ついでにマのつくお手伝い! グウェンダルがギュンター達との会議のため席をはずして、俺は一人で渡された書類と格闘していた。 「や〜っぱり土木関係が弱いよなぁ・・・」 ちらほらと混ざっている治水工事や灌漑工事に道路整備の書類を集めてみて首をひねる。 流石に王都周辺はないけど、ほぼすべての領地から出てるもんなぁ・・・ どっかに専門の機関を設置して大々的に国内整備をしないと、問題があると思うんだけど、今土木工事って、誰がやってるんだろう?軍?専門業者?まさか、市民じゃあるまいし・・・ 「ランス、この国の土木工事って、誰がやってるわけ?」 「大体は下っ端の兵士達ですね。」 「下っ端の兵士ねぇ・・・」 専門知識があるとは思えないんだけどな・・・ 「設計とか必要だろ?」 「それは、各地方の領主とかが専門の人間に頼むか、ヴォルテール卿とかクライスト卿とかレベルなら自ら行うこともあるよ。」 「うわぁ・・・」 なんて無茶苦茶な。 ん〜本気で検討しなくちゃまずそうだな。 でも、魔王の幼馴染兼グウェンダルの婚約者ってだけの肩書きの俺が意見しちゃまずいだろうし・・・ グウェンダルから遠回りに?あ〜でも、宰相閣下だから結局は同じか。 グルグルと頭を抱えていると、ガタガタと何かが揺れる音がした。 「風?」 「いや、木は揺れていない。」 俺の横に素早く移動して剣に手をかけながら、油断なく周囲をうかがう。 その間も、ガタガタという音がグウェンダルの机のほうから音がする。 「引き出し・・・?」 「子猫でも入れていらっしゃったのか?」 「だったら、ニャーくらい聞こえててもよかったろ。」 「子猫はめぇーだろ。ニャーはゾモサゴリ竜。」 「だったら・・・」 羊とヤギの立場はどうなるんだよ。 と、言いかけたが、目の前の光景に凍りついた。 ダンッダンッダンッ 引き出しから這い出た女の白い手だけが机を這いずり回ってる・・・! 「こ、こっちの世界には貞子がいるのか!?」 「し、知らないよ!」 「貞子ってあれだ、テレビから這いずり出てくる怨霊みたいなので、ちょうど視聴者はテレビを見ているからリアルで、余計に怖くなるヤツだよ!」 「わかんないって!」 「あ〜〜きっと来る〜きっと来る〜」 「何!?何が来るんだよ!?」 ワタワタと二人してあわてていると、さらにもう一本手が増えた。 「そ、そのサダヨって、剣通じるのか!?」 「サダヨじゃなくて、貞子!知らないよ!」 「じゃ本当にサダオだったらどうすればいいんだよ!?」 「サダオじゃ性別変わってるよ!!」 ああ、俺ビデオ見てないのに!防ぎようがないじゃないかよ!! 混乱が再好調に達したとき、ついに具合のいい場所を見つけたのか、二本の腕がぴたりと止まり、ぐっと力が入るのが妙にはっきりと分かった。 そして、そのままなすすべなく二人で見ている中、それは勢い良く這い出てきた。 「・・・・・あれ?」 「おや。」 予想外の姿に、俺は間抜けな声を上げていた。 引き出しから上半身だけ表したのは貞子と同じく女性ながらも、赤い髪に水色の瞳をしたちょっとキツめの美女。 ああ、そういえば、貞子役の人も本当は美人だったっけ・・・・・・ 呆然と頭の片隅で思い出していた。 「あ〜・・・こんにちわ?」 疑問系ながら、挨拶できた自分に乾杯。 「いかなる時も礼儀を忘れない、男性にしては中々いい心がけができていらっしゃるようですね。」 「ありがとうございます?」 ガタガタと少々苦戦しながらも自力で抜け出してた女性と改めて対面すると、だんだん落ち着いてきた。 そうだよな。貞子がいたらシャレにならないよな。 「はじめまして。です。」 「はじめまして、フォンカーベルニコフ・アニシナです。アニシナとお呼びください。 様のお噂はかねがね聞き及んでおります。このような謁見になってしまい申しわけありません。」 「いや、それは別にいいんですが・・・どうしてグウェンダルの引き出しから?」 激しく疑問なんですが・・・ 引き出しから出てくるのは、未来から来たネコ型ロボットくらいしかないとも思ってたのに・・・ 「良い所にお目をつけになりまました!これは私が開発いたしました『魔動・移動筒』です!