね。」


こんな所に伏兵がいやがった!
おかしいだろ。いつの間に剣の話をした!?
其処の爽やか腹黒次男、剣を出すな!用意をするな!
っていうか、ヨザックお前は護衛も兼ねているんだろう!?背中を押すのは間違っていると思うぞ!


「きちんと手加減しますから。」
「そうっすよ〜あんまり部屋籠もっていると運動不足になっちゃいますよ〜」
「〜〜〜ッ
 分かった!やるから手加減は本当にしろよ!?
 俺は平和な日本で生まれ育ったんだからな!!!」
「はいはい。」
「分かってるのかよ〜〜!?」


あっさりと中央へ連れ出される。
嗚呼、周囲の兵の目が痛い・・・・
そんな面白そうな目とか、哀れみを含んだ目で見ないで下さい・・・・
っていうか、こっちにきてから俺は何故好奇の目でばかり見られるんだよ・・・・
本当に珍獣扱いだ・・・・・・


「構えないんですか?」
「俺はあんま構えを取らないんだよ。
 お好きにどうぞ。」
「・・・・・・・とかいって、ワザと剣を落として負けたりしないですよね?」
「・・・・・・・・・はい。」


何故だ・・・何故分かるんだウェラー卿!!


〜!負けたら小さいころの写真ばら撒くからなぁ〜」
「あ、ちょっと見てみたいかも。」
「ユーリ!!!お前いつの間に黒くなった!?」


絶対ウェラー卿の影響だ!!!
いや、もしかしたら横にいるヨザックの入れ知恵かもしれない。
しかし、俺は伊達にユーリの幼馴染をしているわけではない。
恥ずかしい写真なら、ユーリに負けないくらいある。
マズイ。マズイぞ・・・・
絶対にウェラー卿とかウェラー卿とかウェラー卿のネタにされる・・・・!


「やる気が出てきましたか?」
「ええ。もうバッチリ。」


剣を握りなおし、重心を下へ。
半身を引いて軽い構えを取る。
ついでに目線も鋭くすると、外部の音を排除してウェラー卿だけを捕らえる。
さぁ、俺の名誉をかけた戦闘開始。
かけられた物が恥ずかしい写真なのがちょっぴり情けないけど。






















「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・参った。」


十分後俺は喉元に剣を突きつけられていた。
ああ、そうとも。完敗だとも!


「ああ、俺の男としての名誉が・・・・沽券が・・・・・」
「いや、十分お強かったじゃないですか。」
「変な慰めなんて要らんわっ!!」


ぜはーぜはーと座り込んで荒い息を繰り返す俺に、ちょっぴり真剣なウェラー卿の声がするが、俺の頭の中はどの写真を持ってこられるかでイッパイイッパイだった。
ああ、お願いだ。メイド服かチャイナ服程度であってくれ・・・・


「驚いたよ!って剣も扱えたんだな!」
「テメェ・・・勝負させておいてその言い草は・・・・」
「だって、俺剣道をやった事ある程度だと思ってたから。」
「お前・・・ウチの表札見たこと無いのか?」
「え?表札って、家知ってるのに表札なんて見ないよ。」
「・・・・・・・・・・・・・なるほど。」


俺はお前の家の表札に家族全員の名前まであって、引っ越してきたご近所さんに『この勝利と有利っていうのは名前なのかしら〜?』とか言われている事まで知っているのに。
俺はお前にとってその程度だったんだな・・・・・・・


「悲しくて涙でそうだよ・・・・」
「ああ、大将。これで拭いてくださいな。」
「ありがとうヨザック・・・・・・・・何故レース?」
「いやんv乙女はフリフリのレースが大好きなのよぉ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


いかん・・・動き回った後にヨザックのテンションにはついていけねぇ・・・・
黙り込む俺にヨザックはポンポンと肩を叩くと、オカマ口調を改める。


「でも、驚きましたよ。基本は完璧に出来ているし、技一つ一つが早かったし。
 俺の護衛の意味は無い気がしますよ?」
「それは言いすぎ。
 今は一対一で10分しかもたなかったじゃないか。4,5人相手となったら絶対負ける・・・・」
「その年では欲張りすぎですよ。
 それより、どこで習われたんです?」


よく張りって、ウェラー卿は全然息きれてないのに・・・
肉体年齢は二十歳そこそこなんだろ?
激しすぎる差に凹みつつ、ヨザックの肩を借りて何とか立ち上がる。


「実家だよ。」
「実家ぁ!?」


唯一俺の実家を知っているユーリがす頓狂な声を上げる。
何だよ。何がおかしい?


「だって、お前の両親って可愛い系のお母さんに綺麗系のお父さんだろ!?」
「ユーリ。お前は見ために騙されている。」


ああ、如何にいます父上母上。友は恙無いようですが。
恐らく俺がいなくても、猫でも虎でも獅子でも被ってきっと麗しくいらっしゃる事でしょう。
本当は『心も体も強い子を育てる』という平凡な目標の元、非凡な訓練を子供に強いていることなんて世間様にはバレないのでしょう。
たとえ平凡な家庭にはあるはずのない真剣があろうと、家に入る為には色々な仕掛けがあろうと、敷地の一角に道場があろうと、きっと家の外からは分からないでしょうから。


「俺のウチは剣術の家元だったか伝承者だったかで、小さいころから虐待・・・じゃなくて、修行を受けてきたんだよ。」
「あ〜そういえば、表札思い出したよ。
 『朱天御剣本流伝承家 』って書いてあったな。」
「やっと思い出したか。」


溜息をつくと、剣をウェラー卿に返し、自室に戻る事にした。
風呂に入りたい。


「ん?家にいるのは両親だけだよな?」
「ああ、そうだな。」
「じゃあ、小父さんが師範か。」


ああ、何処まで純粋なんだ我が幼馴染。
かわいそうだが、真実を伝えねばなるまい。
・・・・・・・・今までの小さな復讐にもなるし。


「師範は母親だよ。」
「えええええ!!??」


見た目は天使、中身は鬼。
それが俺の母上でございます。
目の前では死んでも言えないけど。