まったく!グウェンダルなどにはもったいない!











ついでにマのつくお手伝い!
15.5












「グウェンダル!!もちろんここに居ますね!?」



目の前の無駄に大きなドアを開け放つと、奥の机のこそこそと隠れようとしている大きな図体を発見する。



「何をしているのです!?そのように頭を隠しても無駄に高い身長において微々たる量だということにも気付けないとはっ!
まったく、これだから男というものは考えが浅いというのです!」
「な、何しに来たんだアニシナ・・・」



舌打ちをして起き上がったグウェンダルは、青ざめながら目の前で仁王立ちをしているアニシナに問いかける。
ちょっとどもってしまったのは愛嬌だ。
しかし、アニシナは水色の目を爛々と輝かせながらグウェンダルにビシッとやけに分厚い書類を突きつけた。



「貴方と違って無駄なことに使っている時間は無いのです!さっさとこの書類に目を通し、陛下のお許しをいただいて、各領主高官・専門家に根回しをなさい!!」
「・・・・・・」



私の方こそ、無駄なことに使っている時間は無いのだと思ったが、その後のアニシナの言葉に眉をひそめる。
どうやら、いつもの如くの怪しげな実験や設備費用の請求ではないらしい。
彼女から書類を受け取ると、椅子に座ってパラパラと捲っていたが、次第にその目つきが深慮の色を深めていく。



「分かった。早急に陛下に打診して根回しを済ませよう。ただ、時間がかかるぞ。」
「何を分かりきったことを言っているのです。この案件は、現在の外交がある程度落ち着いてからじっくりと行うべきだということは先刻承知です。しかし、その時期が訪れたら真っ先にそして、迅速に行うべき案件です。だからそのときになって慌てるのではなく、事前にできることは全てしておけと言っているのです。」



あっさりと返したアニシナの返事にグウェンダルも深々と頷くと、一つ溜息をつく。



「しかし、中々面白い案件だ。国の行政の下に専門機関を設け、そこで国内の単位・尺を揃え、その上で国内の交通網の整理を行うとは。」



アニシナの持ってきたのは、二つの行政改革案だった。
一つは、行政構造そのもに対する改革案で、大筋は王政はそのままにし、その下に土木・教育・財政・軍事の専門機関を設ける。
そして、各領主の元にそれぞれの専門機関の人材を派遣。国内の水準を一定にしようということだ。
そして、もう一つは規格案で、その新行政体制を敷いた後、最初に単位や尺を一定にし、国内の交通網を整備させることで、比較的短時間で同水準の道を整え、国自体を活性化させようということであった。



「こういうまともな物を持っているなら、そっちを研究したらどうだ・・・」
「魔動研究もこの行政案と同等に価値のあるものです!まったくその価値が分からないとは。
だから貴方は様以下なのです!!」



キリリと眉を吊り上げて怒るアニシナの言葉に、グウェンダルは衝撃を受けた。



「あ、アニシナ!お前に会ったのか!?」
「ええ。様は中々に見所がある少年ですね。私の魔動移動筒に感嘆して、他の道具も見せて欲しいと喜んでおいででした。」
「なにっ!?」



グウェンダルはとアニシナが会っていたことにも、彼がアニシナの恐ろしい実験に興味を持ったことにも衝撃を受け、もう何を言っていいかわからなくなっていた。
真っ青を通り越して、真っ白になったグウェンダルなど全く気にすることなくアニシナは執務机の前で仁王立ちをして淡々と続ける。
ふと、グウェンダルは思った。
もしかしたら、アニシナには色覚異常があるのかもしれない。顔色の悪さに気付かないし、危ない色の薬品を平気な顔で人の口に押し込むのだから。
しかし、所詮思ったところで、解決にはならないが。とも。



「それで様は昨日の昼に私の作品の数々をご覧になったあと、この改革案の相談をなさったのですよ。」
「・・・何?」
「グウェンダル、あなた様に仕事の書類の仕分けを頼んでいるそうですね。そこで様は仕分けしながらそれとなく申請書などを見ているうちに気付かれたのだそうです。」



アニシナは、そのときのの話を思い出した。
彼は、グウェンダルの書類の中で、持ち出ししても問題なさそうな書類と、自分で調べた内容をアニシナに見せて言った。

『現在の街道は殆どが土で、道幅もバラバラみたいですね。そのため通行する荷車はその地方ごとに車軸の幅が微妙に違くて、轍の跡も違います。でも、それじゃぁ、荷車が通りにくく、利益が生じにくい地方では交易が途絶えてしまいがちです。でも、もし全ての道が・・・全てとはいかなくても、少なくとも街道が王都の道のように石畳だったらどうでしょう?国の隅々まで物資や情報が行き交うとは思いませんか?
つまり、国全土を潤したいのであれば、まず血管とも言うべき交通網を整備することが必要だと俺は思うんです。』

『しかし、それは同水準の道を迅速かつ大量に整備しなくてはなりませんね。』

『はい。それについて、もう一つ気付いたことがあるんです。
この国の灌漑・治水・道路工事は各領主の采配でされていますが、それでは領主の負担が大きい上に技術差が激しくなりがちです。
しかも、中央には報告書や必要経費の請求書しか来ないために、監査もしづらいですよね。
そこで、土木・教育・財政の専門機関を王政の下に組織して、そこから常駐技師を派遣したらどうでしょう。
そうすれば、同水準のものが何処でも作れますし、常駐しかも一定期間の任期を与えれば、土地にあった技術が提供でき中央にも各地方の技術が集結し、後進達の役にも立ちます。監査も、各専門機関ごとに小分けすれば、多少はし易いでしょう。
地方行政と中央集権のいいとこ取りですよ。』

真面目に言い切った彼の顔を思い出して、アニシナはふと微笑む。
そのアニシナの微笑みは、自分よりも彼を理解しているようで、グウェンダルは気に入らない。
だから、思わず愚痴ってしまった。



「何故私ではなくアニシナに・・・」
「おや、その程度のことも分からないのですか!!」
「何?」
「彼は陛下の幼馴染で黒髪の持ち主、そんな方が宰相である貴方に行政改革案を提出したらどうなるか予想もつかないとでも?」
「・・・・・・・・・」
「まったく!様の婚約者が貴方など、不釣合いもいいところです!!」



呆れきったアニシナの言葉にぐうの音も出なかった。



「まぁ、今後の“相談”は私が受けていくので、貴方など必要ありませんがね!それではごきげんよう!!!」



アニシナは、『おはーははははは!!!』とちょっと可笑しな高笑いを上げながら、呆然とショックを受けたままのグウェンダルをそのままに、悠然と去っていった。






















赤い悪魔、毒女、マッドサイエンティスト、フォンカーベルニコフ卿アニシナ。
ご寵愛トト、グウェンダルより一歩リード。