ついでにマのつくお手伝い!
14








兵舎でうっかりユーリが俺のことをばらしてしまった為、あえなく10日で退場となってしまったが、俺の成績は思っていたよりもよかったらしい。
時折、ウェラー卿が実戦面で、ギュンターさんが学問面で、そして何故かヴォルフラムが文化?芸術?面で教えてくれることになった。


「いいか!この国には人間どもの国とは比べ物にならないほど、優れた芸術があふれている!
各諸侯の城には、名画や希少な建築物が必ずある。さりげなく飾られている芸術品を見れば、その主の品格や手腕がわかるというものだ!」
「・・・・・・はあ。」
「また、外交の面でも最低限の芸術や文化に対する知識がないと、馬鹿にされるどころか、話をする価値もないとされることすらある!」
「・・・・・・へえ。」
「だから、ユーリのようにへなちょこ魔王には僕のような芸術面で優れた伴侶がふさわしいと言うわけだ!」


どこからそんな話になった。
堂々と脈絡のない話をしてふんぞり返っているヴォルフラムに苦笑を漏らしながら、連れてこられた部屋を見回す。
彼が今日の授業の一環としてつれてきてくれたのは、血盟城にあるヴォルフラムの部屋。
普段はユーリと同じ部屋で寝ているが、仮にも十貴族の一員。専用の部屋も与えられているのだ。
その部屋は、彼の趣味で統一されているらしく、キラキラしい調度といかにも高そうな絵画、置物一つとっても細工が巧妙で手のこんだものだとすぐに分かる。しかし、決して趣味は悪くない。
まぁ、ヴォルフラムらしいというか、何と言うか・・・


「ヴォルフラム、君と芸術の重要性はわかったけど、今日は何をするの?」
「相変わらず、はユーリと違って分かっているな!


いや、単に細かいところに突っ込んでいると、どんどん話がそれていくだけだからなんだけど。
しかし、これもまた余計なことだと、喉の奥に無理やり押し込めて次の言葉を待つ。
ヴォルフラムを相手にした場合、沈黙は金だ。
ああ、俺って成長したなぁ…


「本来なら血盟城の宝物庫で行いたかったが、あそこは勝手に入っては兄上やギュンターに怒られてしまうからな・・・
しかし、幸い僕のビーレフェルト地方は特に芸術に関しては優れている!そこで今日は、僕の部屋にあるもので鑑定大会を行う!」


反射的に、頭の中でラメラメ衣装を着た芸人が壇上で叫んでいた。
出張鑑定 in ヴォルフラムの部屋〜
















そのヴォルフラムとの授業の成果は中々あった。
とりあえず、二つを比べてどちらのほうが価値があるのかという、一騎打ちバトルで良い成績を収められたので、その後の年代当てや作者当て、流派当てなどは間違っても親切に教えてくれた。
でも、部屋の中の物だけ見ているのに、何故だかどんどん何処から沸いて出てくるのか、ものすごい数があってびびった。
この部屋自体が宝物庫なんじゃないか?
流石、お貴族様ってところだな。

そして、今はヴォルフラムと一緒にティータイム。
目の前にあるのは、ついさっきまでやっていた鑑定大会の対象物。
2000年前のデザインで、トホホ調最盛期の作品。しめて金貨200枚なり。
・・・前から少々思っていたのだが、ニアピンでものすごい面白いことになっているのは気のせいだろうか?


「ユーリの子供のころ?」
「そうだ。どんな感じだったんだ?」


どんなって言われてもなぁ・・・
そのころ俺も子供だったんだけど。
ティータイムの話題は我らが魔王陛下の幼少期について。
興味津々なのを隠すようにこちらを見ないヴォルフラムだが、ちらちら見てくる視線が痛い。


「そうだな、まぁ可愛かったよな。」
「それは今もだ。」
「そう、なんだけど・・・」


違う意味で可愛いというか・・・
当時の光景をふと思い出す。

手に青い小さなロリのメイド服を持ってにじり寄ってくる美子さんの後ろには、色違いのピンクのメイド服を着て、きゃっきゃと笑っているユーリがいた。

たん、ゆーちゃんとお揃い!!」
「うん!」


「なに万遍の笑顔で答えてるんだよ、俺〜〜〜〜!!!」
「だ、大丈夫か?
「ふふふふ、大丈夫さ。ちょっとショッパイ過去の1ページを、何の覚悟もなくめくってしまっただけだから・・・」


カタカタ震える手でお茶を飲み干して、深呼吸をする。
ふう、何とか落ち着いた。


「あ〜今のユーリは、元気溌剌・エンジン全開・クルクルまわる表情が可愛い、犬っころタイプだろ?」
「犬…って…まぁ、そんな感じだが。」
「昔のユーリは、天然ボケボケ・一瞬先は闇・ちょっとおバカちんな感じの、可愛いだったんだよ。」
「・・・あまり、変化していないのではないか?」
「いやぁ、見た目とか、しゃべる速度とかものすごい変わったぞ。」


むかしは呂律が回っていなかったが、今ではトルコ行進曲だし。


「まぁ、多少は男らしくなったのかな〜?」
「その割には、児童向けの恐怖小説を一人で読めていないが。」
「児童向けの恐怖小説?」
「ああ、『毒女アニシナ』シリーズだ。
昨日も、寝室で一人で読むのは怖いからと、一緒に読んだほどだぞ。」


それって、ヴォルフラムも一人で読むのは怖かったんじゃないのか?
と物凄い思ったが、やはり言わない方が身のためだと、苦労して言葉を飲み込んだ。


「どんな本なの?」
「何!?お前知らないのか?『毒女アニシナ』シリーズは今一番売れている本だぞ。
児童向けながら、身の毛もよだつような恐ろしさに子供から老人まで幅広く読まれているんだ。
お前も読んでみたほうが良いだろう。」
「へえ?」
「興味あるなら、一巻から貸してやるぞ?もう僕もユーリも読んだからな。」


二人で一冊ってことは、いつも一緒に読んでいるのか。
やっぱり、ヴォルフラムも怖いんじゃ・・・
と思ったが、言わない方が身の(以下略)


「一巻は何ていう題なの?」
「『毒女アニシナと患者の意思』だ。」


………ハリポタ?

