これにより私の部屋のクローゼットとグウェンダルの引き出しが亜空間でつながっていて、その中を通ることで、数日かかる移動を数分に縮めることができるのです!!」 「へぇ!凄いですね!!」 タイムマシンというより、潜り抜けロープみたいなもんかな?キテレツでいうなら、天狗のテープ。 古今東西発想は同じなんだなぁ。 目の前で見る理解不能な装置に感動していると、アニシナさんはにんまりと万遍の笑みを浮かべる。 「私の発明の良さが分かるとは、本当に様はすばらしい!それに比べこの国の男どもは、揃いもそろって私の発明の素晴らしさを理解できない上に、名誉な実験にも立ち会うことすら恐れる始末!だからこの国の男どもは駄目なのです!!」 「他にもあるんですか?」 「もちろんです!私はこの魔動器具を開発することで、眞魔国の繁栄に貢献すると日々精進し続けているのですから!」 「じゃぁ、今日も実験するんですか?」 ちょっと見てみたいかも〜 竹コプターとか欲しいな・・・ 「そうでした!様、グウェンダルは何処にいきましたか?」 「グウェンダルですか?ギュンターさんと一緒に会議していると思いますよ?」 「そうですか!それは丁度いい!今日の実験には被験者が二名必要だったのです!! そうとわかれば、善は急げ、御前失礼いたします!!」 「次はゆっくりお話聞かせてくださいね〜」 カッカッカッと颯爽と去っていくアニシナさんを見送ると、感嘆のため息がでる。 「素晴らしい女性だなぁ・・・」 「本気か!?!!」 「本気だけど・・・って、ランス!?」 何、この世の終わりみたいな悲壮な顔してるんだよ!? 「、お前・・・・・・本気であの毒女アニシナ様のことを素晴らしいと思うか?」 「だって、移動筒とか凄いじゃないか。かなりの距離を数分で抜けられるんだぞ?しかも、亜空間を通るってことは外敵の心配もないわけだから、要所に固定口を設けておけば、ユーリだって安心して移動できるじゃないか。」 「お前は、実験体になった人たちの悲惨な末路を知らないから・・・」 ランスの言葉に眉をひそめる。 悲惨な末路って、まさか・・・ 「死んじゃったり、後遺症が残ったりするの?」 「いや、魔力を使い果たしてぶっ倒れたり、変な薬を飲まされて姿が変わったり。」 「仕方ないんじゃないか?魔動って、ぜんぜん研究されていない分野なんだろう?だったら、実験で失敗するのは当たり前だし、死者とか後遺症がないだけ、ずっと凄いことだと思うぞ?」 「・・・・・・そう言われてみれば確かにそうなんだけど・・・でもっ・・・・!」 頭を抱えて苦悩するランスにふと、気になる単語を思い出した。 「さっき、アニシナさんの事を『毒女アニシナ様』っていった?」 「ああ、実はあの毒女シリーズの著者で、主人公だ。」 「主人公?主人公のモデルになった人だろ?」 「いや。主人公。」 「・・・・・・」 あれ、ノンフィクションだったんだ・・・ ってことは、あのかなりえげつない内容はすべて本当なわけで・・・ ふと、嫌な予感がした。 「・・・さっき、アニシナさんグウェンダルを探してたよな。」 「そうだな。」 「・・・被験者って言ってたよな。」 「そうだな。」 「・・・本の中の患者ってさ、具・上樽だったよな。」 「そうだな。」 「・・・グウェンダル?」 「そうだ。」 ああ、何か微妙に胸が痛い。 これが良心の痛みか・・・ 「グウェンダル閣下とアニシナ様は幼馴染で昔から実験につき合わされていたらしい。」 「幼馴染・・・」 ランスの同情した声に俺はふとあることを思いついた。 グウェンダルと幼馴染で『フォン』がついているから十貴族、しかも毒女シリーズで有名な上、おそらくあの性格ならどんどん色々発言をするだろう。 っていことは・・・ 考え込んでいたら、ランスに肩をつかまれて現実に戻る。 「ら、ランス?」 「、いいか?護衛として友人として言わせてくれ。」 「う、うん・・・」 顔がかなりマジなんですけど!? 目とか据わっちゃってるし。 「絶対にアニシナ様からもらった食べ物を食べるな飲むな。怪しげな装置にも近づくな。 間違っても実験に協力はするな。」 「そ、そんな大袈裟な・・・」 その時、遠くから二つの絶叫が轟いた。 「・・・わ、わかった。」 グウェンダル・・・成仏してくれ・・・・・・ |