が書庫に立て篭もっていた三日間、グウェンダルは少々壊れていた。 「グウェンダル、この書類なんですが、書式間違っていませんか?」 「あの、閣下・・・兵舎の方に介護施設建築の指令書がきたんですけど・・・?」 「グウェン、あの、書類もう一回書いた気がするんだけど・・・」 「グウェンダル、さっきから手が動いていないけど、インクが滲んでるよ?」 とかイージーミスを大量にしていたり、いきなり周囲を凍りつかせるほど虚空を睨んだかと思うと、すぐにため息をして首を振ったり、部屋の隅でぐるぐると指を動かしながら「いや、しかし・・・でも、いや、だからといって・・・」と接続詞を延々と呟いていたりとかしていた。 挙句の果てには、猛獣のごとく書庫の前をうろついてメイドや見張りの兵士にびびられていた。 コンラートは久しぶりに出てきたと手合わせをした後、連兵場からユーリと帰っていたが、その途中、ユーリが心配そうに顔を曇らせていた。 「グウェンダル大丈夫かなぁ〜?」 深々とため息をつくユーリにコンラッドは舌打ちをしたくなった。 まただ。ここ三日、せっかくユーリと二人きりになれたというのに、話題はのことかグウェンダルの事ばかり。ユーリの心が二人で大半を占められていると思うと、腹が立つ。 いっそこっそり抹殺してしまおうかとも思ったのだが、片やユーリの幼馴染、片やユーリの仕事を肩代わりしている宰相。消すには少々問題があった。 「大丈夫ですよ、ユーリ。様は単にこの国で失敗をしてしまって、焦っているだけですし、グウェンダルは少々混乱しているだけです。」 だから、俺のことだけを考えてくださいと暗に言っているのだが、激鈍のユーリはうんとあっさり頷く。 「いや、実はに関してはあんまり心配していないんだよね。」 「そうなんですか?」 「うん。あいつの事はよく知ってるし、多分この国についてある程度知識を入れないと不安だから、本をあさってたんだと思う。実際闇雲に書庫に行ったんじゃなくて、ギュンターにテキストもらって、ヨザックを口頭辞書がわりに持っていったし。」 「じゃぁ、一体なにが心配なんです?」 思っていた以上にのことを理解しているユーリに驚いた。 「どっちかって言うと、グウェンダルがあんな反応するとは思えなくてさ。」 「ああ、なるほど。」 「グウェンダルならきっと、事務的に受け入れるか、猛反発するかどっちかだと思ったんだけどなぁ・・・」 「確かに、気に入らない相手ならそうするでしょうね。」 「やっぱりコンラッドもそう思う!?」 「ええ。」 これまた鋭いユーリの予想に微笑みながら頷く。 確かに、意にそぐわない相手なら、淡々と破談にする方法を模索したり、政略結婚・身元引受人としてあっさり頷くかどちらかだろう。 「ってことは、やっぱりグウェンダルはが好きってことだよなぁ・・・」 「そうなりますね。」 「でも、動揺してるってことは、きっと自覚はしてないんだろうね。」 「そ、そうですね。」 「しかも、第一印象が悪かったから、グウェンはきっとどう接していいか分からない上、が引きこもっちゃってたから、気が気じゃないんだろうけど、あの態度はねぇ・・・」 「・・・た、態度ですか?」 「うん。俺としては幼馴染が男の人と婚約っていうのでちょっと複雑だけど、相手はグウェンダルだし、いいかなって思うんだよ。本人の気持ちさえよければ、二人には幸せになってほしいなって思うんだ。 でも、って向こうで物凄いモテるのに、全く気づかないから、曖昧な押しじゃだめだと思うんだよね・・・」 「・・・ユーリ。」 「ん?なに?」 「・・・・・・・・・・いえ、何でもありません。」 そう?と可愛らしく首をかしげるユーリには言えなかった。 ユーリ、どうして自分のこと意外だけそんなに鋭いんですか!? っていうか、貴方だって全く気づいていくれてませんし!! 少しは気づいてくれたっていいと思うんですが!! ルッテンベルクの獅子・救国の英雄、ウェラー卿コンラート。 あふれる愛は、愛しい名づけ子にだけは通じていなかった。 |