貴賓室に入ったとき、一瞬にして目を奪われていた。 中にいたのは漆黒の髪をした少年で、伏目がちな瞳の色はわからなかったが、垣間見れる肌の色は少々白いが健康的な色で、色の髪はあの陛下とは違い夜の空のようで、青い軍服によく映えていた。 手にした書物に目線を落としているその横顔は、憂いを含んで儚く、そして何より美しかった。 呆然と彼の姿に目をうばられていると、ふと顔を上げ驚いたように見開いた目は深い青。まるで海の青さを凝縮したような輝きを放っていた。 しかし、正気づくと、彼の存在のおかしさに気づく。 この世界に陛下以外の黒髪はいないだずだ。 それに、正面を向いた彼の着ているものは、ヴォルフラムの私兵の軍服だった。 それで侵入者だと思い切りかかったが、あっさりと避けられたことと、ヨザックの腕の中にいる彼を見て何故か少々混乱していた。だから 「・・・・・・・・・・おしまい?」 怒りの形相でこちらを睨んでいる彼に 「・・・・・・・・・・それだけだ。」 と返してしまっていた。 瞬間頬を襲った痛みと、猛然と捲くし立てる彼の言葉は、頭に全く入ってこなかった。 気がつくと彼は「なんですとぉー!?」と叫んだかと思うと、ヨザックを引きずって部屋を後にしていた。いったいあの細腕のどこにグリエを引きずっていく力があるのだ?陛下すら呆然と扉を見ていた。 「グウェンダル、正気にもどったか?」 「コンラート・・・彼は一体・・・?」 「彼はユーリの幼馴染で・という方だ。 たまたま彼が現れたところに俺がいてね、お連れしたんだ。」 「彼は呼ばれてきたのか?」 「さぁ?そこまでは。眞王廟から何も連絡がないから、事故かもしれないね。」 「・・・・・・そうか。」 痛む頬を撫でながらため息をつくと、ふと陛下が凝視しているのに気づいた。 「どうした、小僧。」 「あのさ、グウェンダル、どうするの?」 「何をだ?」 はっきりしない陛下に眉間にしわが寄る。 どうしてこいつは威厳などがごっそり抜け落ちているのだろうか・・・ 陛下はわたわたと妙な動きをして、顔を真っ赤に染める。 「だ、だからっ・・・その、とここここ婚約しちゃうわけ!?」 「婚約?」 一瞬何を言っているのかわからなかったが、ふと気づいた。 そういえば、右頬がひりひりする。 そういえば、似たような状況を見た覚えがある気がする。 そういえば、コンラートが爽やかに笑っている。 「っっ!」 「あれ、グウェンダル気づいてなかったんですか?」 「え?グウェン分かってなかったの?」 なんと二人の残酷なことか・・・ 魔王よりも魔王っぽい、鬼宰相と呼ばれるフォンヴォルテール卿グウェンダル。 彼は、自分に降りかかる突発事故には弱かった。 |