「で、読んでるわけですか。」
「うん。ランスも読んだの?」


根性と実力で俺の護衛官をもぎ取ったランスが、微妙な顔をしてこちらを見ている。


「まぁ、一巻は読みましたが・・・」
「ランス、敬語。」
「へいへい。一巻は読んだけど、それ以降は読んでないな。」
「へぇ?結構面白いのに。」
「面白いのが、逆に不憫で・・・・・・」
「は?」


不憫って、何で?
もしかして、本に感情移入しすぎてとか?
でも、一人称で書かれていないとはいえ、主人公は毒女アニシナだから、ヤラレル側じゃなくてヤル側なのに。


「ともかく、。頼むからグウェンダル閣下の前だけでは読んでやるなよ?」
「はぁ?」


それこそ意味がわからん。
首をかしげていると、相変わらず眉間にしわを寄せたグウェンダルが、大量の書類を持って帰ってきた。


「お帰りグウェンダル。」
「ああ、か。お前もヴォルフラムとの用事は・・・・」


バサバサバサ。


「ちょ、グウェンダル、書類が落ちてる!!」


豪快に書類が散乱したが、グウェンダルの目はテーブルに注がれたまま、微動だにしない。
それどころか、血の気が引いていっているような、脂汗がにじんでいるような・・・


「ほら、グウェンダル書類落としたよ。」
「あ、ああ・・・すまない・・・」


呆然と突っ立っているグウェンダルは、落とした書類を俺に渡されて、初めて我に返ったようだ。
ぎこちなく礼を言うと、テーブルを異様に警戒してギクシャクと机に向かった。


「ど、どうしたのグウェンダル・・・」
「いや、大したことではないのだが・・・」


ロボットの動きで徘徊するグウェンダルは十分大したことだと思うけど。
さすがに、ショックを受けているような人にそんな事をいう俺ではないが、いったい何にショックを受けているのか分からない。
グウェンダルなら、眞魔国に大砲を打ち込まれても冷静に対処するような人だと思ってたからな。こんな奇妙な行動なんて見れるとは思わなかった。


「まぁ、大したことじゃなければいいんだけど。」


変なグウェンダルに首をかしげながら、テーブルに戻ると読みかけの本を開く。
それにしても、この本、タイトルは某海外児童小説にそっくりなくせに、中身はかなりえげつない。
平易な文章の癖に、内容が容赦ないから、逆に恐ろしさが増しているって言うか・・・


「・・・。」
「ん?」


アニシナが患者を診察台に括り付けて、怪しげな薬品を突っ込もうとしたところでグウェンダルの硬い声がした。
ああ、多分いいところだったのに。
今まで俺の読書を邪魔してこなかったグウェンダルにしては珍しいな・・・
しかし、顔を上げると先ほどよりも真っ青になったグウェンダルがこちらを注視していた。


「グウェンダル、やっぱどっか体調とか悪いんじゃないのか?」
「いや・・・そんなことより、。」
「体は大事にしないと。何事も体が資本だって言うじゃんか。」
。」
「・・・何?」


な、何だよ今までにないほど真剣な顔しちゃって・・・


「その本は、まさか・・・」
「え?」


彼の目線が俺から微妙にずれていることに気づいた。


「ああ、コレ?今流行の児童向けのホラー小説だって。ヴォルフラムに借りたんだよ。」
「まさか、名前は・・・」
「『毒女アニシナと患者の意思』だって。・・・やっぱりニアピンだよな。」


もしかして、ハリポタシリーズをユーリが持ち込んでいたとか?
本のタイトルを眺めならが、首をひねる。
でも、ユーリは海外文庫どころか、ルールブック以外読まないからなぁ。勝利も魔法は守備範囲かもしれないけど、魔法の質が違うような・・・
まぁ、いいや。今はそんなことは関係ないだろうし。


「これがどうかし・・・た、みたいだね。」


グウェンダルを振り返ると、青から白い顔色に変化して頭を抱えているグウェンダルが居た。


「読んじゃまずかった?」
「・・・・・・いや、もういい。」
「けど・・・」


ぜんぜん大丈夫って顔じゃないけど?
どうしたものか、と表紙を眺めていたが、グウェンダルの表情を見て、決めた。


「グウェンダル、今日の俺の仕事はいつもどおり?」
「・・・いいのか?」
「グウェンダルにそんな顔させてまで読みたい本じゃないから。」


テーブルの端に追いやった本を振り返りながら、苦笑する。
それに、グウェンダルのホッとした顔を見れるほうか貴重かな?
俺の返答に、ホッと息をついているグウェンダルをみて、そう思った。


「・・・そうか。」
「そうそう。」


いつも通りにもどったグウェンダルから、書類の束を受け取りならが、ふと思いついた。
・・・・・・もしかして、グウェンダルもあの本が怖かったのか?